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いつかきっと幸福な結末  作者: 染井吉野
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第21話 三つの誓い

≪カズヤ≫


 盗賊の報告を終え、捕縛した生き残りを駐屯地の警備隊に引き渡した俺達は、もとの村まで商隊の馬車で送ってもらった。

 商隊にとっては、目的地の逆方向となるのだが。


「このくらいは、させてください」


 商家の奥方に強く勧められて、ありがたく馬車に揺られる事にした。


 ソフィと初チューをした俺は、そのまま二回戦に突入し、押し倒すつもりフルスロットルだったのだが、アホたれアーロンに、これ以上ないような良い雰囲気をぶち壊され、延々と続く泥沼のような宴会に引き戻されてしまった。


 酔っぱらって、ぐでんぐでんになったアリスに歌をせがまれて、リュートを取り出し何曲か歌い、最後に『異世界全国酒飲み音頭』をこちらの世界の言葉に翻訳しながら歌ったところまでは覚えている。


 俺のかき鳴らすリュートの弦が響き渡り、テーブルの上のお椀をフォークとナイフで叩く即席のパーカッション部隊、調子に乗った兵隊が軍隊ラッパを持ち出して吹き鳴らす。

 テーブルに突っ伏していた兵隊もゾンビのようにユラユラと起き上がり、上着を脱ぎ、脱いだ服を振り回して奇声を上げていた。

 もちろん、トップレスダンサー部隊には女戦士も混じっていた。


「さ~、それではバルト王国を飲み歩いて行きましょう!まずはマラガから!」


 そこから先は記憶にない。

 ていうか、マラガ以外を知らない俺は、いったい何を歌ったのだろうか?


 起床ラッパの甲高い音に叩き起こされた俺が、二日酔いの頭を抱えてフラフラしながら、外の井戸で顔を洗おうと思い、兵舎から出て行くと、練兵場で兵隊達が朝の体操をしている。


 あいつら、不死身の戦士か?


 ふと気が付くと、見覚えのある踊りを踊っていた。


 高圧線音頭だった。

(知らないひとは、どっかの動画サイトで、『電○音頭』を見てね)


「ア、木の枝に!アドシタ、ハーピーが三羽止まってた!アソーレ、それを弓師が弓矢で打ってサ!」


 見事な合いの手を入れながら、声を揃えてがなっている。

 どっかのバカ転生者が、こっちの世界の人間に余計な事教えやがったな、そう思いながら、兵隊のキレッキレな光ケーブル線音頭を唖然として見ていると。


「も~、変な事教えないでよね、カズヤ」


 ソフィがそう文句を言いながら、俺の横を通り過ぎて行った。


 その後、この踊りは兵隊の宴会芸の定番として、王国中に拡散していった。

 無垢な真っ白い世界に、一滴の黒インキを垂らしてしまったバカは俺だった。


 あいつ等とは、もう二度と飲まない。

 底無しすぎる。

 元の世界の職場の宴会を思い出す。


 俺自身は営業半分、現場半分の立場であったが、会社そのものが肉体労働よりの仕事場であったので、覚悟はしていた。

 入社して、初めての宴会、ビンビールをグラスに注いで乾杯。

 一人当たりビン一本を消費すると。


「お姉さん、ポン酒五本!」


 この辺までは、どこの会社でも普通の流れだろう。

 しかし、出てきたのは、お銚子で五本ではなく、なんと一升瓶で五本であった。

 それを当然の如く、先程までビールが入っていたグラスに溢れんばかりに注ぎ始めると、何も言わずにグイグイやりだしたのだ。

 俺はその会社で、『吐く前に吐く』という技術を真っ先に覚えた。


 居酒屋、居酒屋、キャバクラ、風俗、ラーメン

 これが通常の宴会のセットメニューなのには、閉口した。

 お酒は、適量を美味しく飲むに限る。

 ちなみに、初風俗もこの流れで経験した。


 村へと出発した馬車を、いつまでも追いかけてくる筋肉バカを振り切って、一路村へと急ぐ。

 お前らが追いかけるのは、ソフィとアリスが乗った馬車では無く、魔物と野盗のはずだ。

 さっさと巡回にでも行け。


 揺れる馬車の中、食事の為の休憩、俺はずっと二度目のチューを狙い、ソフィとふたりっきりになれる機会を伺っていたのだが、何故か、アリスが俺から離れてくれなかった。

 いつも以上に、手を握ったり、抱き着いて来たりするのは嬉しいのだが、どことなく緊張感が漂い、監視されているような気がする。

 アリスの眼が、獲物を狙う、野獣のようになっている気がする。

 どうしたのだろう?

 気のせいだよな?


 妙な緊張感に冷や汗をかき続けた馬車の旅が終わり、村の手前で商隊とお別れした。

 同行していた村人と旅の疲れを労いながら、腕を回して、肩こりをほぐしながら村の中へと歩いていくと、ひょこひょこと村長が出てきて。


「おかえり、あんたがたを待っている人がいるよ」


 誰だろ?

 不思議に思いながら村長の家の離れへと入って行く。

 部屋の中のベッドには、ひとりの少女が寝かされ、それを三人の女性冒険者が深刻な顔つきで囲んでいた。


「間に合ってよかった、初めて会うひとにいきなり厚かましいお願いなんですが、この子に回復魔法をかけて頂きたいんです。どうかお願いします」


 代表者らしき、軽装備をしたショートカットの高校生くらいの可愛らしい女の子が深々と頭を下げると、他の二人も続いて頭を下げてくる。


「アリス、診てやってくれるか?」


 装備、口調からすると転生者のようだ。

 三人とも黙って頭を下げ続けている様子から、相当切迫した事態らしい。


「うん」


 アリスが、ベッドに横たわる女の子に掛けられている毛布をめくると、身体のあちこちに血が滲んだ包帯が巻かれている。

 とくに腹部の状態はひどく、包帯が真っ赤を通り越して黒に染まり、血の匂いとわずかな腐臭が漂う。

 女の子の顔色は青白いどころか、陶器のように真っ白で、呼吸をしているのが不思議なくらいだった。

 完全に意識を失い、苦しげな表情も、痛みを堪えるうめき声すら何もないのが、事態の重さを感じさせる。


「とにかく、やってみるね」


 アリスはそう言うが、声に力が無い。


「アリス、『三つの誓い』は知っているわね?」


 ソフィの険しい声がする。


「うん、知ってる」


 アリスがベッドの女の子に向いたまま答える。


「なら、いいわ」


 『三つの誓い』?何の事だ?


 戸惑う俺をよそに、アリスが魔力を活性化して集中し、女の子の腹部へと流し込みはじめる。

 アリスの額から汗が流れ、アリスの顔が蒼くなるほどの魔力が送り込まれていくが、いっこうに女の子の症状には変化が起こらない。

 アリスがふらりとよろけ、床に膝をついた。

 俺はあわてて駆け寄り、アリスの肩を支える。


「だいじょうぶ、もう一度・・・」


 どう見ても、だいじょうぶそうには見えない。

 アリスが俺に支えられながら立ち上がり、もう一度意識を集中しようとすると。


「だめよ!カズヤ、アリス、ちょっとこっちへ来て」


 ソフィの言葉に、血の気を失って蒼い顔をしているアリスの肩を抱きながら、不安そうに見送る三人を部屋に残し、厳しい顔をしたソフィに続いて外に出る。

 部屋の外に置いてあった木箱に、まだフラフラしているアリスを座らせる。


「アリス、『三つの誓い』を言ってみなさい」


 地面に膝を付き、しゃがんだソフィがアリスの眼を見ながら言う。

 またそれだ、いったい何なんだ?


「リシテアの道を進む者に声をかけてはいけない」


「リシテアの門をくぐる者を引き留めてはいけない」


「リシテアの国の住人を連れ戻してはいけない」


 アリスが下を向いて答える。


「それじゃあ、彼女の今の状態は何?」


「リシテアの道を進む者」


 そう力無く答えるアリスの表情は、俺からは見えない。


「わかっているのね、カズヤは知らないようだから説明してあげる。リシテアの道を進む者は回復の見込みが無い者、門をくぐる者は死亡したばかりの者。住人は時間が経って魂が散ってしまった者、このみっつに当てはまる患者に治療魔法を使ってはいけないの。出来る事は、痛みを和らげたり、楽に逝かせてあげることだけ。治療魔法はすべてを救えるわけじゃないの、限界があるの。無理をして魔力を集中しても、底の無い井戸に水を注ぎ続けるようなもので、相手に魔力を引っ張られて後戻り出来なくなり、自分の魔力を吸い尽くされて、あげくに生命力も持って行かれてしまうかもしれないの、ダメなものはダメなのよ」


 強い口調とは裏腹に、言ったソフィが泣き出しそうな顔をしている。


「ありがとう、ごめん、もういいよ、わかってたんだ。村のおじいさんから、腕の良い治療師が、もうすぐ戻ってくるかもしれないって聞いて、もしかしたらと思って、諦めきれなくて・・・」


 いつの間にか、さっきの転生者らしきショートカットの女の子が部屋のドアを開けて立っていた。


「転生者だよな?」


 振り向いて、女の子に尋ねる。


「うん」


 俺が聞くと、女の子がコクリと頷く。


「トマトジュースは?」


「使った。レモンもオレンジジュースも全部使った」


 トマトだとか、オレンジジュースだとか、ふざけている訳じゃない。

 もとの世界のゲームの中で、下級、中級、上級回復剤を、その色に見立てて、レモン、オレンジ、トマトジュースとゲームの中で呼んでいたのだ。

 回復効果が高いほど、赤く濃くなっていく。


「これでも、まだマシになったんだ。魔物にお腹をごっそり持っていかれちゃって、どうしようもなかったんだ」


 こぼれ落ちた涙を、服の袖でぐしぐしとやりながら、耐えている。


「そうか・・・」


「ありがとう、イヤな思いをさせちゃってゴメンね、後は自分達で何とかします」


 女の子は下を向いたまま、声を絞り出している。


「なんとかって・・・」


「せめて、楽にさせてあげないと、彼女はボクの仲間で、これから先は僕の仕事だから」


「でも、カズヤと同調するならできるかも」


 アリスの声がした。


「アリス!」


 ソフィが叫ぶ。


「あの時のソフィの風魔法みたいに、カズヤと同調して、カズヤの魔力をもらえれば出来るかも」


 アリスがぽつりぽつりと声に出す。


「アリス!冗談では済まないのよ?失敗するとアリスとカズヤ、二人とも死んでしまうかもしれないのよ?」


「でも・・・」


「アリス・・・、カズヤと同調したくて、そんな事言っているんじゃないでしょうね?」

 ソフィの眼が細くなる。


「違う!私も役に立ちたいの!カズヤとソフィの後ろにくっついているだけじゃイヤなの!私だって!私だって・・・、何かしたいの・・・」

 

 叫ぶアリスの声が、少しずつ細くなっていく。

 どうすればいいんだろう、ソフィのいう事も分かるし、アリスの気持ちにも応えてやりたい。


「そんな・・・、アリスは、ちゃんとやれているわよ、アリスがいるから、私達も安心して戦えているのよ」


「それだけじゃなくて、もっと、もっと・・・」


 言葉に詰まった、アリスが俺に助けを求めるように見てくる。

 俺達のやり取りを、不安そうに黙って聞いている冒険者の女の子には気の毒だが、さっき会ったばかりの冒険者に、不安要素の大きい、命がけの人助けをするほど俺の正義感も勇気も大きくない。

 でも・・・、アリスはさっき会ったばかりじゃなくて、この世界に来た時から、ずっと一緒だったんだよなあ。


「やってみようよ、ソフィ」


 つい、勢いで言っちゃった。


「カズヤ、私の話をちゃんと聞いていたの?」


 ソフィが、イライラと逆上しそうになるのを押さえながら俺に言う。


「俺だって、自分の命を犠牲にする気はないよ、だめそうなら途中でちゃんと諦めて、俺がアリスを引き剥がすよ。優先順位はわかっている。大事なのは他人の命より自分の命とアリスの命、わかっている。でも、もう一度だけやってみよう」


 黙ったまま、ソフィの眼が何かを探すように動き、ソフィの口が何か言いだそうとしてやめるのを何度か繰り返す。

 何か言おうとして言葉を探すが、見つからなくて、もどかしそうに。


「ソフィ、お願い、無理はしない、もう一回だけやらせて」


 アリスがソフィの手を取って言う。


「・・・・・・、あの時、止めておけば良かったなんて、絶対私に思わせないでよね。一回だけよ。そこのあなたも、上手くいかなくても、それっきりにできる?」


「はい、全てをおまかせします」


 転生者の女の子が、頭を下げて応えると、外に出て来ていた他の二人も黙って頭を下げた。


「まだよ、いくらなんでも、ぶっつけ本番なんて絶対無理、今日一日、カズヤとアリスは同調の練習をしなさい。そして夜はしっかり休んで魔力を回復させる。明日の朝まで、あの女の子がもたなかったら、その時はあきらめる。それでもいい?」


 ソフィが口早に言う。


「うん、それでいい」


 俺とアリスが頷く。


「お願いします」


 転生者の三人も、再度、頭を深く下げた。


「わかったわ、時間が無いから、すぐにはじめましょう」


 ありがとう、ソフィ」


「ありがとうなんて言わないでよ、私・・・、私は・・・」


「うん、わかってる。俺とアリスの為に、ワザと言いづらい事を言ってくれたんだよね。ありがとう」


 俺がソフィの手を取って言うと、溜め込んでいたものが決壊したかのように、俺の胸に顔を押し付けて泣き始めてしまった。

 気の済むまで、泣き続けた後、俺の服に涙をこすりつけて、服をぐしゃぐしゃにすると、俺の胸を軽く叩いた。


「さあ、始めるわよ」


 しかし、アリスとの同調は予想外にはかどらなかった。

 同調が波に乗ってくると、アリスがべったりと俺に全てを委ねてしまって、いつも魔力が暴走しそうになってしまう。


「アリス、しっかり自分を持って、アリスが治療するのよ、カズヤは手伝うだけなんだから、それじゃ失敗するわよ!」


「うん、ごめん」


 俺の両手に重ねられたアリスの手が、滑って離れそうになるくらい、お互いの汗で濡れている。

 アリスも必死にやっているが、難しく考え始めると、魔力の流れが余計に不安定になって失敗も多くなった。


「・・・・・・、もう一度、初めからゆっくりやって」


 身体の中でぐるぐると回転する魔力の制御に疲弊して、村の乾いた地面に何度もへたりこみ、息を整え、再度魔力を回転させるのを、数えきれないほど繰り返した。


 村の向こうに陽が沈みはじめ、冷たい夜風が畑の向こうから流れてくる。立っているのも辛くなると、余計な力が抜けて上手くいくようになり、ぎりぎり、なんとか形にすることが出来た。


 最後に、村はずれに立つ木に向かって、いつものアリスの氷の杭に、俺の魔力を同調し上乗せして打ってみた。

 お世辞にも百点とは言えない仕上がりであったが、今日はこれ以上やっても逆効果にしかならないだろう。

 もう、魔力も体力も二人とも限界であった。

 女の子の冒険者が用意してくれた夕食を済ませると、食料倉庫の中で明日に備えて早めに眠った。


 朝になって、まだ昨日の疲れが後を引く身体に、頭から水を被って、なんとか奮い立たせる。

 言葉少なに、形だけの朝食を手早く摂り、離れのベッドに眠る女の子のところに向かう。

 離れのドアをノックして中に入る。


「お願いします」


 ショートカットの女の子を中心にして、三人が深々と頭を下げてくる。


 俺とアリスでベッドの両側に立って向かい合い、女の子の上で両手を繋いで、ふたりして深呼吸をする。


「カズヤ、いい?」


 背筋を真っ直ぐに伸ばして、アリスが俺に言う。


「いつでも」


 俺が頷くと、アリスが目を閉じて、魔力の活性化を始めた。


 アリスの身体で魔力が膨らみ、回転し始める。

 ソフィとアリスでは、魔力の質がまったく違っていた。

 ソフィは森の中の葉を揺らし、草原の中を駆け抜けて行く風の音色。

 アリスは山の谷間の渓流に顔を出す岩をかわしながら、麓を目指す水の流れの音。


 アリスと繋いだ手から、寄せては引いて返すような魔力のうねりを感じ、波の音のひとつひとつをより分けながら、少しずつ、少しずつ、慎重に魔力を重ねていく。


 アリスのイメージが俺の中にも伝わってくる。

 もとの健康な身体、流れる血液が身体の隅々へと力を運ぶ。

 女の子のわずかに残っている生きる力を魔力で後押しする。


 アリスと俺から流れ出し、合流した魔力が、繋いだ両手の間から、ベッドの上で身じろぎもせずに横たわる女の子の中に流れ込んでいく、


「アリス、もうちょっとだ、がんばって」


 アリスの額に汗の玉が浮かぶ。


「うん」


 俺とアリスの中の魔力が共鳴し、響き渡るのを感じると、あとはアリスに任せる。


「アリス、いいよ、思いっきりやれ!」


「テティスの光よ!命よ!その輝きを取り戻せ!」


 アリスの叫びと共に、女の子に注ぎ込まれた魔力が解放され、白い光となって溢れ出した。


 わずかな静寂の後に、アリスが俺から手を離し、女の子の顔の上に自分の顔を近づけて見つめる。

 顔を離し、手を握りしめて拳をつくり、振り上げる。

 アリスが女の子の胸を拳で叩きつけた。

 喉の奥から濁った音が聞こえて、口から血が溢れ出した。

 顔と首を伝って、ベッドのシーツを赤く染めて行く。


「カズヤ、吸い出してあげて」


 アリスに指示されるままに、女の子の身体を横に向かせる。

 口を重ねて喉の奥に溜まった血を吸い出しては、床に捨てる。

 部屋の床に真っ赤な水溜りが出来上がる頃、女の子が激しく咳き込んで、今までの分を取り戻すかのように激しく呼吸をはじめた。

 依然として苦しそうではあるが、顔に赤みが差し、苦しいなりに表情がでるようになった。

 その後、同じ行為を何度か繰り返すと、やっと落ち着いて、安定した寝息が聞こえてきた。

 息を殺して見守っていた周りの三人の女の子達からも、安堵の溜息がもれる。


「たぶん、もうだいじょうぶ」


 無理に笑顔を作っているが、ベッドの女の子よりも辛そうな顔をしているアリス。

 抱え上げて空いている隣のベッドに寝かしつけた。


 俺も魔力を出しきって体に力が入らない。

 ソフィに支えられながらフラフラと外に出る。

 表の井戸で真っ赤になった顔と上着を洗い部屋に戻った。

 ベッドの上で寝息をたてるアリスと女の子を見ると、安心して床に座り込み、そのまま眠り込んでしまった。









 ≪アリス≫


 ベッドの上で目を覚ますと、もう辺りは暗くなっていた。

 私の足元では、ベッドの足に背をもたせながらカズヤが、いびきを鳴らしながら眠り込んでいた。

 隣のベッドでは、ケガをしていた女の子が静かに寝息を立てている。

 よかった、持ち直したようだ。

 仲間の冒険者も、ベッドの傍の床の上で、横になって眠っていた。

 カズヤと女の子たちを起こさないように、そっと毛布を掛けてあげる。

 足音を立てないように静かに戸を開けて外に出た。


 ソフィに言わなきゃいけない事がある。

 ソフィは部屋のすぐ外の木箱に腰かけて、空の三日月を見上げていた。

 私に気付いた、ソフィがこちらに顔を向ける。


「ソフィ、ごめんなさい」


「もういいわよ、アリス、気にしてないから、上手くいって良かったわ」


 ソフィが笑顔で答えてくれる。


「ううん、そうじゃなくて、ソフィに嘘ついてたの」


「何を?」


「ソフィとカズヤが、いつの間にか仲良くなっていて、不安だったの、ひとりだけ置いて行かれそうで、私も何かしなくちゃって思って・・・」


 ソフィに本当の事を伝えようとするけれど、うまく言葉が出てこない。


「そう・・・」


「ちょっと心配になって、何て言うか・・・、ゴメンね」


「もういいわ、そんな事より、カズヤの何処がそんなに好きなの?」


 ソフィが立ち上がって、私を抱きしめながら聞いてきた。


「全部!」


「そっか、全部か・・・」


「ソフィは?」


「私は・・・、って言わないわよ、秘密」


「ずるい!でも好きなんだよね?」


「うん、そうね、私も好きよ」


「良かった・・・」


「アリスのことも好きよ」


「それなら、カズヤとソフィとアリス、ずっと一緒にいれるよね」


「そうね、そうだといいわね」


「絶対だよ」


「それなら、早くカズヤのところに行かないと、さっきの女の子達に囲まれて鼻の下を伸ばしているわよ」


 いつの間にか目を覚ましたカズヤと女の子達の声が聞こえてくる。


「も~、カズヤ~」


 カズヤに抱き付き、今度こそカズヤの唇を奪う為に私は走る。


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