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いつかきっと幸福な結末  作者: 染井吉野
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第18話 岩山の駐屯地

 PK、プレイヤーキラー、PKクラン、プレイヤーキルクラン。

 ゲーム内に置いて、プレイヤーを攻撃し、HPをゼロに降下させ、キャラクターを死亡状態にする行為を楽しむ個人、又は団体。


 ネットゲームには、PvP、プレイヤー対プレイヤー、操作キャラクラー同士の戦闘がゲーム上の設定、又はそれ自体がゲームのメインコンテンツとして可能になっているものがある。


 効率的な狩場を独占する為、ゲーム上区分けされた領地を維持する為、高価なアイテムを奪うため、いくつかの勢力にまとまり戦争が行われる。

 いろいろと建前はあるが、詰まる所、利権をめぐるプレイヤー同士の縄張り争いである。

 プレイヤー同士で攻撃しあう行為、死亡状態に至る結果は同じであるが、彼らはPKとは呼ばれない。


 武闘派、又は戦争クランと呼ばれている。

 目的は、ゲーム内における限られた資源、リソースを他者より多く獲得する事。

 手段は、他者への武力行為、他勢力への敵対行為。

 この戦争状態は、おおむねではあるが、双方同意によるものであり、ゲームを楽しむ余地はある。


『怠惰な黒山羊』は、アリオスクロニクルのゲームにおいて、悪質なPKクランとして名を知られていた。

 他者を一方的に攻撃し優越感、全能感を得ること自体が目的であり、抵抗は一切認めず、反撃されようものなら、子供の様に逆上して喚きたてる。


 だが、ゲーム内で一方的にキャラクターを殺害しても、わずかに経験値を減らすだけで装備品のドロップはしないし、町の教会で復活するだけだ。

 それだけでは充分な満足感を得られなくなった『怠惰な黒山羊』は、さらに行為をエスカレートさせる。


 特定の個人、団体をつけ狙い、果てしなく繰り返される襲撃。

 ゲーム内でのメール機能を利用した言葉の暴力、外部掲示板での誹謗中傷、対象の友人さえも巻き込んだ脅迫。

 ネットゲームの匿名性を最大限に利用した悪質なストーカー行為で、プレイヤーを精神的に追い込み、ゲームそのものから撤退させる事を至上の喜びとしていた。


 しかし、不正ツールの利用や脅迫行為が発覚し、遅まきながら腰を上げた運営によって、幹部を含む約半数のプレイヤーが、アカウント停止の処分を受けクランは強制解散となった。

 残ったメンバーも『怠惰な黒山羊』という集団の後ろ盾を失い、追うものから追われるものへと逆の立場になり、その旗を背負ったキャラクターはゲームから姿を消していった。


 ゲーム時代、俺自身のキャラクターもこの『怠惰な黒山羊』から執拗に追い回されたし、ゲーム内での友人の中には、大事に育ててきたキャラクターを抹消したり、ゲームその物に嫌気が差し。


「今までありがとう、もう辞めます」


 引き留める間も無く、短いチャットを残してログアウトしていく者も少なくなかった。


 俺は盗賊団の内通者であった男の口から『怠惰な黒山羊』の名前を聞いて、心の芯が瞬く間に冷えていくのが分かった。

 一時の感情に流されて男の首を跳ねたのでは無い。

 明確に殺意を抱き、確固たる意思で男の首を狙った。

 男は思わぬ反撃受け、窮地に立たされ、『怠惰な黒山羊』の名前を口にした。

 俺が男の背後に存在する集団の報復を恐れて、それ以上の攻撃を手控えるとでも思ったのであろう。


 寝込みを狙って襲い、状況が不利になると親の名前をチラつかせて逃げる。

 剣と魔法が実在する世界で、その力の行使の結果、生から死へと戻る事の出来ない状態変化が起きる。

 こちらの世界で『怠惰な黒山羊』が、本当に組織として実在するかどうかは分からないが、他人にだけ 自己の我がままを押し付け、同じリスクを背負う覚悟の無い人間ばかりの集団など、気にもならなかった。








 盗賊団の襲撃から一夜が明けた。

 商隊と村の代表者に同行し、村からおよそ二日の場所にある街道警備兵の駐屯地へと捕縛した三名の生き残りを引き渡しに行く道の途中である。


 商隊の母娘と一緒に幌馬車の中で揺られていたが、退屈と尻の痛さに耐えかねて御者の隣へと場所を移した。

 ソフィとアリスと母娘は、王都での最近の流行の服装や新作スイーツなどの話に興じている。

 俺は切り立った岩山と遠くへと続く草原を左右に置き、その上を流れる白い雲を眺めながらぼんやりと昨日の夜の事を思い出していた。


 不可抗力ではあったが、初めて人を殺した。

 まったく後悔を覚えていないかと言えば嘘になるが、それほど大きな位置を占めていないのも事実であった。

 それよりも、あの時、ひどく冷静に決断し、ためらい無く男の首を跳ね飛ばした自分の心の落ち着きの有り様に戸惑っていた。

 自分の心の中を深く潜ったら、ひっそりと底に淀む不透明な黒い液体を見つけたような気がする。

 それがいつの日か、大きく育ち、心の表面へと浮かび上がって来るような気がして怖かった。


 あれやこれやと考えながら道中何事もなく、岩山の間に作られた駐屯地へと辿り着く。

入口正面に先を削って尖らせた木の柵が谷間を塞ぐように建てられている。

 柵の内側には右と左に物見櫓がそびえ立ち、弓を携えた監視兵が俺達を見下ろしていた。

接合部分をきしませながら、大きく音を立てて開いていく門の中へと馬車を乗り入れて行く。


 門をくぐり終えた先の広場では、筋肉で固太りしたスキンヘッドの中年男性が腕を組み仁王立ちで待っていた。

 全盛期の千代の富士を思わせる様な堂々たる体格で、手入れの行き届いた皮のチョッキが発達した筋肉で膨らみ、今にも弾け飛びそうだ。

 些細な事でも見逃さないような鋭い目で俺達を睨みつけているが、幌馬車の後ろからソフィが姿を現すと、とたんに表情を崩し、目尻を下げて走り寄ってきた。


「ソフィア殿ではありませんか!お久しぶりです、ご健勝そうでなによりですなあ。相変わらずお美しい!今日はどうしてこちらに?ほほう、盗賊を討伐されましたか、また腕を上げられましたかな、流石ですなあ!」


 練兵場に響き渡るような野太い声で、まくし立てている。

 こんな辺鄙な場所でも、ソフィアは有名人のようだ。


「して、こちらの方は?ふむふむ、ソフィア殿の仲間ですか、さぞ優秀な冒険者でありましょうな、ワシはこの駐屯地の部隊長をやっておるガレスと申します。この度は我が警備隊の手が行き届かず、ご迷惑をお掛け致しましたな、改めてお礼を申し上げる」


 隊長さんに挨拶されているうちに、兵舎の中からワラワラと数十人のゴツイ兵士達が現れる。

「ソフィアさん」「ソフィア先生」「ソフィア様」と口々に叫びあっという間に取り囲まれてしまった。


 まるで田舎町に突如現れたアイドルというか、前線の基地に慰問に来た有名芸能人のような反応である。


「ソフィア先生、サインくださーい」


「ソフィアさん、握手してくださーい」


「ソフィア先生、こっちむいてー」


 まあ、こんな場所では娯楽も少なかろうと思いながら、筋肉ダルマ達のだみ声に耳を傾ける。


「ソフィアさん、いつも夢の中でお世話になってまーす」


 うん、それくらいは許してやろうか、気持ちはわかるよ。


「ソフィア先生、愛してまーす。下僕にしてくださーい」


 言うだけならタダだしな。


「ソフィア様、どうか汚い私めをきつく罵ってくださーい」


 おおっとっと、それはどうかな?イエローカードだぞ?


「ソフィア様、そのおみ足で、俺を踏みつけてください!できれば強めに!股間のあたりを!」


 アウトだ!退場だ!何を言っとるんだ、こいつらは!


 兵士の中には、鍛えられた大胸筋に支えられ、見事に上を向いた胸部を持ち、タンクトップのわきからはみ出している横乳を弾ませながら歓声を上げている数人の女戦士も混じっていた。


「ソフィア様、お姉様と呼ばせてください!」


 うん、このくらいなら、いいんじゃないかな。


「ソフィア様、ワタシの下着と交換してください!」


 ナニと何を交換するの?


「ソフィア様、私の初めてを受け取ってください!」


 だから、初めてのナニ?

 ソフィの魅力には、男も女も関係無しだな。

 ほとんど狂乱と言っていいような叫び声が、荒涼とした岩山の中に響いている。

 これは、アレだな、最前列でロープ張って、体で暴徒を止める警備員が必要なレベルだ。


 こいつらが街道の警備兵で大丈夫なの?

 だから野盗がウロウロするんでないの?

 こんな事していてお前らヒマなの?

 ソフィを囲んでないで、巡回にでも行ったらどうなの?


 やがて、事件の顛末を記録する為に隊長とソフィと商家の母親が兵舎の中へ入る事となった。

人込みの向こうから、ソフィが俺に向かって叫ぶ。


「カズヤ、ちょっと行ってくるから待っていてね!」


 手を振りながら、声を掛けてくるので、俺も手を上げて振りかえす。


 今までの喧騒がウソだったかのように辺りが静かになった。

 風が岩山の間を流れる音と、遠くで鳴くカラスの声だけが聞こえてくる。

 こちらへ首だけ動かした屈強な兵士たちのギラギラした視線が、俺の挙げた手に集中する。

 さて、この振り上げた手をどうしたらいいんだろう。

 嫉妬の目を一身に浴びて、背中に大量の汗を流しながら固まっていたが、さすがに辛くなってきた。

手をグーパーとにぎにぎしながらゆっくりと下ろす。

「チッ!」という幾つもの舌打ちが聞こえ、こちらを向いていた兵士達が向き直り、ソフィの背中に視線を戻した。

 怖い怖い。


 ソフィが兵舎の中へと消えて目標を見失った野獣共は、アリスと商家の娘さんに目をつけたようだ。

 俺はアリスと一緒に立っていたのだが、押し寄せる男達によって、あっという間に群れの輪の外に押し出されてしまい、練兵場の端にぽつねんと独り置き去りにされてしまった。


「お嬢さんお名前は!?」


「え、えぇっと、アリスです」


「ご職業は何ですか?」


「あ、あの、パーティで回復職をやってます。攻撃魔法もちょっと」


「おお~、すばらしい!まるで天使のようだ!」


「あ、ありがとうございます」


「アリスちゃん、俺のほっぺたを張り叩いてください!」


「え、え?叩くの?」


「そう!ここを!強く!さあ!さあ!!」


「そ、そんなこと言われても、あの、その・・・」


 う~ん、どうすればいいんかいな?

 変態達に囲まれて、もみくちゃにされているアリスを助け出したいのだが・・・。


「あの、あの、ちょっと・・・」


 アリスの怯えた声が聞こえてくる。

 しょうがない、無事で済むかワカランがやるだけやってみるか。

 覚悟を決めて、汗臭い男達の肉体を掻き分けて中に入ろうとすると。


「いい加減にして!通してください!」


 本気で怒ったアリスの声が聞こえて、取り囲んでいた男達が慌てて動く。

 俺とアリスの間に道が開けた。


「カズヤ!」


 アリスが走って俺に飛びつき、背中に両手を回し抱き着いてきた。

 まずい、マズイよアリスさん!

 この状況で、その行動はとってもマズイっす!

 ホラ!みんな見てるし!目つきが座ってるし!

 俺はアリスに抱き着かれながら、両手を上げたまま、引きつった笑いを顔に張り付かせて、降伏の意思を示してみたのだが。


「君は、ソフィアさんとアリスさんの仲間なんだってね?」


 群れの中からひとりの兵士が進み出て、乾いた作り笑顔で俺に話しかけてきた。


「は、はあ、一応・・・」


「盗賊も君が最初に気付いて、片付けたんだってね?」


「いえ、俺が相手にしたのはひとりだけで・・・」


 この事態を上手く収めようとして、冷や汗をかきながら言葉を選んでいると、アリスが俺に抱き着いたまま兵士の方を振り向いて。


「そうよ!カズヤはすごいんだから!すっごく強いんだから!」


 アリスさん!なんてことを言いだすの!空気を読んで!お願い!

 今はアリスの好意が重すぎる!


「そうか、すっごく強いのか・・・」


 ほら!作り笑顔の口元がピクピクしてるし!


「いや、それは誇張というか何というか、たいした事無いっていうか、初心者っていうか・・・」


 どうにか!どうにかして、この場を切り抜けないと!


「あたりまえよ!す~~っごく強いんだから!」


 アリスがさらに、力を込め胸を押し付けて熱烈に抱き着いてくる。

 アリスさん!そういうのはふたりっきりの時にして!

 今はアリスの愛が痛すぎる!

 

「少しでいいんだ、訓練の相手をしてくれないかな?こんな田舎にずっといると腕が鈍ってしまってね、いいだろう?」


 いつの間にか、兵隊達に周りを囲まれてしまって、逃げようがない。

 アリスさん、その行動を火に油を注ぐ、って言うんですよ、覚えておいてくださいね。

 もう諦めた。

 俺はひとつ溜息をつくと、


「せめて木剣でお願いします」


「木剣か、まあいいだろう。ひとつ稽古をつけてもらおうか、すっごく強いカズヤ君」


 もうダメだ、即死だけはなんとか回避しよう。

 適当にしのいで、適度にやられた所で降参しよう。

 練兵場中央で、兜をかぶり、木剣を握って男と向き合う。


「やっちまえ!」「叩き潰せ!」「殺せ!」


 非常にありがたい声援が外野から飛んでくる。

 もちろん、俺を応援しているわけではナイよね。

 アウェーすぎる。


「カズヤ!そんなの一撃よ!瞬殺よ!やっちゃって!」


 心暖まる応援をありがとう、とっても心強いよ、アリス、とほほ。


「はじめっ!」


 審判役の兵士の声が響く、

 さすがに、警戒しているようで、いきなり大技を出してきたりはしない。

 盗賊なんかとは違うなあ。

 ほんと、どうすりゃ良いんだろう。


 練兵場の乾いた地面をすり足で動きながら、慎重にお互いの出方を伺う。

 男がスッと距離を詰めて剣を打ち込んできた。

 一合、二合、三合と剣がぶつかり合う。

 剣の動きに気を取られていた俺の足元にローキックが放たれて、体勢を崩され、左の上腕部を剣の平で叩かれた。

 目が合うと男がニヤリと笑う。

 こいつ、今の剣の打ち合いで、俺が格下だと分かって遊んでいやがる。


 体重を乗せた盾で相手を押し戻し、後ろに下がって間をとる。

 右手上段からの切り付けと見せて、盾を男の目の前に突き出し、視界を奪ってから後ろに回り込む。

 先日、盗賊団の転生者が俺に向かって使ったバックスタブを、身体強化によって高速移動することで再現してみた。

 しかし乾いた地面に足のふんばりが効かず、あっさりとガードされた。

 やっぱし、付け焼刃の技では、職業軍人には通用しないか。


 だが、今の攻撃に多少驚いたようで、盾を交えた小技の攻撃が続く。

 剣が打ち合わされ、木剣の表面がささくれ立ち、細かい木片が飛んでいく。

 遊ぶのをやめた男との正当な剣技となると、経験の差がはっきり出る。

 徐々に後ろに下がらされ、いつの間にか兵舎の壁際まで追い詰められて、逃げ場が無くなっていた。

 こんな汗臭い男に壁ドンされても、ちっとも嬉しくない。

 やる前から力の差は判ってはいたが、せめて有効打のひとつくらいは当ててみたい。


 小さな連打を繰り返し、男を押し返す。

 なんとか壁際から抜け出し、仕切り直す事が出来たが、右腕に力が入らず細かく震えてくるので、盾で隠してごまかす。

 男が振った盾で、俺の盾が外側に弾かれる。

 がら空きになった正面に上段から剣が振り下ろされ、残った右手の剣で受けるが、衝撃に腕の力が耐え切れず、右手から剣が滑り落ちていった。


 ほんの一瞬だが、落ちる剣に気を取られ、男が俺から視線を外すのがわかった。

 左手の盾も投げ捨てる。

 男が振り下ろしたままの右手首と襟元をわずかに残った握力で握りしめる。

 そのまま身を低くして男の内側に潜り込んだ。


 男の腹に背をあてて、腰に男の体重を乗せる。

 背中で暴れるのも構わずに膝のバネを使い一気に跳ね上げる。

 一本背負いが決まった。


 柔道技なんて、小学生の頃、親に無理やり柔道場に泣きながら通わされて以来だが、ほとんど無意識の内に体が動いていた。

 硬い地面に背中から叩きつけられて、呼吸が苦しくなっているはずの男の右手首を左手で掴んだまま、落ちた剣を右手で拾い、足で男の胸を踏みつけて首筋に剣を添える。


「審判、判定は?」


 俺が男から目を離さずに、静かに問う。

 呆けたように固まっていた審判役が。


「しょ、勝者・・・」


「カズヤ」


「勝者、カズヤ!」


「『さん』を付けるのを忘れているぞ?」


「勝者、カズヤさん!」

 

 同じく、予想外の結末に驚き固まっていた観客が、審判の宣言を受けて我に返った。

 殺気を膨らませながら立ち上がりこちらに動き始める。

 ヤバイ、やり過ぎちゃった。

 もちろん、ここまでやるつもりなど、毛頭無かった。

 つい、カッとして我を忘れた訳では無く、むしろ、ひどく冷静になったというか、冷酷スイッチが入ってしまったというか、自分でもよく解らないが、とにかくやっちまった。


 仲間がやられて、逆上した兵士達がこっちに向かって来るのが見える。


 どうしよう?

 このままでは、死亡確定だ。

 ぶっつけ本番だが、以前から少し考えていた魔法を使ってみる。

 魔力を高速回転させる。

 地面に両手を付き、魔力を地面の中に解放しようと身構えた。


「何をやっとるか!バカ共が!」


「何してるの!やめなさい!」


 隊長とソフィの怒鳴り声が聞こえて、力を抜くと兵隊達の動きも止まっていた。


「お前ら、そんなに力が余っとるなら、走ってこい!」


 俺に倒された男も飛び上がり、兵隊達がいっせいに駆け出した。

 ほっとして、男達の後ろ姿を見送っていると。


「何しとる!お前もだ!」


 え?俺も?


「さっさと行かんか!」


 俺は悪くないのに!

 とんだとばっちりだよ!

 泣く泣く、俺も兵隊達にくっついて走り出した。


 駐屯地の周囲を駆け回り、ようやく隊長殿のお許しがでたので、皆でぞろぞろと傍に流れる川へ行き、頭から水を被り、汗を流した。

 疲れ果てて、川の中から顔を出している岩に腰かけ、冷たい水に足を浸していたら。


「悪かったな、カズヤ、つい、カッとなっちまって」


 戦った男が話しかけてきた。


「いえ、こちらこそ、えーと・・・」


「アーロンだ、ここの副隊長をやっている」


 副隊長だったのか。


「アーロンさん、俺のほうこそ、やり過ぎました。すいません」


「それにしても、すっかりやられたよ」


 そう言うと、俺の隣に腰かけてくる。


「いえ、油断していたからでしょう。次やったら勝てませんよ」


 川の水で洗った上着を絞りながら話す。


「それも含めて実力さ、俺もまだまだ修行が足りん」


「そんな事無いですよ、実際、俺の方が、やられっぱなしだったじゃないですか」


「謙遜しなくていいさ、それに最後に使おうとしていた魔法、ありゃ何だ?俺にも分かるようなデカイ魔力だったじゃないか、隊長に止められなかったら、今頃、全員やられていたよ」


 やっぱし、魔法って集中して活性化すると解るヒトには解るんだな。


「いや、それこそ、破れかぶれだったんで、上手くいくとは、限らなかったですよ」


「ふーん、そうか?」


「そうっす」


「ま、いいか、今日はここに泊まっていくんだろ?食堂でメシ食ってけよな、酒も用意しとくからさ」


 そう言って、上着を肩に引っ掛けると、駐屯地へと歩いて行った。

 アーロン副隊長か、話してみると、意外と気持ちの良い人だったなあ。


 それにしても、筋肉質ではあるが、スタイルの良いお姉さん達も一緒になって水浴びしているのだが、男達は自然にスルーしている。

 どういうことだ?

 子供の頃から見慣れていると、おっぱい程度、どうでも良くなるのか?

 とりあえず、岩から立ち上がれなくなった俺は、下半身を脱いだ上着で隠して、女戦士達がいなくなるまで待っていた。


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