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いつかきっと幸福な結末  作者: 染井吉野
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第16話 盗賊団

 転生者は元の世界そのままの容姿、身体でこちらの世界に転移していなかった。

 転移当初の不安と混乱を乗り越え、徐々に落ち着きを取り戻した転生者たちは、自分の顔、姿がわずかに変わっていることに気付いた。


 具体的にどこが変わったと指摘できるほどの変化は無かったが、鏡を見るたびに違和感を覚え、地に足のつかない日々を送るには充分であった。

 その後、ゲーム内の自分のキャラクターと融合することによって、ゲーム寄りの顔立ち、西欧的な肌の色、髪の色、即ち、こちらの世界になじむ姿に作り替えられ、魔法という力を使うことが出来る身体に生まれ変わったのであろうという、推測による共通認識が出来上がった。


 その為、外見だけで、転生者と異世界人をはっきり見分けるのは難しい。

 こちらの世界の言語も、システムによってフォローされているので、訛りの有無で見分けることも出来ない。

 

 カズヤも初めから、何かを疑っていたわけでは無かった。

 商隊の使用人の中に、なんとなく気になる仕草をする男がいたので、話しかけて転生者ならば、同郷のよしみで近況など話をしてみたかっただけであった。

 だが、話しかけようとして近づくと、何かを思い出したかのように荷物を持って遠ざかり、仕事中のそぶりをして、何故かカズヤを避けている。

 

 そこで、カズヤは落とし物を拾うふりをして、四人並んで歩いている使用人たちに向かって、『ちょっと待って、何か落としましたよ』と、こちらの言葉、アラム語ではなく、日本語で話しかけてみた。

 もちろん、落とし物などただの方便である。

 そこらに落ちていた金属の破片を手に取ってみただけだ。

 

 反応したのは、最初から気になっていた、ポケットの中でチャリチャリと音を立てていた男であった。

 男は失敗した、という顔をしていたが、すぐに動揺を隠してアラム語でカズヤに答えた。

 おそらく、この世界で仕事をする為に、転生者であることを隠して生活しているのかもしれない。

 男の行動を好意的に解釈したカズヤは、それでは男がひとりになった所で話しかけてみようと目の隅で追い続けた。

 馬車がぬかるみに嵌って立ち止まった場所に、何か落とした気がするので見てくる。

 そう言って、男が村を出て行った。

 その後をカズヤは静かに追いかけた。


 まだ曇り空の雨の湿り気の残る道を。

 村からしばらく歩き、気づかれないようにカズヤは男の後をつけた。

 そろそろ良いだろうと思い、歩きを速めて話しかけようとしたところ、不意に男は街道から逸れて、森の茂みの中へと入って行った。

 

 この時点で、さすがにおかしいと思ったカズヤは、木の枝や落ち葉の音を立てないように、注意深く木の陰に身を隠しながら、さらに慎重に男の後を追った。

 街道から、木立によって完全に視界を遮られた森の奥まで来ると、二人の男が使用人を出迎えた。

 腰に剣を下げていて、言葉遣いは乱暴で、装備もだらしなく着崩し、どう考えてもまともな冒険者、あるいは旅人の様子には見えない。

 

 男たちの会話に耳を澄まして聞いていると。


「予定・・・・・商隊・・・・・、襲う・・・・・」


「エルフの女、若い娘・・・・・、さらう・・・・・」


「夕食・・・・・、眠り薬・・・・・、護衛・・・・・、殺す・・・・・」


「身代金・・・・・、売る・・・・・」


 物騒な言葉ばかりが聞こえてきた。

 それ以上近づくと気づかれてしまうので、はっきりとは聞き取れなかった。

 しかしカズヤの追いかけてきた男の正体が、商家に使用人として紛れ込んだ強盗団の内通者であることは確かだった。


 カズヤは話を終えた内通者が来た道を戻るのを、茂みの中に息を潜めてやり過ごし、残った二人の後を尾行することにした。

 内通者と別れた二人の男はさらに森の奥へと入って行った。

 慎重に木の枝の葉を避けながら近寄り過ぎないように付いて行く。

 

 やがて、森の切れ目と思われる場所にたどり着いた。

 そこには、二十人程の同じ様な人相、ガラの悪い男達がヒマそうにぶらぶらしたり、地べたに車座になって座り込んでいた。

 その中のリーダーらしき男に戻って来た二人が報告をしていた。

 話し終えるのも待たずに、ニヤニヤして笑い声を上げた。

 続いてそれ以外の取り巻きの男達も、予想外の獲物が増えたとか、エルフの女は俺の物だとか、若い娘は俺が一番だ、二番だと高笑いをして騒いでいた。

 

 ここまで聞けば十分だ。

 カズヤは、はやる気持ちを抑え村へと静かに引き返した。

 村に戻ったカズヤは、森で見た事、聞いた事をソフィに相談する。

 今度はソフィとアリスがシリウスに乗って遊ぶフリをして、村の反対側から出ると、シリウスのスピードを頼りにして、気づかれないように大きく迂回し、強盗団が集結している場所へと再度偵察に行った。


 戻って来たソフィも、あれは商隊と村を狙う強盗団であると、同じ判断をした。

 しかも、決行は今夜であるとの事。

 先ずは、内通者に気づかれないように、村の女達には露店の周りに押しかけさせて、あれを出せ、これを出せ、値を下げろ、おまけを付けろと、四人の使用人達を常に仕事に釘づけにさせ、護衛の冒険者達も、世間話の渦に捉えて離さなかった。

 その間に、村の男達を少人数ずつ小分けにして、村長の家の中へと呼びこんで、今後の対応を協議した。


 議題は応戦するか、逃げるか、であったが、農夫といえども皆三年間の兵役を終え、戦いの基礎は叩き込まれているし、畑での力仕事で体力も衰えてはいない。

 ソフィ、アリス、カズヤを加えれば、二十人以上の戦力になる。

 眠り薬を盛られ、寝込みを奇襲されれば全滅は必至であるが、来ると判っていれば対応できるし、強盗団は仕込みが上手く行っていると油断しているので、むしろ、こちらの方が有利である。

 全員一致で応戦することに即決した。

 

 商家の奥方、護衛の冒険者には、知らせないでおく。

 まだ使用人のひとりだけが内通者なのか、それとも他にいるのか、護衛の冒険者も抱き込まれているのか分からないからだ。

 

 皆で使用人の動きを監視しやすいように、村長が商家の奥方に、村の広場での宴会を提案すると二つ返事で了解の言葉が返ってきた。

 村の女達が総出で食事を作り、太陽が落ちて月が昇る頃、大鍋を用意して宴会がはじまる。

 村の男達も焚き火を囲み、天候による今年の作物の出来高の予想、近隣の農村の噂話や、王都での政治情勢など、そつなく話題をつなげていく。


 大鍋など、皆が手を付けるものは、解毒の魔法で浄化できるように、常にアリスとソフィが見張っていた。

 そのうちに、商家の奥方から振る舞い酒の申し出があり、使用人が樽ごと酒を運んできた。

 アリスとソフィが、それではお酌をしましょうと言って、笑顔で樽に水差しを浸すと、さりげなく村人経ちに目配せを送る。

 この酒樽が、眠り薬入りであった。


 まずは、敵か味方か判断する為に、護衛の冒険者へと解毒しないまま、酒を注いで行くと、何も疑わずに全員嬉しそうにコップを傾けて酒を飲みほした。

 次は使用人たちへ、酒を進めたが、奥方の目が気になるようで、仕事がありますからと言って断ってきたので、村の男が。


「今日はもういいじゃないですか、ねえ?」


 と言って、促すと奥方も笑顔で応じたので、使用人たちも喜んでコップを受け取り飲み始めたが、やはり、例の使用人だけは、宴会から離れた場所でコップに口を付けるフリをしただけであった。

 

 それを見届けたソフィは、アリスにそっと耳打ちをして、村人が酒樽の周りに立って使用人からの視線をふさいでいる間に、樽の中に入っている酒に対して、解毒の浄化魔法をかけさせた。

 その後、村人に漂う緊張感を、カズヤのリュートの音でごまかすように覆い、心地よく顔を照らす焚き火の明かりの中、護衛の冒険者と使用人が、眠りに崩れ落ちていったのを見届けると、村人も眠い眠いと言葉に出して、それぞれに散って行くのであった。

 

 村の女と子供達を集めた食糧倉庫の窓から、月明かりが静かに照らす村をソフィとアリスは無言で見続けていた。

 子供連れの母親は、寝息を立てて眠る子供を抱きかかえたまま、まんじりともせずに、その時を待っている。

 食糧倉庫の闇の中、窓から入ってくる僅かな月光が、村の女達が強く開いた目を白く浮き立たせている。

 

 村の女達の緊張した息遣い、わずかな布ずれの音の中、焚き火の残り火を背にして影がひとつ動き、間をおいて、もう一つの影が動いた。

 二つの人影が村の外へと出て行くのを見届けたソフィが。


「動いたわ、準備して」


 そう、静かに囁くと、村の女達がそろって頷いた。


 冷たい風が吹く夜の中、二十数人の男達が、村の近くに集結していた。

 手入れの行き届いていない、雑な防具を身に着けた男達の体臭が、風の流れに乗って足元の雑草の葉を震わせ漂っていく。

 どの男もこれからの襲撃の成功を疑っておらず、仕事を終えた後のお楽しみを思い浮かべ、顔には下品なニヤニヤ笑いを張り付けている。

 

 この辺りの街道を縄張りとして、略奪行為を続けていた冒険者崩れ、兵隊崩れの男達であった。

 旅人、商隊、時には少人数の冒険者と、獲物を選ばずに襲ってきたが、噂が広まり衛兵の巡回も厳しくなり、冒険者組合に討伐以来が出されるのも時間の問題となっていた。


 そろそろ潮時かと思い始めていたところに、かねてから王都の商家で定期便の輸送ルートや日程を探らせていた部下から、次の商隊には商家の奥方と娘が同行する、との報告が入る。

 強盗団のリーダーは、商隊の荷物だけではなく、母娘も誘拐し身代金を手に入れ、それをこの国での最後の大稼ぎにして、よその国に拠点を移そうと考えていた。


 当初の予定では、村から出発して、ある程度まで進んだ商隊を、街道の岩陰に隠れて待ち伏せし、一斉に遅い、商品は奪い、護衛の冒険者は皆殺しにする。

 商家の母娘は生きて捕え、気の済むまで楽しんだら、王都の商会に対して身代金を要求するつもりであった。

 

 だが、商家に潜り込ませていた部下から、思わぬ朗報が届いた。

 現在、村には、一組の冒険者が滞在しており、そのうちの二名はエルフと若いシスター、どちらもめったに見ないような美人だそうだ。


 どうせ仕事をするなら、ボーナスは多いほうが良い。

 いつものように、村人が寝入ったところで、火矢を射かけ、燃え上がる家と湧き起こる煙に、あわてて飛び出して来たところを、片端から切り殺してしまえば良い。

 陽が昇り、巡回兵が駆けつけてきた頃には、全てを奪い、何も残さず立ち去った後だ。

 手に入れた女達は、次の場所へと移動する道すがら、ゆっくりと楽しもう。

 何しろ、裏道を利用する国境越えだ、変わり映えのしない風景の中、調度良い退屈しのぎになるだろう。

 強盗団のリーダーは、下卑た考えと、久しぶりの大仕事に浮き立っていた。


 夜も更けた頃、村の裏山の斜面から、予定通り、全て順調であることを知らせる合図が送られてきた。

 根気の無い強盗団のリーダーがいらいらとしながら、待ちかねていた合図である。

 周りで退屈そうに座り込んでいた男達も色めき立ち、武器を手に取り腰を上げる。


「はじめるぞ、いつも通りだ、眠らせてはいるが、護衛の冒険者がいる。油断するんじゃねえぞ」


「あいよ」


 手下達が口を歪ませ、へらへらと笑って返す。


「わかってんだろうな、商家の母娘とエルフ、若いシスターには必要以上に傷を付けるなよ」


 いつものようにだらだらと緊張感のない手下に、イラつきながら念を押す。


「へっ、わかってるさ、そいつらはともかく、村の女は好きにしていいんだろ?」


「好きにしろ」


「おい、エルフの女も壊す前に、こっちに回せよな」


 そうだそうだ、と声が上がる。


「ちっ、働かねえヤツには、ボーナス無しだからな、きっちり仕事しろよ!」


 リーダーの言葉にそれぞれが剣を抜き、弓を構えて応える。

 

「火矢を用意しろ、燃やすのは手前の二、三軒でいい、やりすぎて全部燃やすなよ」


「わかってるって、男はかまわねえが、女まで燃やしたくないからな」


 三人の男が、矢の先端に巻いた布に油を染み込ませ、火を点けると男達の後ろに影が伸びる。

 黒い煙を上げながら燃える矢を、弓につがえ、弦を引き絞ると、ひとりの男が崩れ落ちた。

 前のめりに地に伏せ、左手の弓は握られたまま、力を失った右手からこぼれ落ちた火矢が、地面の枯草へと火を燃え移す。

 まだ、強盗団のリーダーも手下も、何が起こったのか分かっていない。

 続けて、するどい風の音が聞こえ、また一人、火矢を握った男が倒れる。

 地面に転がり、動かなくなった男の額からは、一本の矢が生えていた。


 あわてて矢の飛んできた方向を見上げると、村の家の屋根の上に、満月を背にして女が立っていた。

 夜風に揺られ、長く淡い金髪の間から、月の白い光が透き通ってくる。

 月明かりに浮かび上がる女の影には、特徴的な長い耳が飛び出していた。


 男達は倒れた仲間の事も忘れて、興奮して騒ぎ立てていた。


「すげえぞ!見た事もねえような上玉だ!」


「ありゃ、俺のもんだ!」


 エルフの女は誘うように、ちらりと男達を見てから、身をひるがえし、飛ぶように屋根の向こうへ消えて行く。

 

「ちっ、あいつ失敗しやがったな、バレてやがる」


 リーダーは使えない手下に舌打ちするが、想像以上に美しいエルフの姿を見て、引き返すつもりは毛頭ない。


「どうせやる事はいつもと同じだ!行くぞ!エルフの女は絶対に傷つけるなよ!」


「応!!」


 我先にと、村を目指し男達が駆け出して行く。


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