熱いかの地へ
彼らが行く道の先に待ち構えるのは転倒や衝突、時には予期せぬ妨害にあいながらも、ただ前だけを目指して進んで行く。
余裕で前を走り抜ける選手や全力を出しても前を行く集団に追いつけない悔しさをにじませながら歯を食いしばって走り抜ける選手もいる。前を行く選手達からはタイヤが地面に喰らいつく音がこちらへ轟き、熱き情熱が迸る錯覚を起こす。一方、後方を走る選手達は先頭に食らいつこうと足をぶん回す選手もいればチームの水分補給のためにペットボトルを背中に摘みに行ったりする者など実に多彩である。あと、何故か自転車の上で走りながら寝そべっている者などがいたりなど見ているこちらも時々クスッと笑ってしまうような出来事も少なからずある。
そんな選手たちも時には狭い崖の縁を列を成して走り抜け、普通の人ならば車体を押して歩くような急斜面を足を着くことなく上り切る。その最中、タイム内にゴールできずに棄権になる選手もいれば、途中で転倒しそのままリタイアする選手もいる。コースに侵入してきた観客にぶつかってしまいホイールが曲がるような衝突してしまうこともある。
そしてこちらも非常に面白い?と言ってしまっていいのか定かではないが、コース外を馬に乗った人が選手たちと並走してきたり、牛がコース上を歩いていたり、裸のおじさんがコースに乱入してきたり、テキサス男が鹿の角をつけて並走してきたり…
コース内もコース外も大変熱い?のが魅力の一つであったりもするのかもしれない。
彼らの本気は見る者全てに前を目指す勇気を与える。
人間の成すことには必ず終わりがある。そしてその終わりは唐突かもしれないし、自分が思うよりも遥か先なのかもしれない。だがそれは誰にでも来る。
しかし、彼らの背中が教えてくれるものは唐突に来る、遥か先にある終わりに対する悲しみなどではない。終わりがもたらす新たな始まりへの福音を、常にその生き様を聴く者へ響かせ続ける。
例えリタイアしたとしても、最後までゴールを走り抜けたとしても、表彰台で数名しか表彰されなかったとしても、脱落していった者も含めて彼らの背中がその瞬間何よりも篤く生きていたということを彼らを見た者全てが忘れることはないだろう。
体重は速さをより生かすための原動力へ…
筋肉は向かい風にも負けず己が目指す目標へと導く兆しへ…
足はペダルという運命を漕ぎ速さを車輪に纏わせ、彼らの走り去る後姿が、その先にある景色を私たちにも幻視させる。
人間を動力源として最も速く走るそれは時には雨に打たれ、風に吹かれ、土埃に汚れながらも幾たびの試練を乗り越えたその車体は貫くような感動をもたらす。
彼らの凱旋を今年もその地は待っている。