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A-009:異世界の着替え

「……さん……に……さん……にぃさん!」

「ぐはっ!」


 俺が気持ちよく寝ていると腹の上に乗っかって起こしにくるシオン。俺は突然の衝撃で目を覚ますが、昨日夜中まで走り回って疲れていたため、


「もうちょっと寝かせてくれよ~」


と言って寝返りをうち2度寝しようとするが、シオンは意地でも俺を寝かすつもりがないらしく、勢いよく俺の体を揺らして起こそうする。


「な、何言ってるんですか!? 今日はこれから町に行く約束したじゃないですか!!」


 シオンはそう言ってだんだんと揺らすスピードを上げていく。俺はそれでも寝たフリをし続けたが、最終的に勢いあまったシオンが俺の背骨をいけない方向に曲げてしまった。


「ギャアアアアッ!!」

「にぃさああああんっ!!」


――――――――――――――――――――


「えっ? そんな約束したっけ?」


 酔いと痛みで眠気なんてどっかに飛んでいってしまった俺はベッドの上で横になり、さっきシオンが言っていたことについて尋ねる。シオンは町に行く約束をしたと言っていたが俺にはそんな覚えがまったくなかった。


「しましたよ。昨日、帰ってきたときに」

「昨日? 帰ってきたとき?」


 シオンに言われ、俺は少しずつ昨日城を抜け出した後のことを思い返す。


――――――――――――――――――――


 家の灯りはほとんどなく、数メートル先は闇に飲まれている町の中を俺はふらふらになりながら走っていた。城への侵入作戦は精神的にも身体的にも予想外の負担がかかったにも関わらず失敗に終わった。その散々な結果に色々と泣きたくなっていた俺はその帰り道で足をつってしまった。そのため、足は棒のように動かなくなり、時々バランスを崩して倒れながら宿屋を目指すはめになっていた。


「あぁ……あれは」


 疲労と痛みでほとんど意識を失いかけながらも、俺は何とか宿屋までたどり着くことが出来た。やっとフカフカのベットで寝られると思い俺はおもいっきり扉を押すが、扉はびくともしなかった。手前や横に引いてもまったく開く気配を見せない。宿屋の扉は開かず化していたのだ。


「うぉい! 開かねぇじゃねぇか、どうなってんだよ!? うぉい!」


 俺は宿屋の扉を壊す勢いで叩いたり蹴ったりするが、無駄に頑丈な扉はびくともせず、音を聞いて中から人が出てくる気配はない。早く部屋に戻りたい俺は、どうにかして開けてもらえないか考えていると、ふいに道端に落ちている石ころに目がいった。


「そうだ。これなら」


 俺はその石を拾うと、2階の窓の近くめがけて投げた。そこはさっきまで俺がいた部屋で、このまま投げ続ければシオンが気づいて顔を出してくれんじゃないかと考えていたのだ。しかし、これが異様に大変だった。なかなか顔を出さないシオン。立ってるのも辛いのにこんな集中するようなことをしているのだ、回数が増えるたびにコントロールが悪くなり、投げるたびに命中率が落ちていった。


「ちくしょう。超防音耐性でもついてんのかよ……」


 やけくそになって石を投げ続けていると、ついに開かずの扉が開いた。


「ミセノマエデサワグヤツハドイツダァ?」


 てっきりシオンが開けてくれたのかと期待していたが、中から出てきたのは閻魔大王の第一補佐官のような気迫を纏った女将だった。


「ひええええ!」


 気迫と言うより、もはや鬼そのものと化した女将を見ておしっこチビりかけながら、俺は人生で初めて心の底から恐怖と言うものを味わった。フリー○様を前にしたかませ王子もこんな気持ちだったのだろう。


「あ、あんたは部屋に戻れ!」


 俺は声を震わせながらも、女将に催眠をかけて部屋に戻すことに成功した。初めてこの力に本気で感謝した俺は数々の試練を乗り越えてやっとの思いで自分の城に戻ってくることが出来た。


「今、帰ったぞシオオオオン!!」

「ギャアアアアッ!!」


 俺が部屋の扉を蹴って中に入ると、ベッドの上でくつろいでいたシオンが悲鳴をあげながら転がり落ちた。


「に、にぃさんっ!? どうしたんですか、そんなボロボロになって!?」


 ベッドの後ろからひょこっと顔を出したシオンはボロボロの俺を見て顔を青ざめると、速足で寄ってきて肩を貸してくれた。本気で心配してくれているのだろう。シオンは今にも泣き出しそうな顔をしながら俺をベッドまで運んでくれたが、その間ずっと何があったのか問い詰めてきた。


「分かった分かった、俺が悪かった。明日、1日付き合ってやるからもう休ませてくれ」

「えっ? 本当ですか」


 俺は最優先で休みたかったためどうせ忘れるだろうと思い適当なことを言って目を閉じる。すると、すぐに意識が遠のいていき、耳元で話すシオンの声も聞こえなくなっていった。


――――――――――――――――――――


「……言ったな」

「あっ、思い出しましたか」


 回想が終わるころには背中の痛みは引いていたが、その時でた俺のわずかな呟きをシオンは聞き逃さなかった。


「では、約束通り今日はぼくに付き合ってもらいます。ちょうど行きたいところをあったんです」

「……はい。かしこまりました」


 俺はシオンの提案に頭を下げて答える。自分から言ってしまった以上取り消すわけにもいかず、結局今日1日シオンに付き合うことになった。しかし、問題は1階で働いているであろうこの宿の女将だ。あれのせいで完全にトラウマになった俺はなんとか見つからないように働く女将を横目で見ながら宿屋の外に出る。すると、先に出ていたシオンがなぜか上を向いて何かを見ていた。俺もつられて上を見ると、そこには昨日俺が投げまくった石の跡が僅かに残っていた。


「何でしょう、あの跡?」

「さ、さぁ……」


 シオンを呼ぶために石を投げまくりました。なんて言えるわけもなく目をそらして話を流す。


「そう言えば、にぃさんが帰ってくる少し前に、外から変な音がするって隣の部屋の人と女将さんが話していたような……」

「へぇ、そんなことが……ヴェッ!! 隣の部屋!?」


 俺は慌てて部屋を数える。その結果、シオンの言うとおり石の跡は俺たちの泊まっている部屋の1つ隣の部屋についていた。


「ハハハ……まじかよ」


 昨日のことを思い出して、つい乾いた笑いが出てしまった。それに今考えれば、ちゃんとシオンのいる部屋に当ててたとしても、どのみち女将に報告されて結局あの恐怖を味わうことになっていただろう。あの行動は完全に悪手であった。


「だけど、他の方法なんてなかったしなぁ」

「何をブツブツ言ってるんですか。早く行きますよ、にぃさん」


 俺の後悔なんてよそに、シオンはどこか浮かれた様子で俺の腕を引っ張って走り出す。


「そういえば、そんなに急いでどこに行きたいんだ?」


 周りに目もくれず進むシオンの足どりは、明らかに目的地が決まっているようだった。俺の質問になぜかきょとんとするシオン。言いませんでした?みたいな顔をされても何も聞いてない俺は首を横に振るしかない。すると、シオンは足を止め俺のほうを振り向いて、


「まずは、にぃさんの服を買いにいきます」

「服?」


意外な答えに俺は再び首を傾げる。

 確かに羽織っていたコートを商人のおじさんに売ってしまったため、ぱつぱつのインナーとズボンしか着ていなく少し肌寒く感じるが、俺はそのことを特に気にしていなかった。


「なんで服なんだ?」

「なんでって、そんな変な服着ている人ほかにいませんよ。どこで買ったか知りませんが、それじゃ周りと浮いちゃいますよ」

「うおっ! まじか!?」


 シオンに言われて周りを見渡すと、町を歩く人の格好は革や布で出来たものが多く、悪く言えば質素、良く言えば異世界ぽかった。むしろ今俺が着ている服が異様に現代のものに近かった。そりゃ、あの○リトくんと同じ格好をしていたのだ、現代と言うかもはや未来的な格好なのだろう。そう言う意味では確かにこの世界で浮いているのかもしれない。


「よし! さっそく服を買いにいこう!!」


 さすがに異世界に来てまで浮きたくないと思った俺はシオンの肩を叩くと、さっきとは逆に俺がシオンを引っ張る形で歩きだす。


「にぃさん、お店はそっちじゃないですよ……」


――――――――――――――――――――


「おし。こんなもんかな」


 洋品店で色々な服を試着した俺はジーパンに白のTシャツ、その上に藍色の上着、おしゃれとして黒の手袋をつけるという転生前とあまり変わらない服装に決めた。しかし、これがよくてキ○トコーデがだめな理由がよく分からない。そもそもこの格好だってあまり馴染んでいるようには思えないが世界自体が他とは少しずれてるのだ、俺はあまり難しく考えないようにした。


「よく似合ってますよ。にぃさん」


 服を買って店の外に出ると待っていたシオンが目を輝かせて言ってきた。


「そうか? なんならシオンのぶんもついでに買ってやるぞ」

「いえ、ぼくはこのままで大丈夫です」


 俺の提案をきっぱりと断るシオン。俺としてはもっとヒラヒラした服を着てもらいたかったが、あまり強要しすぎて嫌われたくはないでここで話題をかえた。


「それにしてもすぐに買い物終わったな。これじゃ、まるで何かのおまけみたいだ」

「実際におまけですけどね」

「えっ?」


 ニコッと笑ったシオンは、


「次が本題ですよ。さぁ、行きましょう!」


そう言って再び行き先も告げずに歩きだした。

 何やら面倒なことになりそうな予感がしたが、ここで別れるわけにもいかないので俺は頭をかいて仕方なくシオンの後を追いかけていった。

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