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A-004:異世界の路地裏

「起きろ坊主、町が見えてきたぞ!」

「……ぽへっ?」


 昨日の疲れが残っていたのか、いつの間にか眠っていた俺はおじさんの声で目が覚める。今度は変な夢を見ることがなかったおかげで、気持ちよく目覚めることができた。俺は1度体を伸ばすと、カーテンを開き顔を外に出す。すると、遠くにアニメでしか見られないような巨大な壁に囲まれ、立派な西洋のような城の下に栄えるいわゆる城下町が見えた。


「あそこが、アフテリス12王国第六城下町エスカルゴだ」

「えっ!? エスカルゴ? カタツムリ!?」


 おじさんの口から出た町の名前は、俺の予想していたのとはかけ離れていた。エスカルゴだけだと響きはいい感じだが、意味がカタツムリだと知っている者からすると何とも複雑な気分になる。


「はっ! ま、まさか!!」


 そんな時、とんでもない考えが俺の頭をよぎる。


「おじさん。聞きたいことがあるんですが……」

「おう! なんだ? 何でも聞きな」

「もしかして……あの町の王様はデ◯デ大王じゃないんですか? 体は大きくて、大食いで、短足で、唇おばけで、語尾に“ゾイ”なんて付けちゃって!! そんでもってお姫様は、“今日も1日がんばるぞい!”なんて言って小さいときから憧れてたキャラデザの人に会うために高卒からブラックゲーム会社に入社した童顔ツインテ社畜野郎じゃないですよね! そんなオチじゃないですよねっ!!」

「ガハハハ! なんだ、そりゃ? あそこはそんなところじゃねぇよ」

「えっ? あ、そうなんですか……」


 俺の渾身のネタを軽く流すおじさん。それから少し時間がたって町の入り口が見えてくると、おじさんの方から俺に話しかけてきた。


「坊主がさっき聞きたかったことはよく分からなかったが、この町を表現するには“普通”ってのが一番合うだろうな」

「“普通”……ですか?」


 俺が聞き返すと、おじさんは軽く頷いて話を続けた。


「俺が生まれるずっと昔から、アフテリス12大王国は一年に一度、12王国内でランク付けしてるんだ」

「ランク付け? 力の大会でも開いてるんですか?」

「権力、財政、軍事力、治安、市民の満足度やその年に世界に及ぼした影響なんかを総合して各国の代表達が話し合いで決めるんだ」


 ついにおじさんは俺のことを無視して話を始める。少しショックだが、結構真面目な話をしているので俺も真剣に聞くようにする。


「そして、そのランク付けで一位になった国は一位でいる間、この世界で起こる事柄についての最終決議を行う権利を手にすることができる。まぁ、簡単に言えばアフテリスと言う世界を自分の好き勝手に出来るってことだ」

「なんか、すごい話ですね」


 そんな話をしてる間に馬車はエスカルゴの入り口であろう門の前に着いていた。すると、おじさんは門の前にいた門番らしき人と話始めた。何を話しているかは聞こえないが、二人は少し揉めているようにも見えた。しかし、最終的に折れた門番が近くにある小さな監視所に入って門を開けてくれた。中に入ると、そこはまるでアニメやゲームでよく見るような石畳の道路と石造建築の建物が並んでいる俗に言うヨーロッパ風の町並みが広がっていた。


「おぉ! すげぇ」


 今まで画面の向こうで創られた町しか見たことのなかった俺からしたら、目の前に広がる町並みはまさしく夢のようなものだった。


「この町は、今の国王になってからずっと6位をキープしているんだ。だから、巷では“普通の町”なんか言われてるだ」

「へぇ、そうなんですか」


 俺は、おじさんの話を完全に聞き流して町を見るのに夢中になっていた。町を歩く人の中には、耳の長いエルフのような者やひらひらと空を飛ぶ小さな妖精。完全に動物の姿をした獣や部分的に動物な半獣人。見たことのない武装をした男の人に店の手伝いをする女の子、道の真ん中を堂々と歩くゴリラなど色々な種族がいて、目に映る全てが俺にとっては興奮の材料だった。


「ヨッシャ! 着いたぜ。坊主」


 そう言っておじさんが馬車を止めた場所は、大きな噴水とたくさんの露店が出店している賑やかな広場だった。おじさんが馬車を降りて出店の準備を始めると同時に俺も荷台から飛び降りる。地面に足をつけて深呼吸をすると、明らかに日本とは違うザ・異世界という味がした。


「悪いな。俺が送れるのはここまでなんだ」

「いえ、色々とありがとうございました。これからは自分の力で何とかしていきます」

「おう。頑張っていけよ。それから、もし泊まるところを探すんだったらこの先の道を真っ直ぐ進んだところにある俺のオススメの宿にすればいい。あそこはメシがうまいからな、オススメだ」

「マジっすか!? ありがとうございます!! あとこれ、食事代です」


 おじさんにお礼を言って、これで足りるだろうと金紙を1枚渡した俺は教えられた道に向かって走り出そうとする。


「おい! ちょっと待て。坊主!」

「どうしました? ……あっ、おつりならいりませんよ。色々とお世話してもらった分もあるので」

「いや、足りないんだ」

「えっ?」


 その後、足りなかった分もきちんと払った俺は改めてお礼を言って走り出す。走るたびにすれ違う異世界を代表する人種たち。夢のような光景に俺の興奮は最高潮に達していた。しかし、そのせいで周りが見えてなくなっていた俺は道にあった立て看板を倒してしまった。


「おっと! なんだこの看板?」


 倒れた看板を起こすと、そこにはまるで暗号のような奇妙な文字が書かれた。最初はどういうわけか分からなかったが、その文字を見続けた結果あることに気づいた。


「もしかして……俺ってこの世界の文字が読めないのか?」


 俺はてっきり、他のの異世界みたいにゲームの吹き出しが出てきて異世界文字を翻訳してくれるだろうと期待していた。しかし、現実はそんなに甘くなかった。周りにある他の店の看板を見ても、街頭アンケートをしているお姉さんから紙をもらっても、そこに書いてある文字を一文字たりたとも読むことが出来なかった。


「なんで異世界共通語が日本語なのに、共通文字は漢字と平がなじゃねぇんだよっ!!」


 俺は悲痛な叫びと共に紙を地面に叩きつける。ついさっきまで、期待と希望でキラキラ輝いていた俺の目の前に、いつの間にか高い言葉の壁が立ち塞がっていた。


「おじさん。俺の力じゃここが限界だったようです……」


 あまりにも高すぎる壁の前に俺は深く落胆した。


「よぉ、嬢ちゃん。俺たちと一緒に遊んでいこうぜ」

「や、やめてください……ぼくは……」


 そんな時、近くで何やら言い争う声が聞こえてくる。俺は声がするほうに顔をあげると、三人の男達が女の子を囲んで路地裏に入っていくのが見えた。


「間違えない……今、ハーレムへのフラグが立った!」


 まさに棚からぼたもち。俺は急いで立ち上がると、男たちを追って路地裏に入る。そこは、建物と建物の間になっていて光の入りも悪く、女の子を襲うにはとっておきの場所だった。そんなところで、男たちは女の子を壁際で囲い込んで逃げないようにしていた。


「おおっと兄ちゃんたち、かわいいガールをいじめるのはそこまでだぁ!」

「あぁん?」

「ひぃ!?」


 俺が声をかけると、男たちはおっかない顔をして睨み返してきた。前世でほとんどケンカなんてしなかった俺は男に睨まれただけで足がすくんでしまい、今すぐここから逃げ出したい気分になっていた。しかし、男たちの後ろで怯える女の子を見ると、何として助けたいという気持ちが生まれ、自然と足の震えも止まっていた。


「何だ? 兄ちゃんが代わりに俺たちと遊んでくれんのか?」


 気が付くと、いつの間にか女の子の周りにいた男たちは俺を囲んでいてた。男の一人に後ろも取られていて、逃げ場は完全になくなってしまった。端から見ると絶対絶命のピンチ。しかし、俺はこの状況を打破する自信があった。


「残念だけど、君たちじゃ俺には勝てないよ!」

「な、何だと!?」


 俺の強気な態度に男達も少したじろぐ。その隙を突いて大きく息を吸う。そして、


「お前ら全員、家に帰れ!」


と大声で男達に命令する。

 すると、男たちは顔を伏せて黙りこむ。上手くいったか? そう思ったのも束の間、男たちは一斉に顔を上げてこれまでか言うほど腹を抱えて笑いだす。


「マジでいってんのか、兄ちゃん」

「いや……マジで……アハハハ」

「ちょ、タイムタイム……ギャハハハ」


 爆笑する三人の中、俺は爆発するんじゃないかってくらい顔が熱くなっていた。


「……さて、次はどうやって笑わせてくれのかな?」

「えっ? ちょっと待って……」


 男たちは笑いをおさめると、手を鳴らしながら俺を取り囲む。そして俺の静止を聞くことなく、顔面に向けてその太い腕を振り下ろしてきた。


――――――――――――――――――――


「何だ、こんなもんかよ」

「笑わしてくれたのは最初だけか」


 結局、抵抗することも許されなかった俺は、所々にアザやタンコブを作らされ、顔は腫れ上がり、気絶寸前までやられてしまった。


「さて、それじゃあそろそろお別れかな?」


 男は最後のとどめと言わんばかりに腕を大きくあげる。これ終わったわ。そう思って目を閉じるが、男の一撃が来ることはなかった。恐る恐る目を開くと、さっきまで奥で縮こまっていた女の子が男の腕をとめていた。


「もう止めてください。ぼくが……ぼくがお兄さんたちの相手をしますからこの人は許してあげてください!」


 今にも泣き出しそうな女の子にそう言われた男たちはため息を吐くと


「わかったよ。ほら、行くぞ!」


 そのまま女の子の肩を掴んでこの場を去ろうとする。


「ちくしょう。俺は……俺はあんな女の子すら守れないのかよっ! 催眠さえ……暗示さえかけられれば……」


 女の子の背中を見送りながら、俺は自分の非力さと主人公らしからぬ姿に悔しさのあまり手から血が出るほど強く拳を握る。するとその瞬間、俺は大切なことを思い出す。そもそも催眠とは暗示を受けやすくなる意識状態のこと。ただ命令するだけでは意味がなく、まず相手を催眠状態にするきっかけが必要なのだ。


「なんだ……きっかけってなんだ?」


 薄れる意識の中、俺は頭をフルで回転させる。指を鳴らす。手を叩く。他にも色々と思いついたが全てを試してるほど俺の体力は残っていないため、俺は直感を信じて最初に思いついたものでいこうと決めた。そして、ふらつきながらも力を振り絞って壁伝いに立ち上がる。男たちは俺が立ち上がったこと気づいて足を止めるが、俺はその一瞬の隙をついて手を前に突き出すとおもいっきり指を鳴らした。すると、これまで聞いたこたないくらい大きな音が辺りに響く。と言っても、恐らく響いたのはこの裏路地内だけだろう。音が響いた瞬間、男たちはまた顔を伏せた。


「お前たち……家に帰れっ!!」


 さっきみたく笑われる可能性もあった。しかし、立っているのもギリギリな俺はそんな事気にする余裕もなく、最後の力を振り絞って出せる限界の大声を出して男達に命令した。


「……分かりました」


 すると、男たちは虚ろな目をして女の子を離すと、足元をふらつかせながらどこかに歩いていってしまった。男たちに囲まれ縮こまっていた女の子は急な出来事に理解が追いついてないらしい。オドオドしながら今にも倒れそうな俺と態度を変えて立ち去る男達を二度見三度見していた。一方、とっくに限界を越えていた俺は男たちが去ったことと女の子を守れたことの安心感からか急に目の前が真っ暗になった。

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