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A-024:異世界の(剣)(刀)

「なるほど……それでは、これは何と言うのですか?」

「ひゃ、ひゃい! それは槌と言いまして、熱した鉄を叩いて形を変えていく時に使うものでござにゃんす!?」

「そ、そんなに緊張しないで大丈夫だから……」


 新しい武器を受けとるためにディスカーバーの鍛冶屋に来ていた俺たちは完成までもう少し時間がかかるからと、エロエも含めて外で待つことにした。

 すると、一緒についてきていた少女が鍛冶屋の道具に興味を持って、あれやこれやとエロエに質問攻め。

 相手が相手ということもあって、語尾がおかしなるくらいテンパりながらも、少女の質問にエロエは答える。

 では、その少女とは一体誰なのか。

 勘のいい皆さんならすぐにお気づきになられただろう。

 そう、ユキ姫様だ。

 では、なぜユキが俺たちと一緒にいるのか、話は少し前に遡る。


――――――――――――――――――――


「……」

「……」


 朝、しっかり目を覚まして宿屋を出た俺は1歩目で自分がまだ寝ぼけていることを確信した。

 もう関わりのないはずのお姫様が宿屋の入り口で仁王立ちしていたのだ、誰だってまずは夢だと思うはず。


「シオン、どうやら俺はまだ寝ぼけているらしい。ミョルニールで叩いてくれ」

「ちょっと、いきなり何を言っているのですか?」

「ギャアアアッ! しゃべったああああ!!」

「当たり前でしょ!!」


 残念、どうやら夢じゃないようだ。


「シオン、女将さんから大きめの布をもらってきてくれ」

「布……ですか?」

「布なんて何に?」

「あんたを隠すために使うんだよ!」


 何の目的で来たかは分からないが、超有名人のユキと一緒にいるところを見られたら騒ぎになるのは間違いない。

 朝からそんな面倒なことは起こしたくなかった。


「てか、よくその格好で出歩こうと思ったな。誰かに見つかったらどうするつもりだったんだよ」

「ご心配なく。ちゃんと裏道通ってきましたから誰にも見つかってません」


 自慢気に胸を張るユキ。

 俺としては一国のお姫様が1人でこんなところにいる時点で問題だと思うのだが、ユキはまったく気にしていない様子だった。

 そんな話をしていると、布をもらってきたシオンが宿屋から出てきたため、とりあえず本題に入ることにした。


「ところで、本日は一体何のご用でいらしたのですか?」


 すると、ユキはシオンから受け取った布を羽織って、ビシッと俺たちに指を突きつけてきた。


「あなたたち、私との約束を破りましたね」

「約束?」


 昨日のことなのに思い出せないでいると、


「もう騒ぎを起こさないって話ですよ」


 とシオンが小声で教えてくれた。


「あぁ! そういえば、そんなこと言ってたな!」

「まさか忘れてたのですか? 信じられない……」

「ナハハ。面目ない」


 笑って頭をかく俺を見て、ユキはため息を吐く。

 

「とにかくそういうわけですから、私が直々にあなたたちを見張りにきたのです」

「異議あり! 昨日の今日で騒ぎを起こした記憶がないのですが!」

「……確かに昨日今日は何もしていないようですね。では、この近くに遺跡があることはご存知ですか?」

「遺跡? 遺跡ってあの遺跡か?」


 近くの遺跡と言われて思い出す場所は1つしかない。

 あのドラゴンと死闘を繰り広げた遺跡だ。

 しかし、その遺跡と約束を破ったこととのつながりが見えてこない。

 俺たちはドラゴンを討伐したのだから、表彰されても怒られることなんて……


「遺跡を崩壊した犯人、あなたたちだそうですね」

「「ええええっ!?」」


 いわれのない罪にシオンと一緒に声を上げる。


「あれをやったのはドラゴンだ! 俺たちじゃない!」

「えっ? でも、昨日あなたたちがやったという告発がありましたけど?」

「何っ!? 誰がそんなこと……アイツか!?」


 考えることもなく、犯人の顔は思いつく。


「おいっ! そのチクったヤツ、その後どうした?」

「えっと……対応したのは私じゃなかったから詳しくは分かりませんけど、私たちも国家遺産が崩壊した原因を調査をしてましたから、協力者として相当な報酬を与えましたよ」

「あのロリ、まじで俺たちを売りやがったのか!?」


 1人で怒り狂ってる俺を横目に、ユキはシオンを呼んで耳元で何か話し始めた。


「本当にあなたたちが壊したわけじゃないの?」

「はい。ぼくたちは降ってきたドラゴンに追われて、遺跡に逃げ込んだだけです。遺跡が壊れたのは、ドラゴンが急に暴れだしたせいでした」

「そうですか。分かりました」


 話を聞いたユキは顔を上げると、白々しく俺のほうにお嬢様スマイルを向けてきた。


「事情は分かりました。あなたの話を信じます」

「ちょっと待て。何でわざわざシオンに小声で確認取ったんだ?」

「だって、あなた胡散臭いんですもの。シオンくんの話なら信じられるけど、もし脅されてでもしたら、あなたに聞かれるのはまずいと思って」

「色々傷つくな、チキショー!」


 エロエの時もそうだったが、俺はよっぽど怪しい人間に見えるらしい。

 黒髪か? 黒髪がそんなに悪いのか?

 まさかこんなに黒髪で差別される世界があるなんて思いもしなかった俺はいつかこの髪を染めると強く心に決めた。


「にぃさん、そろそろ行かないと」


 そう言って、服の裾を引っ張るシオン。


「どこかに行くのですか?」


 それを見たユキは興味津々に聞いてきた。


「いや、用事済んだんだろ? いつまでいるつもりだよ」


 俺たちの罪が晴れた以上、俺たちに用はないはずだが、ユキはついてくる気満々だった。


「気づいていないのですか? あなたたちはトラブルに巻き込まれやすい体質をしてるのですよ。これ以上、この町(エスカルゴ)で問題を起こされないように私があなたたちを見張っておく必要があるのです」

「気づいてないのかな? 君がいる時点ですでにトラブルだってことに……」


 こうして、俺たちを見張るという名目のもと現れたユキと一緒に行動することになった。


――――――――――――――――――――


 そして、今にいたる。

 向こうでは、いまだにユキがエロエをハワハワさせているが、俺はその様子をただボケェ~と見ていた。


「平和だな……」

「平和ですね……」


 特に何もやることがない時間。

 今の俺にとって、このただ空を眺めて雲の動きを観察する時間が最も必要なものだった。


「ほわぁ~! 出来たぞ、出来たぞ!」


 しかし、そんな幸せな時間もすぐに終わりを迎える。

 武器を完成させたディスカーバーのじぃさんが家の中から出てきた。


「これが……俺の武器?」


 じぃさんが持っていた2本の剣は明らかに形状が異なっていた。


「……二刀流で頼んだのですが?」

「二刀流になっとるだろ」

「刀のほうは私が作ったんですよ」


 そう、じぃさんは剣と刀を1本ずつ持っていたのだ。

 普通、二刀流といえば剣か刀どちらか1種類を2本、せめて短剣と長剣で分けるものだろう。

 それを剣と刀で分けてきやがった。

 なんで俺の腰周りで異文化交流しなくちゃならないんだよ!


「なんだ? いらないのか?」

「……もらいます。ありがたく頂きます」


 言いたいことはたくさんあるが、とりあえず受け取った瞬間、あまりの重さに剣と刀を落としてしまった。

 この時、上半身ごと持っていかれたため、腰を痛めるという二次災害まで起きた。

 俺は落ちた剣と刀を1本ずつ拾って重さを比べた。

 すると、手にしても持っている感じがしない軽い刀に対して、剣のほうは持ち上げるのがやっとで、両手で持ってやっと振り回せるようになるくらい主張が激しいものだった。


「どうだい? いいものだろう?」

「ネガティブ! こんな重いもの持てるか!」

「えっ? そんなに重いですか?」

「そんなことないと思いますよ。一応、私でも持てますから」


 軽々と持ち上げて剣を振るユキとシオン。

 なんだ? この世界にはゴリラしかいないのか?

 常にミョルニールを持っているシオンはともかく、どうしてユキまでそんな余裕にしていられるのか、俺にはまったく理解出来なかった。


「ところで、この武器の名前って決まってるんですか?」


 唐突に飛んでくるシオンの質問。

 そう言えば決めてなかったなと思い、俺は即興で考える。


「ちゅんちゅんま―――――」

「ダメに決まってるだろ」


 途中、何度か野次が飛んでくることもあったが、


「ドラゴン……龍……二刀流……よし! こいつらは2本合わせて“龍双剣(りゅうそうけん)”だ」

「「おぉ~」」


なんとか無事に決まった。

 しかし、エロエにはまだ気になることがあったらしく浮かない顔をしていた。


「でもそれだと、せっかく剣と刀に分けたのにどっちがどっちか区別がつかなくないですか?」

「う~ん……まぁ、龍双剣(剣)(刀)とかにすればいいじゃないか?」

「適当ですね……」


 こうして、ようやく手に入れることが出来た俺専用の武器、龍双剣(刀)を腰にさした俺はじぃさんとエロエにお礼を言うと、空を見上げながらドヤ顔で歩き出した。


「ちょっと待ちなさい。どうして(剣)をシオンくんに持たせているのよ?」

「……重いんだもん」

「本当にあなたって人は……」


 俺の答えを聞いて、ユキはやれやれと頭を押さえる。


「分かりました! ちょっとついてきてください」

「どこに?」

「いいところに連れて行ってあげます」


 それだけ言って、先に行くユキ。

 ニュアンスだけなら興奮する言い回したが、ユキの刺すような視線を見る限り、期待は出来そうになかった。

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