A-021:異世界のストーカー
「やっぱ、賑わってんなぁ~」
武器が完成するまでの間、俺とシオンは時間を潰すために街に出ていた。
「服を買いに来たもそうでしたけど、にぃさんはあまり、こういう場所には慣れていないようですね」
「おっ? そう見えるか?」
「はい。明らかにテンション上がっているのが分かります」
この世界に慣れきれてない俺にとって盛んな場所は新鮮で、目に映る物全てに興味が引かれていた。
そう、気分はまるで初めて秋葉原に行った時ような感じ。
俺は自分でも浮かれている自覚はあったが、それをシオンから指摘されたとなると、少し照れくさかった。
「そう言えば、にぃさんはどうして二刀流にしたんですか?」
不意に聞いてくるシオン。
突然の質問だったが、俺は迷うことなく即答した。
「カッコいいから」
「カッコいい……ですか?」
「そう! なんか、二刀流ってカッコいいじゃん。1本より2本。両手に剣を持って、こうシャキーンってポーズ決めるのとか、もう男のロマンなんだよ!」
「ロマン……」
「だからって、三刀流はダメだぞ。あれは、顎が疲れるだろうし素直に使い分けが出来ん。あくまで、2次元だから活躍出来る品物だ。現実で使おうとは思わん」
「2次元って何ですか?」
「……」
さっきまでの語りがまるでウソかのように、俺は言葉に詰まる。
2次元について、シオンが納得しそうな言葉がまったく見当たらなかったのだ。
それでも、悩んだ挙げ句出した答えは、
「この世界自体が2次元……みたいな?」
「う~ん……よく分かりません(ニコッ!」
「ですよね~」
悲しいことにシオンには伝わらなかった。
「とりあえず、この話はここまで。腹減っただろ? 何か食いに行くか」
「はいっ!」
「おっしゃ! んじゃあ、旨い飯屋を探すとするか……おっと!」
俺が張り切って腕を上げた瞬間、人混みの中から走って来た男と肩がぶつかる。
「あぶねぇな! ちゃんと、前見て歩きやがれ!!」
「なっ!? ぶつかってきたのはそっちだろうが!!」
すぐに言い返すが、男は無視してそのまま走り去って行った。
俺が嫌みを込めてペッペッと唾を吐いていると、シオンは急にしゃがんで俺の足元に落ちていた小瓶を拾い上げた。
「何だ、それ?」
「さぁ……でも、今ぶつかった人が落としていったのは間違いなさそうですね」
小瓶には鮮やかな水色をした液体らしきものが入っていたが、触ってみると感触はプルっとしていて、スライムのような感じだった。
「まぁ。一応、預かっておくか」
「そんな、危ないですよ。どんなものかも分からないのに」
「危ないって……返すには誰かが持ってなきゃダメだろ。それに、ぶつかってきた男がこれから物語に関わるような重大な危険物を落とすなんて都合のいいこと、現実には起こらないんだよ」
俺は小瓶をポケットに入れると、シオンの背中を押しながら飯屋を目指して歩き出した。
「……」
影からじっと見つめてくる視線を気にしながら。
「あの……にぃさん」
視線から守るようにわざとシオンを先に歩かせていたが、さすがに気づいたらしい。
心配そうに俺のことを顔を見つめる。
「気にすんな気にすんな。ああいう頭の中お花畑のやつはほっとくのが1番なんだよ」
「でも……」
「分かったよ。後は俺に任せて先に行け」
「そんな! にぃさんだけ置いていくなんて出来ません。ぼくも一緒に戦います!」
「待て待て。まだ、戦うって決まってないだろ。それに、こう言う時は1人のほうがやりやすいんだ。先に行って、旨い飯屋を探しといてくれ。なっ?」
「……分かりました。でも、無茶はしないでくださいね」
何とかシオンを納得させて、この場から離すことが出来た。
それにしても、ドラゴン相手に堂々と立ち向かった俺に対して無茶をするなとな?
それこそ、無茶な話だ。
俺はシオンの姿が見えなくなると、すぐに振り返ってストーカーの元まで全力で走った。
しかし、ストーカーも俺が迫ってくることに気づいて逃げ出す。
「逃がすかよ」
ストーカーの背中を追いかけながら、どうやって追い詰めるか考えていると、右に曲がった道がすでに行き止まりになっていて、すぐに追いつくことが出来た。
俺はおろおろするストーカーの後ろに忍び寄って肩を叩く。
すると、ビクッとした主がゆっくりと俺のほうを振り向いた。
意外なことに、俺たちをストーキングしていたのは可愛い女の子だった。
「おやおや。なかなか、変わったご趣味をお持ちなことで」
「……」
何もしゃべらない少女。
「ったく……俺だけなら大歓迎なんだけど、残念ながらうちの可愛い弟が怖がっちゃってるんだよね。だから、教えてほしいな。何で、ずっと俺たちを追いかけてきたのか」
「……」
やっぱり、しゃべらない。
「……仕方ない。ならば、見せてやろう! 異世界転生において最強であるチート能力。数多あるその中でも、最も強力であろう我が力ぁ!!」
「な、何を!?」
「きさまはもう、私に逆らうことは出来ない! 洗いざらい話してもらおう! ホワチャアアアア!!」
「きゃああああ――――」
――――――――――――――――――――
「……あれ? ここは?」
10分経って催眠が切れた少女は慌てて辺りを見渡す。
どこから記憶が記憶改変が起きたかは分からないが、少女からしたらさっきまで追っていたはずの男たちにいつの間にか捕まってしまったのだ、慌てるのもよく分かる。
「それじゃあ、聞かせてもらおうかな。どうして、俺たちのことをつけてきたのかな? エロエちゃん」
「えっ!? どうして、私の名前を?」
君に催眠をかけて聞いたんだよ。
なんて言えるわけがない。
「あいよ! お待たせ!」
そんな時、頼んでいた料理がタイミングよく俺たちのテーブルに運ばれてきた。
「そんなことよりグチャグチャグチャ、なんでハグハグハグ俺だちをガツガツガツづげてたんだ? ごっくん! チューーーー」
「はしたないですよ。にぃさん」
腹が減りすぎて目の前の料理についがっついてしまったが、さすがにシオンに注意されてしまった。
反省。
すると、シオンはエロエのほうに向き直って優しい口調で話しかける。
「ぼくたちをつけいた理由……話したくないなら無理して話すことはありません。ぼくたちだって無理やり聞き出そうなんて思ってませんから。でも、何か言いたいことがあったからつけてきたんですよね? ぼくたちは人間です。伝えたいことは、ちゃんと言葉にしなくちゃ何も伝わりませんよ」
シオンのまっすぐな言葉に心打たれのか、
「あのっ!」
と声を上げて勢いよく立ち上がったエロエは深々と頭を下げた。
「お願いします! もうこれ以上、おじいちゃんを騙すのはやめてください!!」
「ブッ!? えっ? 何? だま、騙す? 何のこと?」
確かに俺たちは老人にウソをついた。
しかし、その事実を知るのは俺とシオン、それからあの場にいて話を聞いていたアヤメしかいない。
俺とシオンがエロエと会ったのはついさっき。
つまり、あのなんちゃってロリが全部チクったのだ。
「その話、一体誰から?」
「確かに、おじいちゃんは人の名前を覚えられないから、よくボケているって勘違いされるけど……」
「あれ~? 俺の声、届いてないのかなぁ~?」
「でも、おじいちゃんは正義感の強い人です! 悪いことは許せない人なんです! そんなおじいちゃんをだまくらかして……あなたたちの目的は一体なんなんですか? やっぱり、お金ですか? なら私が払いますから、もうおじいちゃんには関わらないでください!!」
「ちょっちょっちょっと、落ち着いて!」
俺は興奮しているエロエをなだめる。
昼時ということもあって周りもそれなりに騒がしかったのだが、揉め事となると聴覚が研ぎ澄まされるらしく、店の客全員の視線が俺たちのテーブルに集中していた。
「え~と……何の話をしているかな?」
周りの視線を気にしながら、慎重にエロエに聞く。
「何って……とぼけないで! あなたたちが悪徳商法でおじいちゃんを騙しているのは、もうまろっとすろっと分かってるんですから!」
謎は全て解けた。
エロエは何か勘違いしているようだった。
「待て待て待て! 俺たちは悪徳業者でも詐欺師でもない! じぃさんに武器を造るように依頼しただけだ。ただの客なんだ!」
「えっ? 本当……?」
「本当本当。なぁ、シオン」
「うんうん」
エロエは信じられないという顔をしていたが、隣で激しく首を縦に振っているシオンを見て目を丸くした。