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A-012:異世界の設定

「つい最近まで魔法は選ばれた者しか使えない奇跡の力だと信じられていました。ですが、数十年前に1人の科学者が魔法は体を流れる魔力と空気中を漂う魔法原子の結合によっておこる現象だということを発見しました」


 そう言いながら、シオンは地面にオーラみたいなぐにゃぐにゃを纏った棒人間を描く。


「魔物以外の知性をもつ生き物は産まれた時から魔力を身につけていると言われています。頭がいい、足が速い、力が強いみたいに魔力にも人それぞれの個性がありますが、魔力はそれらとは違って特訓したからって増えるものではありません。産まれた時から多ければ多い、少なければずっと少ないままなんです」

「そのため、ぼくのように魔力が少ない人間は魔法が使えないので、旅をするときはこうして武器を持っていきます」


 シオンは棒人間に剣を描き加える。俺はなるほどなと思いながら、町にいたほとんどの男たちが魔法を使えない肉団子だと思うと吹き出しそうになってしまった。


「次に魔法原子についてですね」


 さらに話を続けるシオンは棒人間の横に魔方陣と何やら文字を書く。もちろん文字がなんて書いてあるかは分からないが、魔方陣のほうには見覚えがあった。


「魔法原子とは空気中を漂う目に見えないほど小さな物質です。魔力をこうブワァーと放出して魔法原子と上手く組み合わさると、魔方陣が現れてそこから魔法がでるという仕組みになっているだとかどうだとか……」

「急にあやふやな説明になったな」

「うぅ……これに関しては感覚とでしか言えませんし、それに科学者も難しい設定は後々面倒くさがれると言ってましたから」

「なんだ、そのメタ発言……」


 相変わらずこの世界は変わってるなと呆れていると、シオンがまた何か描き足していた。俺はどうせ読めないだろうと思って文字を見るが、意外にもシオンが書いていたのは俺でも読むことが出来るアルファベットだった。


「なぁシオン、それって……」

「使う魔法によって元となる魔法原子は変わってきます。例えば炎系の魔法には炎の魔法原子、氷系の魔法には氷の魔法原子と結合します。それらを分かりやすくするためにこのアルファベットを使って区別するようになったんです。炎の魔法原子をF、氷の魔法原子をIというように」

「それも科学者が?」

「はい。世界的に発表され、この系統で統一されるようになりました」


 シオンの話を聞いて、俺はアルファベットをじっと見る。これまで見てきた文字はどんな規則性があるかも分からないものはがりだったが、このアルファベットに関しては書き方や読み方まで俺の知るアルファベットと同じものだった。どうしてアルファベットだけがこの世界で普及しているのか、色々な可能性が思いついたが、途中から考えるのが面倒くさくなったのでとりあえず偶然というにすることにした。


「あの、そろそろ話を戻していいですか?」

「んっ? あぁ、ごめん。今日の晩飯がなんだっけ?」

「そんな話してませんよ……」


 シオンは小さくため息を吐くと話を続けた。


「魔法は使う魔力の大きさによって威力が変わります。科学者はそれをレベルとして数字で表しました。1番弱いレベルを001、次は002というように」

「最後に魔法原子とレベルを合わせました。例えば、炎系の1番弱い魔法をF-001という風に。これを、魔法のコードと言うんです。わかりましたか?」

「う~ん。分かったような分からないような……」


 俺が悩んでいる間に、

 

「これで基礎的な話は終わりです」


と言ってシオンは絵を消していた。


「気をつけなくてはいけないこととして、魔力を多く使うと多くの魔法原子と結合して強い魔法になりますが、その分消費量が多くなることです。魔力を使いすぎると強い倦怠感に襲われ、少しの間動けなくなってしまいます」

「そうか、それは気をつけなきゃな」


 そう言って立ち上がった瞬間、背中に強い視線を感じた。だいたいの予想はついたが、ゆっくり振り返るとシオンが目を輝かせて俺を見つめていた。


「それで、にぃさんはどんな魔法が使えるんですか?」

「やっぱり覚えてたか……」


 シオンは意地でも俺の魔法を見たいようだが、話を聞く限り俺の催眠はシオンの求める魔法とは違うものらしい。見せることも出来ないし、正直に話すとややこしくなりそうなのでここは上手くごまかすことにした。


「なぁ、シオン。この話はまた今度にしないか? 意外に時間くっちゃったし、帰りを遅くしたくないからとりあえず今は遺跡を目指すことにしようぜ」

「……確かにそうですね。わかりました」


 そう言って歩きだすと、シオンは明らかに肩を落として俺の後ろをついてきた。


――――――――――――――――――――


「ところで、にぃさんは混合術師に会ったことがありますか?」


 遺跡を目指している最中、またしてもシオンが聞いたことない名前を出してきた。


「混合術師? なんだそりゃ?」

「知りませんか? まぁ、コードについても知らなかったし仕方ないですね」

「うっ、それを言われると心が痛むんだが」


 転生者である以上知らなくても仕方がないし、シオンも悪気があって言っているわけではないと分かってはいるが、その悪気のなさのせいでより深くシオンの言葉が胸に突き刺さった。


「それで何なんだ? その混合術師って」

「そうですね。その話をするんでしたら、まずさっきの続きから話始めなきゃダメですね」

「えっ? またぁ?」


 今回やたら設定の説明が多すぎてつい本音が漏れてしまったが、色々と事情があるのだろう、あえてこれ以上は触れないことにした。


「魔力の強さは人それぞれ違うと言いましたが、実は使える魔法も人によって違うんです。普通、1つの魔力に対して結合しやすい魔法原子は1種類だけ、だから炎系の魔法を使う人はそれ以外の魔法は使うことができません」

「ですが、それはあくまで普通の場合です。中には特別な魔力をもって産まれる人もいて、そういう人たちを3つの術師に分けて呼ぶんです」

「3つ?」


 俺が聞き返すと、シオンは小さく頷く。


「1つ目は“上級魔術師”です。彼らは魔力が普通の人より多いだけではなく多種類の魔法を使うことが出来ます。次に“創造術師”。彼らの魔力は特殊で、魔法を使うことが出来ません。その代わり、魔力を自在に操ることで様々な武器や道具を創造することが出来るんです」

「なんだそれ? すげぇな、何でも創れるのか?」

「一応、創れるものに制限はないとされていますが、創造出来るようになるまでにそれなりに訓練する必要があるらしいですし、創造したものは魔力によって出来ているため、ものすごく魔力を消費するから何でもかんでも創造する人はいないと思いますよ」


 創造するための訓練と聞いて色々触ったり舐めたりしている人の姿を想像したが、さすがにそんなことはやっていないだろう。というかやっていたら色々な意味でアウトだ。


「最後は“混合術師”ですね。混合術師は上級魔術師と同じように多種類の魔法を使うことが出来ますが、彼らが希少な理由として1度に2つの魔法を同時に使えることにあります。普通、1つの魔法を使用中に別の魔法を使うことは出来ません。それをやろうとすると、魔力の流れがおかしくなり体に大きな負荷がかかり、魔法を使えなくなってしまいます。しかし、莫大な魔力をもつ混合術師はそれが可能なのです」

「そしてもう1つ、混合術師は魔法を同時に使えるだけでなく、2つの魔法を混合して新しい魔法を作り出すことができます。これをすると、魔法原子に関係なく魔法が作れるため、組み合わせによっては世界を滅ぼす魔法が出来るとされていますが、その辺の研究はまだまだ進んでいないそうです」


 シオンは最後に


「ひとまずこんな感じでしょうか」


と言って説明を終える。

 正直、途中から話を聞き流していたが、そんなこと言ったら話してくれたシオンがかわいそうだと思った俺はこの場ではとりあえず聞いてました感を出しておくことにした。


「んで、その混合術師がどうしたって?」


 俺が問いかけると、シオンは顔を伏せてなぜか恥ずかしがっていた。


「えっと……別にどうってことはないんですけど……会ってみたいなぁて……」

「へっ? それだけ?」

「それだけって! 混合術師はアフテリスの人口の2割程度しかいないんですよ! 魔力の少ないぼくからしたら混合術師は憧れの存在なんです!!」

「お、おう。そうなのか……」


 珍しく迫ってくるシオン。そのかわいさと気迫に押されていると、いつの間にか目的の遺跡がある森の入り口に到着していた。


「この先に遺跡があるんですね」

「そ、そうらしいな」


 アフテリスの森には転生してすぐに迷子になって餓死しかけるという苦い思い出があるせいで、どうしても入るのに躊躇してしまう。さらに、話では今から入ろうとしている森と例の森は入り口が違うだけで同じ森らしい。その話を聞いた時は正直行くのをやめようかと思ったが、今は隣にシオンがいるせいで断ろうにも断り切れなかった。


「さぁ、あと少しです。行きましょう、にぃさん」

「ちょっと待って、まだ心の準備が……っ!!」


 深呼吸をして覚悟を決めた俺が森に入るための1歩を踏み出した瞬間、空からものすごい勢いで何かが落ちてきた。その衝撃の大きさは大気を鳴動させ、この辺り一面だけではなくアフテリス全体を揺らすほどのものだった。それほどのものがどこに落ちたのか、衝撃の大きさと気を抜けば吹き飛ばされかねなかった砂煙の強さ的にその答えはすでに出ていたが、一応確認のため俺とシオンは恐る恐る後ろを振り向いた。するとそこには、さっきまで通ってきたはずの道はなく、もう橋でもかけなきゃ向こう側に渡れないんじゃないかと思うくらい大きな穴が空いていた。しかし、俺たちを襲う恐怖はそれだけに留まらず、穴の中で何かが蠢きだしたかと思うと、鼓膜が破れそうになるほどの咆哮と共についに何かがその姿を現した。

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