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A-010:異世界の鍛冶屋

「ここか? シオンの来たかった場所って」

「はい。そうです」


 そこそこ歩かされ着いた場所は、町のはずれにある大きな煙突から煙が出る平屋建ての建物の前だった。建物に立て掛けられてる看板の文字はかすれて読めなくなっているが、外にはかまどや金槌、いくつか形のおかしな剣が落ちていることからこの場所が鍛冶屋だと辛うじて理解できた。しかし、異様にボロボロな建物は、加治屋ではなく心霊スポットのような不気味な雰囲気を漂わせてきた。


「どうかしましたか?」

「いや、大丈夫だ。さぁ! 早く入ろうぜ」


 俺は覚悟を決めて戸を開けようとするが、遠目から見ても分かるほど傾く屋根のせいで歪んだのか、いくら力をいれて引いてもびくともしなかった。ここまで来ると本当にここに人間がいるのかも怪しく思えてきた。()()()()()が。


「なんだ? お前ら何しとる?」


 突然後ろから話しかけられてビクッとなる。今のこの状況、事情の知らない人からしたらどうみても不審者そのものである。ましてや、声をかけてきたのが兵士だとしたら、完全に言い逃れが出来ないだろう。俺は唾を飲み込むと指を鳴らす準備をする。そして、タイミングを見計らって振り向くが、そこにいたのは兵士でも何でもなく杖をついた老いぼれの老人だった。


(うち)に何か用事か?」


 まさかの家主登場に俺が呆気にとられていると、隣からシオンが、


「ぼくです。覚えてますか?」


と割ってはいってきた。

 それを聞いた老人は首を直角に曲げる。俺はそんなおじさんの態度を見て、互いに知り合いだとはとても思えなかった。


「おい、シオン。本当にこのおじさんに会いに来たんだよな? どうみても、お前のこと知らなそうだぞ」

「間違いありません。昨日、この人がびびりオオカミに襲われそうになっているところを助けてあげたんです。そしたら、お礼にぼくのミョルニールを整備してくれるって」

「……絶対に詐欺だな」

「詐欺って何ですか?」


 二人でささやき合っていると、ついに老人が何か思い出したようで手を叩いて声をあげる。


「おぉ! 思い出したぞ。君は昨日ワシを助けてくれた子だな?確か……サユリくんだったかな?」

「シオンです。一文字もあってません……」

「そうか? この歳にもなると名前を覚えるのも一苦労だな」

「そ、そうですか」


 一人で爆笑する老人に苦笑いで返す俺とシオン。すると、笑うのを止めた老人はじっと俺を見てくる。


「君、名前をなんという?」

「えっ? あ、ショータです」

「……うむ。そうか」


 懐かしそうに俺を見ていた老人は名前を聞いた途端にどこか寂しそうな雰囲気を醸し出したような気がした。しかし、老人は何も言わず、家と同じように今にも崩れてしまいそうな足どりで俺たちの間を通ると、開かず戸の前で足を止めた。そして、老人が戸に向かって手をかざすと、さっきまでいくら力をいれてもびくともしなかった開かずの戸が音をたて勢いよく開いた。


「こんなところで話していても仕方なかろう。中にはいりたまえ」


 老人に言われ、俺たちは互いに顔を見合せて渋々の家の中にはいる。すると、中は外よりも酷い状態で床は傾き、壁は崩れかけ、散乱する鍛冶道具に一歩入っただけで散乱するほこり。ここで生活するわけじゃないとしても、俺は30分もいられる気がしなかった。


「ちょっと待っとれ。たしか……」


 老人は部屋の奥に入っていき、たくさん積み上がった武器の山を漁り始める。


「なぁ、シオン。今のうちに帰らないか?」

「ダメですよ! ここには僕の大事なミョルニールがあるんです。見つかるまで待ちますよ。……外で」


 静かに戸を開けて外に出た俺たちは、これでもかと言うくらいに目一杯新鮮な空気を体の中に取り込んだ。しかし、あの中に戻る気分にもならず、俺は近くの壁に寄りかかって老人が出てくるのを待った。


「なぁ、シオン。ミョル……ニールだっけ? それってそんなに大事なもんなのか?」


 俺はシオンのことをまだ何も知らないんだなと思い、せっかくだからこの待ち時間を使って聞いてみることにした。すると、シオンは俺の隣に来て、


「特に面白い話でもないですよ?」


と念を押してくる。


「俺達パーティーなんだ。隠しっこはなしだろ?」


 少し汚い気もするが、そう言うとシオンは遠い目をして話を始めた。


「ぼくは……今も昔も変わらなくて、なんて言うか近くに誰かがいないとダメだったんです。何をするにも誰かの後ろにいて、一人じゃ何も出来なくて……とにかく、ダメダメだったんです。って、現在進行形ですけど」


 そう言って照れるように頭をかくシオン。そして、そのまま下を向いて話を続ける。


「そんなある時、ぼくは幼い頃から慕っていた人に裏切られました。なんて言っても、一方的にぼくが慕っていただけで、その人からしたらそんなのただの迷惑だったんです。ぼくはそれに気づかないで……それに、こんななりのせいで色々勘違いされて、気がついたら頼れる人どころか友達もいないひとりぼっちになっていたんです」

「そうか……でも、何をそんなに勘違いされたんだ?」


 俺の質問にシオンは軽くはにかんだ表情で答える。


「あぁ、ぼくは別にそんなつもりなかったんですけど、周りの視線が……その、ずっとその人と一緒にいるから付き合ってるんじゃないかって……」

「そりゃ、こんな可愛い()()()がいつも一緒にいたらそう思われるわな」

「えっ?」

「……えっ?」


 驚くシオンにさらに驚く俺。そんな俺を見たシオンはさっきまでのシリアスな感じとは違う、どこか照れたような顔をして俯き、小声で何かを呟いていた。


「ぼ……こ……です」

「えっ? なんて?」

「ぼく……とこ……す」

「何?」

「ぼくは男です!!」


 シオンの叫びを聞いた瞬間、俺の中の時間という全ての概念が停止した。しかし、すぐに我に返ると寄りかかっていた壁の方に振り返って思いっきり頭をぶつけた。俺はこれが夢だと確信していた。だからこれで目が覚めるはずなのに、いくら頭をぶつけてもベットから起きて「はっ、なんだ夢か」のパターンにならなかった。もしかしたら、聞き間違えかもしれない。途中でそう思った俺は声を震わせて再びシオンに質問する。


「シオン、今何て言った?」

「えっ? だから、ぼくは男ですって……」


 それを聞いて、俺はもう1度壁に頭をぶつける。しかし、夢から覚めることもなく、額から流れる血を見たシオンがおどおどしながらハンカチを渡してくるだけだった。シオンが男の娘なんて、そんなことがあり得るだろうか。こんなかわいい顔をして、立派なアレがついているなんて俺には信じられなかった。しかし、今になって思えばすでに伏線が張られていたように思う。そもそも一人称が“ぼく”の時点でもっと疑うべきと思うべきだったのだ。まだ現実を受け入れきれてない俺は受け取ったハンカチで血を拭くとシオンの肩を強く掴む。


「いいか、シオン。お前が男だとか女だとか関係ないんだ。お前はお前だ。もっと、自分に自信を持っていいんだ。そうだ……男とか女とか関係ないんだ……俺はけしてお前を……女だとは……」

「にぃさん……目から血が流れていますよ……」


 シオンの冷静なツッコミで俺は1度落ち着いて血をきれいに拭き取る。


「それで、さっきの続きなんですけど……」

「やめろ! これ以上、誰かが傷つくような話をするんじゃない!!」

「あれ? まだ、ミョルニールの話してませんけど……」


 この流れで話を続けようとするシオンだが、ショックから立ち直りきれてない俺は話の内容が入ってくるほど心に余裕がなかった。


「お~い! 待たせたな~」


 軽く取っ組み合っていると、大きな包みを持った老人がようやく家の中から出てきた。


「ほれ。君の武器ってこれだろ?」


 そう言って俺たちの前に包みを置いた老人は布を勢いよく外した。

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