中編② 国王と親達
チンチンチンチン♪
注目を集める鐘が鳴らされ、国王が厳しい瞳で王子を見る。
「フォーネルよ、そなたが今まで言った事、第2王子の名に誓って相違ないな?」
「もちろんです!! あいつ達は!!」
「もう良い。 お前は少し口を閉じておれ。そこな子息たちと、エレナとかいう令嬢も「父上! エレナに失礼です!」……お前は国王の言葉を遮れるほど私より地位が高いのかっ!!!!!」
「「「「「っひ!」」」」」
国王の一喝に、王子達は顔を青ざめた。
「そこにいる5人と元王子妃候補であった3人は、許可するまで口を開くな! 分かったか!! 衛兵!!」
王子達はレイティー達が捕まるものだと思い、青ざめた顔色に色が戻ってきた。
しかし、衛兵が腕を捕えたのは、王子達5人と元王子妃候補であった3人。
「「「「なっ!! どうして私達(俺達)が!!」」」」
「「「「きゃ!!」」」」
「衛兵! 口を閉じさせよ!」
しばらく叫び声と怒鳴り声が響き、ドタバタと小競り合いが起きたが、抵抗する者は腕を背中に捻りあげられ、痛みで口を閉じさせられた。
「さて、皆の者、卒業祝いのパーティーでこのような場違いな事発言をさせ、稚拙極まりない議論を皆に聞かせた事、そして、パーティーを壊してしまった事、遺憾に思う。パーティーについては、後日再催いたすゆえ……悪いが、皆には時間をもらう」
国王は申し訳なさそうに眉を顰め、ほんの少し頭を前に倒した。
国王の頭を下げる動作に、大人達はザッと膝をつく。
それにつられて卒業生達も頭を下げた。
「頭を上げよ。まず、第2王子の婚約者についてだが……。レイティー嬢、サラーシャ嬢は、両者とも甲乙つけ難いほど優秀であり、そして忠誠心もある。サラーシャ嬢を正妃にしレイティ嬢を側妃に、とも考えたが…………それよりも大きな問題が発生した。ここ1年、学校、在校生の家、王子妃候補者達から、王家に報告という名の嘆願書や抗議書が届き出したのだ。その内容は、第2王子達の素行についてだ」
「「「「なっ! う``~っ」」」」
声を上げようとした王子達4人だが、腕の痛みに呻く。
その横で、エレナは俯き涙声で「なんでなんでなんで」と同じ言葉をブツブツと繰り返していた。
「そこで、問題とされる生徒達の親と話し合い、ある事を決定した。それは、卒業までに更生すれば問題なしとし、卒業までに素行が直らなければ……貴族籍から除籍するという事だ」
「そんっきゃあっ」
「「「「そっ! っっ!!!」」」」
「もちろん、第2王子もだ」
王家やその側近たちの家が素行の悪さに対応していたことに安堵の雰囲気になるも、王族・貴族から除籍という密約がされていたことに会場がざわざわとした。
「王子妃候補者2人、側近たちの婚約者にも内密に話を通してあり、何より彼女たちは問題児たちの更生に協力してくれた。しかし、あまりの更生の無さに、候補者2人や婚約者達に申し訳なくてな……。レイティー嬢並びにサラーシャ嬢の忠誠に対して、第2王子の余りの不誠実さに婚約話は白紙しに、側近たちの婚約者は兄弟に譲られる。そして問題を起こした責任で除籍、という事を、このパーティーの後に本人たちに告げる予定であった。しかし……まさか冤罪を引き起こそうとは……」
国王に侮蔑の視線を向けられる王子達5人。
言い返そうとして腕を抑えられ、激痛に呻く。
「第2王子フォーネル、宰相家次男シューベル、騎士団団長次男カイル、魔導師団団長三男マーティス、シャメゾン男爵家三女エレン。その方達5人は卒業と同時に王族・貴族籍から除籍となっておる」
「「「「「う``う``う``う``」」」」」
「卒業生達よ、こやつらのように、他人の言葉に耳を傾けず、己の言動を振り返らず、己の気持ちを最優先し、自分の取った行動の先を考えぬ者はこうなる。それゆえ、家名の重み、国を背負う重責、を十分に理解しなければならないのだ。……此度のような事は滅多に起こりえない事件であろう。しかし、今後無いとも言えぬ。だから、あえてこやつらを反面教師として晒し、皆で学び合おうと思う」
国王は、貴族たちに厳かに語りかけると、一点、また一点とレイティー達を含む6か所に視線を固定していった。
すると、5組の男女が前へ進み出て、国王の前に膝をついた。
「失礼いたします。国王陛下、私ども側近達の元子供が王家並びに皆様にご迷惑をおかけしてしまった事、お詫びのしようもございません。側近は客観的視点で苦言を呈する事が最も大切であるのにもかかわらず、揃って同じ子女にうつつを抜かし、貴族としての礼儀さえも無くしてしまった愚か者でございます。しかも!! 信憑性のない言葉を鵜呑みにし、あまつさえしっかりとした調査をせず、罪のない少女に罪を着せようとした、公正さも正義もない凶悪犯罪者でございます。どうか、首をはねて処刑してくださいますようお願い申し上げます」
「「お願い申し上げます」」
宰相が申し訳なさを滲ませながらしゃべり頭を下げると、その奥方、騎士団団長夫妻、魔導師団団長夫妻が頭を下げた。
子息たちは、両親からの斬首の懇願にガタガタと震えだす。
そして、シャメゾン男爵家夫妻が口を開く。
「御前を失礼いたします。国王陛下、好意のご注意を『いじめだ』『暴言だ』と受けとるネジ曲がった性根、上位貴族の方に礼儀の出来ない不作法、何より、ご婚約者がいらっしゃる殿方にすり寄っていく娼婦のような態度、このような事をする元娘は、貴族として人として、最低な人間です。不敬罪はもとより、罪を捏造させ謀反を起こす可能性がありますので、同じように首をはねて処刑してくださいますようお願いいたします」
「そんなそんなそんな……」
頭を下げる両親に、エレナはダクダクと流れる涙を拭う事もせず顔を真っ白にした。
「そして」
「「「このような騒ぎを起こした者達の元親として責任を取るために、いかような処分でもお受けいたします」」」
4組全員が国王に頭を下げる姿に、野次馬と化した貴族の中にはほくそ笑む者、労しそうに見つめる者、歯をギリギリと噛みしめる者がいた。
「皆の者よ。王家を含む問題児5人の家々はこの1年、更生教育、根回し、他家への詫びなど、様々な対策を施した。そのため、学校内での騒動はただの醜聞であり、事件にまでは至っていない。そして、卒業と同時に貴族籍から除籍された者達が、その事実を知らずに貴族として振る舞い、冤罪を引き起こそうとしたのだが、皆はどう思う?」
国王が会場を見渡すが、声を上げる者は居なかった。
「では、冤罪を被せられそうになった2人に訊いてみよう。そなた2人はどう思う?」
話題を振られたレイティー達は、『え? 私達に訊くの?』と驚きながらも、口を開いた。
「恐れながら、対策を施された事、除籍処分を決定された事で、親としてのご責任を果たされておいでかと存じます。冤罪については、すでに子ではないのですから、責任を取る必要は無いかと存じますわ」
「わたくしもレイティー様と同じ考えです。皆様は、醜聞という罰をすでに受けていますから、これ以上は過分かと……。それに、どの家々も他のご兄弟は優秀な方々ばかりなのに、なぜこの方々だけが問題を起こしたのかと考えますと……それは、教育が悪いのではなくて個人の問題ではないかと思います。心根や思考性によって物事の受け取り方が変わりますし、親にではなく子の性格に問題があるのではないでしょうか」
まじめに答えたレイティーの後に、サラーシャはサラっと『第2王子含め、5人とも性格が悪いんじゃない?』と言外に言った。
「っごほん。そうか、皆はどうだ?」
国王は咳払いをして会場に問うた。
レイティーもサラーシャの物言いに笑いを噛みしめ、俯いて隠そうとする。
誰かがパンパンと拍手をすると、徐々に音が複数になり、最後には会場全体が拍手に包まれた。
「もうよいぞ」と国王が優しく声をかけると、4組の問題児の両親たちは深く深く頭を下げ、元の場所へと戻っていった。
問題児達は両親に必死に縋る視線を向けるが顔を背けられる。
それにショックを受けるが、どうにかして両親の所へ行こうと体を揺すり、衛兵に取り押さえられていた。
「では、問題児達の元親には処分は無いものとする。さて、この5人の問題児達は除籍されていた事実を知らなかったにせよ、冤罪を引き起こそうとした事は許せる事ではない。冤罪をかけられそうになったレイティー嬢、サラーシャ嬢の名誉を傷つけないためにも、2人の言い分を皆に聞かせよう」
問題児5人と会場中の貴族達から視線を浴びる中、レイティーとサラーシャは揃って一歩前へ進み出た。