表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花嫁 愛でた花がチートな娘になってます  作者: 山田 武
一輪 綺麗な花にはチートがある
5/5

05片 表の友情と裏の戦い

こっそりと更新です

……時間がかかって申し訳ありません



 クラウとアカザの共同作業。

 育てるために必要な情報をクラウが用意して、それを元にアカザが育成を行う。

 ──彼は今、クラウから情報を集めることに専念していた。


「たしか、土が大切なんだよね?」


「うん。シルバーハニーは魔力の濃い場所でしか育たない、ニールヘイムでも危険な場所でしか見つけられない花なの」


 ニールヘイムは宙に散布された魔力が三国の中でもっとも濃く、領土もまた魔力によって危険地帯となる場所が多い。


 シルバーハニーはその大量の魔力を糧に育ち、甘い蜜を生みだす。

 甘露な味は各国で有名で、その花の蜜はかなりの値段で取引されていた。


「魔力が濃い? 地面に魔力が強く浸み込んでいるってことかな?」


「わたしもそう思って、土魔術が使える宮廷魔術師に頼んでみたの。だけど、それでも花は咲かなかった。きっと、何か別の条件があるのよ」


「うーん……一度、試したんだよね? クラウ様は、どうやって種を手に入れたの?」


「え? 学園の友達に頼んだら、この二つの種が貰えたの。本当に仲が良い友達だと思っているのよ」


「……種、触らせてもらって良い?」


「う、うん……捨てないでね」


 クラウから渡された種を、優しい手付きで観察するアカザ。


(うん、種自体に問題はないみたいだ。それなら原因は花壇か育て方にあるのかも。今の情報だけだと、確証がないな……)


「ねえ、植えてからはどうやって育てていたの? 少し、教えてほしいな」


「えっと……侍女に貰った水を、一日に一回お昼頃に撒いていたわ」


「その水は、水魔術のもの?」


「ううん、井戸から汲んだ普通の水」


(と、なると……やっぱりかな? その友達も、怪しいには怪しいけど……種自体は本物だし、知らなかったんだろうな)


 育たなかった理由に、ある程度目星を付けていたアカザ。

 思案する表情に不安になるクラウだが、アカザの表情を見て不安はなくなる。


 ──笑っていたのだ。


 暗い、口角がつり上がったものではない。

 ただ見た者が、伝染して微笑みたくなるような笑みであった。


「クラウ様、分かりましたよ。ぼくの予想が正しければ、これでちゃんと咲くと思う」


「ほ、本当っ!?」


「はい、良いですか?」


 それから、アカザはクラウに自論を伝えてみる。

 初めは不思議そうな顔を浮かべていたクラウも、親身に丁寧な説明をされる内に、少しずつその考えの正しさを認識していった。


「──と、いうわけなんだよ。だから、さっき言った通りに育ててみれば、OKかな」


「お、おっけー?」


「えっと、問題なしって意味だよ」


 アカザたちに与えられた(言語理解)は不完全なものであるため、『OK』が直接伝わらなかった。

 ……こうした言葉の違いが、後に異世界人たちに大きな事件を起こすキッカケを齎すのだが──それをまだ、誰も知らない。


「なるほど、異世界にはそんな言葉があるのですね。……とりあえず、アカザ様の指示通りにやってみましょう!」


「クラウ様、ぼくみたいな人を様付けしちゃ駄目だよ。呼び捨てにして」


「いえ、そんな! アカザ様はわたしにこの花のことを教えてくださった先生です! どうか、アカザ様と呼ばせてください!」


「え? えっと……まあ、OKかな?」


「ありがとうございます! アカザ様っ!」


「ふわっ! 危ないよ」


 湧き上がる喜びのあまり、アカザに抱き着くクラウ。

 学友がいるクラウであるが、異性の友は一人もいなかった。

 そうした中で突然できた、異性の友……突然だったが故に、クラスの精神も少し麻痺していたのだ。


 なので、自身の現状を認識すれば──


「ご、ごごっゴメンなさい!」


「ううん、気にしないで。だけど、男の人にこんなことを何度もやっちゃ駄目だよ」


「わ、分かりました、アカザ様! だ、大丈夫ですっ!」


(何が大丈夫なんだろう? ……まあ、どうでもいいか)


 アカザは思考を放棄し、花壇の整備を始めていく。

 こうしてアカザは、意図せずに王女を手駒にしたのであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「脅しがまだ足りないな。このままだと、あの人が確実に殺されちゃうよ」


 そう言って剣を振り払う。

 ヌメッとした赤い液体が飛び散り、壁に付着する。


「“クリーンアップ”……よし、これで証拠隠滅完了っと」


 術式名だけで魔術を行使し、汚れたその場所を一瞬で綺麗にする。

 赤い水溜まりも、焼けてこびりついた赤い染みも──散らばった人間の体も。


「いやいや、死体を綺麗にしてどうする」


 手を翳された死体は、忽然と姿を消す。

 その動作を何度も行い、いつしかこの場所には一人の者しかいなくなる。

 外套を被ったその者は、誰も居ない場所で何度も呟く。


「うん、これでよし。……さて、あの貴族はもう懲りたと思う。次はあっちかな?」


 何やらうんうんと頷き、また別の場所に移動しようとする。

 が、そのとき──


「……あれ? てっきりあの侍女とずっと遊ぶと思ってたんだけど」


「君は何者だ? それに、フィーヌのことを遊びと言うな」


 黒髪黒眼の少年が一人、接触してきた。

 彼はアカザに委員長として認識されている男で、この国に『勇者』として認定された男である。


 委員長は先程まで、つい先日褥を共にした侍従──フィーヌと寝ていた。

 しかし、廊下に居る者に気付き、こうして近づいたのだ。


「ハハッ! 君も薄ら気付いているんでしょうに。この国は、君たち異世界人を都合の良い道具としか見ていないよ。君の言うフィーヌって娘だって、仕込まれた娘なんだから」


「……黙れ」


「うんうん、このあとわたしがどう言おうと否定して、最後に黙れという展開だけは止めてね。別にね、君が──君たちがどういう選択をしようと構わないんだから」


 両手を上げて降参を示す。

 委員長はそれに怒りを抑え、冷静さを意識して話を戻した。


「なら、君は何をしにこの場所へ」


「そうだね……暗躍って言えばカッコイイかな? あっ、わたしのことはこの城にいる偉い人全員が知っているから、一々報告する必要は無いよ。ついでに君のことは、調査の最中で偶然知ることになっただけ」


「暗躍……つまり、敵ってことだな」


「へー、そんな装備で大丈夫か?」


「煩い、準備はいつでもできる。──顕現せよ、“エリクス”! “ソルム”!」


「……ツッコんでよ。にしても聖具、もう契約してたんだ。あっちも焦ったのかな?」


 委員長のその言葉で、右手に上半身に淡い光が宿り──次の瞬間、剣と鎧が現れる。


 聖具──聖なる力が宿った武具。

 契約した聖人から魔力を借り受け、魔を滅する力を与える伝説に語り継がれる装備。


 委員長はこの世界に来てから、聖剣エリクス・聖鎧ソルムと契約を行っていた。

 聖剣は自身の能力で元から、聖鎧はこの国に聖人が遺した物である。


「こんなに近くにいても、君の実力が測れない。そんな相手が弱いはずもない。だから最初から全力でいく」


「……いや、戦わなきゃいいでしょ」


「逃さないさ。君は既に人を殺している、罪人は裁かないとね」


「それが君の能力か。国にも報告していない能力だけど、それがあればこの国の黒いところも気付いていたんじゃないの?」


 委員長の持つギフト(勇者之心)には、対象の罪過を見抜く能力が存在していた。

 彼はそれで罪過を見抜き、告げたのだ。


 それはつまり、王城に住まう者たちに罪過があるかどうかも分かっている。

 彼がそれを知ってなぜ沈黙を貫くのか……それが疑問であった。


「ま、別にいいよ。わたしの目的を邪魔しなければ、君の行動を邪魔することはないよ。ほら、これで満足だから帰ろうk──」


「逃さないって、言ったよね?」


 その瞬間、王城に激震が走った。

 廊下に大穴が開き、外套を被った者と委員長は同時に外の訓練場に出る。


「良いのかな? こんな風にデッカイ穴を開けちゃってさ。いやー、さっさと逃げないと不味いなー」


「構わないさ。味方は多い方が有利だし、君が捕まれば何も問題はない」


「うわー、勇者っぽくないよこの人」


 睨み合うように立ち止まっていると、城の中からドタバタと騒ぐ音が聞こえ出す。


「ま、その通りだよ。わたしもこのままだと不味い状況になる。だから逃げるよ」


「そうはさせな──」


「バイバイ! “テレポート”」


「空間属性!?」


 発動した魔術によって、外套を被った者はその場から瞬時に消える。

 空間属性の魔術は二つの意味で貴重で、委員長が空間魔術の使い手を見るのは初めてであった(属性適性を持つ者・術式を知っている者が少ない)。


「い、いったい何が……勇者様!」


「すみません、侵入者を見つけたのですが逃してしまいました。敵は空間属性を使っていたので、もうここにはいないかと」


「!? い、急いで報告を!」


 その場にやって来た衛兵は、委員長からの報告を聞いて上司に伝えようと走る。

 再び誰も居なくなった訓練場、委員長はそこで呟く。


「次は絶対に捕まえてみせる。――全員で、生き残るために」


 聖具を解除し、委員長は部屋に戻った。

 ……なお、アカザはこのとき、音にも気づかずぐっすりと寝ている。



今度こそ、二か月以内に投稿したいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ