02片 異世界の説明(聞くとは言っていない)
お久しぶりです、前の話を少し弄りましたのでそちらから読むことをお薦めします。
光に包まれた少年たち。
彼らが次に視界に収めたのは、儀式場のような場所であった。
周りに光は灯されておらず、光源は少年たちの足元に敷かれた、先程少年たちの前に現れた魔方陣だけである。
一体何が起きたのか、状況を上手く認識できず戸惑う少年たち。
そんな彼らの周りを囲むようにして、杖のような物を持ったローブを被った者が集い、立っていた。
魔方陣から少し離れた場所で、彼らは疲れ果てたように地面に手を着いている。
まるで全力で運動を終えた時のように、エネルギーを燃やしたように大きく呼吸をして自身を休ませている。
しかし、それでも口を動かして何かを喜んでいた。
少年たちの方を向き、自分たちが偉大なことを成したことを確かめるように。
ローブを被った者たちが、その後入って来た鎧姿の者たちに肩を貸してもらってこの場から出て行くと、唯一この場で顔を晒していた少女が、彼らに近付く。
「………………。『"…………"!!』――えっと、これで言葉は通じますかね?」
前半は地球には無い言語で、後半は彼らにも認識できる日本語で少女は話してくる。
金を梳かしたような髪色と、青空のような瞳に少年たちは目を奪われる。
フランス人形のような顔で優しく尋ねてくる声は、少女の可愛さを引き立たせていた。
しかし、よく見ると声と口が噛み合っていないという不思議な光景が見て取れた。
そのことに気付いたものは、状況が状況なため誰もいない。
「ようこそいらっしゃってくださいました。私はこの国の第四王女である『―――――』と申します。初めまして、勇者様方」
その言葉に、一部の者が色めき立つ。
異世界召喚、それが行われたと即座に悟った者たちである。
予め聞かされていたとはいえ、それでもそれが現実であったのか、と驚いていた。
「了承も無くこの場にお呼び出ししましたこと、たいへん深くお詫びいたします。そのことについて説明をしますので、皆様付いて来てもらえますか?」
姫がそう伝えると、全員が姫の先導によって移動を始める。
少年もまた、その流れに従って足を進めるのだが――
「……ん? ここは、どこ?」
この時、少年はまだ状況確認もできていなかった。
◆ □ ◆ □ ◆
「…………」
「――で、ありますので、皆様方をこのような形で――」
(みんな、何を話しているんだろう?)
少年――檎蘊 藜は、ボーっとした様子で目の前で行われるやり取りを聞いていた。
クラスの男子の中で一番低い身長で、周りの状況を把握するためにキョロキョロと様々な場所を見ていく。
「――――――」
(あれは……確か学級委員の人だよね。どうして……あの、王様っぽい人と話しているんだろう?)
現在、クラスメイトはこの国の王と自分たちに起きたこの召喚についての情報を訊いていたのだが――少年は未だに、自分の置かれている立場を認識していなかった。
本人が人の話を聞かない性格なので、そもそも会話を耳にしていない、というのが正しいのだろうか。
玉座のような場所に座る、王冠を被った王と、いつも学校で自分たちを仕切っていたクラスメイトの一人を見て、そう考えた。
(確か……ぼくは放課後を楽しみにしていた筈だよね。服は――そのまま。アレも……大丈夫、ちゃんと入ってる。なら――うん、他はどうでもいいか)
王と学級委員を視線から外し、自身の服をしっかりと確認する。
自身の制服のポケットを漁り、例の物があることを確かめると、一息吐いて再び思考を行う。
当然、話は聞いていない。
(ここは何処なんだろう? テレビで見たことのある王様の部屋と似ている。だけど、テレビのドッキリってワケでもないみたい。学級委員の顔は真剣みたいだし、周りのみんなも色んな表情だ。だけど、他の人たちの表情がドッキリって顔じゃない。悪いことを考えている人もいるし、僕たちのことを心配している顔もある。うん、つまり――ぼくはあそこには戻れないのか)
話は聞いていないが、自分なりの解釈で状況を理解していく。
クラスメイトからは好奇心や怯え、正と負の表情が読み取れるので、クラスメイトの中に協力者でも居ない限り、この状況はドッキリで無いことがすぐに分かる。
周りの者の服装はドッキリで無いことを加味して考え、西洋の国に誘拐されたことも考えた……が、あることに気付き、考えを改めていく。
(何かを言っているけど、口の動きと明らかに違っている。それでも学級委員と会話が成立しているということは、翻訳機があるか通訳さんがいるってことになるけど……学級委員の言葉を一回一回王様っぽい人に伝えている人はいないから、この考えはない。それなら普通ではありえないこと……確か、秘密道具とか魔法とか、そんな感じだっけ? 地球にない技術なら、それができるんだ。つまりここは異世界か未来、でも部屋に未来っぽさが無いから異世界なの? それでぼく達が呼ばれたから、その説明の最中なのかな?)
正解も正解、大正解である。
彼はこうして話を聞かず、自身の考えだけで周りの状況を把握することができる。
……ただ、よく間違えるのだが。
少年は思考中だが、状況もまた刻一刻と進行中である。
思考を一旦止めて再び周りを見渡すと、クラスメイトたちは奇怪な行動を取っていた。
(……ん? 変な石、手を当てると何かの情報が出てくるんだ。学級委員が一番最初に触れて、他の人たちがそれを見て喜んでいる。あの人達が求めていたもの? それが学級委員だったんだ。えっと、あれは……ゲームとかでよくあるステータス、かな?)
彼のクラスメイトたちは、石に触れることで投影された情報に一喜一憂していた。
それは、ステータスと呼ばれる個人情報を開示する力を持った特別な石である。
石は迷宮と呼ばれる場所でしか発見されておらず、完璧な複製も行えずにいて、劣化させた物が世に普及していた。
国の者たちはバレないように、そうして表示される異世界からの召喚者たちのステータスを見つめ、何か紙のような物へそれを記していく。
少年はそれに気付いていたが、特に気に擦ることでも無いと考え、クラスメイトたちの様子を窺う。
(あれ? もうぼくの番なの?)
そうしてクラスメイトが一人一人情報を見せていくと、当然最後には並んでいなかった少年の番になる。
周りに急かされながら、少年は石の前に立ち、それに触れる。
「うわっ!」
そして、彼の目の前には、このようなものが宙に投影された――。
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ステータス
名前:アカザ・ゴオン (男)
種族:異世界人 職業:花卉農家 存在値:1
生命:3
体魔:10
屈強:2
頑丈:2
瞬発:2
抵抗:4
ギフト
(言語理解)(花卉栽培)
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(RPGに、確かこんなのがあったね。これが、こっちの世界でのぼくのプロフィール。
わざわざ種族を異世界人としてやるぐらいだし……ぼくたちには、ちょっとしたボーナスが付いているのかな?
ギフト、つまり贈り物だね。一つ目は全員に渡されている物で、二つ目がぼく専用の物かな? うん、ぼく向けの名前だ)
そう思いながらも、少年――アカザは周りの状況を確認していく。
(反応は……不快、嫌悪、諦念……つまり外れって思われてるね。他のみんなのヤツは確かに能力が高いし能力も多かった。それに比べてぼくのは確かに弱そうに見えるんだ)
アカザにしか分からない、アカザのステータスが持つ真価。
それに気付ける者はこの場には存在せず、クラスメイトたちの中でもかなり低く、ギフトの少ないアカザに負の視線を向ける者が続出した。
しかし、アカザはそんな視線など気にもせず、客観的な考察を続ける。
(あくまで必要なのは即戦力。ギフトとして表示されていない大器晩成型は、この場には必要とされていないんだね。ぼくのは……別にそういったギフトじゃないんだろうけど)
アカザのギフトに記された能力――(花卉栽培)の『花卉』とは、観賞用の美しい草花、という意味を持つ。
つまり、アカザのギフトは草花に関わる能力だと周りの者から理解できるのだ。
植物に関するギフトならば、クラスメイトの中にも存在していた……が、アカザと違って能力値も高く、ギフトも植物全般を操るものであったため、アカザが下位互換として見られている。
……まぁ、アカザ自身は誰からどう思われているかなど、毛ほども意識しないのだが。
◆ □ ◆ □ ◆
「うーん、疲れたー!」
宛がわれた部屋の中で、アカザは叫ぶ。
アカザのステータスを確認した時点で、今日やることは終わったらしい。
彼らは個別に用意された部屋に案内され、明日のために休養するように伝えられた。
「頼んだ物は貰えなかったなー。早く愛でたいのに」
アカザは、自分をこの場所に案内した者にある物を頼んでいた。
しかし、それは素気無く断られ、今日は諦めることになった。
「でも、これだけは諦めない。例え誰がどう言おうと――絶対にやる」
とても昏い眼をして、アカザは呟く。
そして、それが成されたかどうか……それは暫く経ってから判明する。
ヒロインは次回登場……かな?