01片 知らぬ間に異世界召喚
どうも、作者の山田武です。
超不定期更新(最高で二ヶ月に一度)ですので、ブックマークに入れておくといいかもしれませんよ(チラッ)。
p.s.伏線を足しました。
「ふんふんふーん♪」
ある晴れた日。
燦々と照り付ける太陽が頭上である中、少年は一人歩いていた。
少年はニコニコと笑顔を浮かべており、とても楽しそうであった。
目的の場所に着くと、その手に持っていた物を振り撒いていく。
「みんな元気か? 今日は日が強いみたいだし、少し多めにしておくぞー」
誰もいないその場所で、少年は一人口を動かしている。
その場には、花が咲いていた。
少年が丹精に世話をし、休み時間を削って育ててきたその花は、元気いっぱいに空へ向けてその花弁を開いている。
少年が如雨露で水を振り撒くと、滴が太陽の光で反射してより一層輝いていった。
「……おっと、もう休み時間も終わりみたいだ。放課後はもう少し居られるけど、そろそろ新しい花を育ててみるからね」
少年は花へ向けてそう告げて、教室へと向かう。
その少年の表情は、先程とは打って変わり能面のようなものに変わっていた。
◆ □ ◆ □ ◆
少年が通う高校は、どこにでもあるありふれた学校だ。
ただ一つだけ、普通と異なる点を挙げるとすれば――それは花壇であろう。
色取り取りの花が咲き誇り、訪れる者を癒していく。
その素晴らしさは、テレビで紹介される程であった。
そんな花壇だが、数か月までは存在していなかったものである。
ある程度植物は植えられていたものの、店で売られている球根を一定間隔で植えただけの作業的な花壇であった。
ある時、一人の新入生が学校側に尋ねた。
『自分で花壇に花を育てても良いですか?』
学校側は、授業に差し支えない限りは構わない――そう新入生に答えた。
その新入生は学校側の回答通り、朝や休み時間、放課後などに花壇に向かい、日々花を愛でていく。
そうして数か月が経過した頃には、今の花園とも呼べる花壇が誕生していた。
……何も問題が無かったというワケでは無いが、それはまた別の時間に。
◆ □ ◆ □ ◆
「…………だからですね、皆さん…………」
授業も終わり、今はSHRの時間。
担任の教師が注意事項を述べていた。
少年はそれをボーッと聞き、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。
担任の教師も気付いてはいるが、今は他の生徒に連絡をしなければならない。
あとでちゃんと伝えよう、とだけ思って連絡を続けている。
(種はいっぱい持って来たけど、どれが一番合うかな? やっぱり一度は珍しい花を育ててみるのも良いかもね)
少年の頭の中は、花壇のことでいっぱいであった。
他のことなど眼中にも入らず、思考の片隅にも置かれていない。
ただこの意味の無い時間が過ぎたあとのことだけを考え、上の空であった。
――だからこそ、これから起こることにも気付くことは無かった。
「……おい、扉が開かないぞ」
初めに気付いたのは、早く部室に向かう必要のある運動部の生徒だった。
扉を開けて教室を出ようとしたが、肝心の扉が開かなかったのだ。
「あれ、窓も開かないわ」
空気を入れ替えようと窓を開けた女子が、そのことに気付く。
どれだけ力を入れようと、女子だからと理由では済ませられない程に、窓はガッチリと閉まっている。
「――ま、魔方陣キター!」
小太りな男子生徒が叫んだ通り、教室の床には幾何学な模様が描かれていた。
担任も含めた全生徒が、魔方陣の中に入っている。
魔方陣が輝きを放ち、一瞬空間を白くすると……その場には、誰も残っていなかった。
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さて、君たちには選ぶ権利がある。
必死に抗って死ぬか大人しく言うことを聞くか。
いい加減に落ち着いてくれないと、こっち側で用意していた話ができないんだよ。
……うん、分かってくれみたいだね。
君たちの身に起きたのは、異世界からの召喚イベントだよ。
物語でもよくある、困った時の異世界人頼り! 男の子の何人かは、もう理解できているみたいだね。
君たちはこれから呼ばれる先で、勇者として活動すると思う。
簡単に説明しちゃうけど、いわゆる剣と魔法のファンタジーの世界で、地球人は様々な事情から優遇されるようなルールがあるよ。
そしてこの場所では、君たちに個別で能力が与えられるんだ。
詳しい説明は後でするけど、今は召喚される世界についての説明をしようか。
呼ばれる世界には幾つかの種族がいるよ。
君たち地球人とそっくり、魔法が使えること以外は本当に似ている人間種。
体の一部が人間種と異なり、特別な力を各種族毎に持っている亜人種。
人間種と亜人種よりも強い力を持っているけど、あんまり数が多くない魔人種。
あと……種族とは違うけど、世界の害悪となる存在、魔物。
亜人種と魔人種は、エルフとか獣人とかゴブリンとかオーガとかでまた分類が違うんだけど、そこは召喚された場所で訊いてね。
魔物に関しても同じ、実際に魔物と関わっている人から意見を聴いた方が良いからさ。
今度は国の説明。
人間種が最も集まる国であり、君たちを召喚したオラシオン。
亜人種が最も多く住んでいて、自然豊かなエリュカイナ。
魔人種が最もいっぱい暮らす、過酷な環境であるニールヘイム。
君たちが直ぐに関わるのはこれだけかな?
あくまで君たちが召喚されたのには意味があるんだし、そこに関する部分だけしか説明の義務はないんだよ。
はい! つまんない説明は終わり!
君たちが一人一人貰える特典の話をした方が盛り上がるよね?
……うんうん、みんな楽しんでいるね。
ここからは別々にやるよ――さん、はい!
◆ □ ◆ □ ◆
――と、いうワケなんだよ。
君たちの才能が、ゲームのように表示される便利な仕組み……って、本当に興味ないんだね、君は。
確かに君の要求したことは、可能だよ。
……でも、本当にいいの?
君がその気になれば……その、文字通り何でもできたかも知れない。
本当は分かっているんでしょ?
実際の君には、その才能が無いことを。
……うん、分かった。
ただし、幾つかの条件は付けるからね。
君はここで聞いた全てを忘れて、召喚される場所で眼を醒ます。
本来あった全ての能力は剥奪、代わりに君の求める能力を与える。
君の願いは確かに叶う、だけど……それは君の望む形では無い。
本当に……良いんだね?
◆ □ ◆ □ ◆
はい、みんなお疲れ様!
みんな自分自身の能力を選んだよ。
サービスとして(言語理解)……えっと、単純に全部分かるんじゃなくて、条件を満たすと相手の言葉が分かるスキルを渡したよ。
完全にペラペラ話すのもあれだから、しっかりと話したいなら自分で勉強してね。
それじゃあ、そろそろ向こう側の人たちも限界だろうから行ってもらおうよ。
みんな、頑張ってね!