こちら不死身のコーレグース部隊、たぶん木星戦線異常なし。
火星圏ダイモス宙域、南南西第八戦線にて。
人工重力に押さえつけられたと錆び臭い人工大気の中、ンバラバ星人の放った一発の細菌弾が俺の胴体を貫いた。
「大丈夫ですかクラッツ隊長!傷は浅いです!アルコールで消毒を!」
仲間たちが駆けつけてくれたが、もう無理だ。それは自分が一番よく分かる。
「みんな、すまん、ティナには上手く伝えてくれ」
宇宙戦艦の食堂でいつもみんなに笑顔で食事をふるまい、どんなときも俺たちの活元になってくれた月面生まれで、正にかぐや姫のように輝いていたティナ。
こんなときだってのに、彼女の笑顔しか思い出せないぜ。
「――やっぱり、本当だったんですね、ティナちゃんとのこと」
横から海底人のアブァリスが心配そうに覗き込む。あいつの三段腹すら細く見えやがる。
「へへ、抜け駆けして告白したバチが当たったかな……」
「諦めないで! 待っていて下さい! 今アルコールで消毒を!」
沖縄鈍りの抜けない伊志嶺が袋を漁って消毒用アルコールを探すが、そんなもので細菌弾は……。
ん? ちょっと待て。
「伊志嶺? お前のアルコール探してる袋、それ、医療袋じゃなくて、お前の私物入れじゃないか?」
「医療袋は落としましたが、ご安心を! アルコールは有ります!」
「? お前、沖縄出身なのに酒飲まないって云ってたのウソか?」
「酒ではありません、沖縄から持ってきた【コぉれエグゥス】です」
沖縄鈍りで持ち出したのは小さなペットボトルに入った透明な液体。中には何やら赤いものが浮いている。
「本島語でコーレグース。泡盛にトウガラシを入れた調味料です」
あー、あの赤いのは唐辛子か。なるほど。沖縄は色々なの有るなー……って。
「え? それ、傷に塗るの?」
「消毒に使えるアルコールはこれしかありません!」
「いや、それも無理だって。トウガラシ入ったアルコールを傷口に塗ったら死ぬほど痛いっ……」
無言で仲間たちが俺を押さえ付けた。
地底人のシシッフとか、何人か半笑いな気がするんだが。
「すみません、耐えてください、俺たちも……フフッ……辛いんです。
これには決してティナちゃんに抜け駆けして手を出した制裁の意味とかは無いので悪しからず」
「あるよね!? わざわざ云うってことは一〇〇%あるよね!?」
「重症で疑り深くなってるんですね、さあ、傷口を出して……よし!深いな!」
「今、よしって云った? 俺の傷が深いの喜んだよね?」
幻聴です! そう云い放つ力強さそのままに、伊志嶺コーレグースのキャップを投げ捨てた。
「それじゃ、ティナちゃんの恨み……じゃなかった、傷口にコーレグースを……」
「今のは聞いた! さすがに聞いた! 云い逃れできないレベルで聞いた!」
「……」
「……」
「死ねぇぇ! クラッツぅぅ!」
「開き直るんぢゃねぇエエっ!」
俺の咆哮が、戦場に響き渡った。
――このあと、手当てが適切だったお陰か、それとも細菌弾が弱かったのかは知らないが、俺は九死に一生を得た。
その後、俺が仲間たちが同じ目に遇ったときにふくしゅ……救えるようにコーレグースを持ち歩くようになったのは云うまでも無いだろう。
「さああ、お前らァー? 安心して撃たれろぉ~? 俺が救護してやるからなぁー?」
結果、俺の部隊は怒濤の回避能力を発揮する超部隊となった。
――諦めるものか、活躍に比例してうちの部隊は、木星の最前線に送られる。
なんとしても、キサマらにあの痛みを味わわせるまで、誰も死なせない。
後に宇宙全土にその名を轟かせる不死身のコーレグース隊伝説の始まりだった。