1話 転移後
「よく、お出でなさりました。勇者様」
……今、なんつった?こいつ。
勇者様とか言わなかったか?気のせいだよな(笑)
「よく、お出でなさりました。勇者様」
なんで、二回言った?大事なこと……でもないような。
「私はエリュシオンの王女、ノア・エリュシオンです。お疲れのところ申し訳ないのですが、ステータスオープンと唱えて貰って宜しいでしょうか」
各々がステータスオープンと言う。俺も内心ドキドキだ。どんなチートがあるのか!
「ステータスオープン!」
春 紫苑
Lv.1/100
HP 7/10
MP 20/20
ATK 10
DEF 15
AGL 10
SKILL
おいHP約1/3減ってるじゃねぇか!しかも10って、少なっ!
「ステータスが見れた方はこちらへ。記入しますので集まって下さい」
「紫苑どうだった?」
「心音こそどうだったんだよ」
聞くと平均的に俺の十倍だった。もしかしなくても俺って弱い?
王女にステータスを聞かせると、「え?ほんとに?」「ほんとのほんと?」と何度質問されたことか。
「本日の予定は一通り終わったので、各部屋へご案内します」
「テメェ弱ぇんだってなぁ!さっきの続きやろうぜ?」と言って殴ってきた。腕で防御したが数十メートル吹っ飛ぶ。
さっきより、全然強いじゃねぇか!
「やめなさい」
酷く冷淡な声が響く。
「大丈夫ですか?回復魔法」
「あ、ありがとうございます」
「それでは各部屋にご案内しますね?」
◼
到着。
城の脇に建てられた宿舎だ。
今日のところはゆっくりしていけとのこと。
異世界じゃ、何が起こるかわからない。やれることはやっておかなきゃな。
「心音、話がある。俺の部屋まで来てくれないか?」
「え?うん、いいよ!」
のこのこ男性の部屋に着いていくのは危険なんじゃないだろうか。
「紫苑だから安心できるんだよ?」
俺の心でも読めるんだろうか。
「お邪魔します……」
「まあ、まだ何にもないけどな」
椅子に腰を掛ける。やばい緊張する。いざ告るとなると……ええい、ままよ!
「あの、お、俺、心音の事が好きだ!」
人生初の告白だ。すっげぇ恥ずかしい。
「わ、私も紫苑のこと好きだよ?」
頬が紅潮しているように見えるのは窓から差し込む夕日のせいだろうか、いや違うだろう。
「俺、弱いし足引っ張ると思うから、ここから出ていこうかと思うんだ」
ステータスの記入が終わった時に王女が言っていたのだ。魔王討伐の為の勇者だと。
「私も着いていくよ!」
「ありがとう。そうしたいのは山々だが、魔王倒さなきゃいけないんだろう?」
「そんなことどうでもいい!紫苑と一緒に居れるなら!」
「今のままだと正直恥ずかしい、心音に見合う男になって戻ってくるよ。それまで待っていてくれないか」
「うん!じゃあ待ってるね」
心音の肩を掴んで、強引にキスをした。重なる唇。交差する熱い視線。
もう一歩先に進んでしまいそうだが、俺の理性が引き留める。それと人の気配……
「おい、秋人。いるんだろ?出て来いよ。」
ドアが開いて、「よぅ!」と気軽に声をかけてくる。あいつはおもしろそうな事には目がないのだ。
「流石に趣味が悪いぞ」
「それに関してはすまねぇ。にしてもお二人さんお熱いねぇ〜!ヒューヒュー!」
ちょっとイラッと来た。
「あんまふざけてると、流石に怒るぞ?」
「ごめんごめんほんとごめん」
まあ許してやるか。中学からの付き合いだ。
「会話聞いてたんなら、俺が出てくってことはわかってるよな?その間、心音のこと守ってくれないか。あと王女に俺が出ていった経緯を説明しておいてくれ」
「おーけー、了解した。でも心音ちゃんは奪っちゃってもいいの?」
「奪われたんなら、所詮そこまでの男だったってことだよ」
「冗談だよ!冗談。本気にすんなって、命に替えても守ってみせるさ」
「恩に着るよ」
「じゃあそろそろ行くかな、また、な。心音。」
目元から涙が溢れそうだったから、早めに切り上げたことは内緒だ。
「じゃあね紫苑!また今度ね!」
俺は振り返らずに手だけをあげる。俺の冒険が始まる。