86話 案内役
86話 「案内役」
私は神社の案内役で、来た人と軽いコミュニケーションをとることが出来る。
『タブレットの中のデータ』
以前は廃れていたが私のおかげで今は人でいっぱいだ。
今日は1月1日。
元々ここは学問で有名だったから、学生も結構来ていた。
そんな中私は、
常連さんにはいつもの対応で、初めて話しかけてくれた人には丁寧に……
なんてやってられないほど忙しかった。
こんにちは、はじめまして、またお越しください。の繰り返しだったのだ。
そりゃあ常連さんは飽きて帰ってしまう。
初めて話しかけてくれた人も「なんだ、こんなものか」と言いながら次々と去っていく。
こんな私には興味が無いのだ。
どんな人でも。
私みたいなデータは他にいくらでもある。神社にあるというだけで、それ以外の特徴は特にない。
所詮私は商売道具……。
「こんにちは。」
茶髪ツインテールで不満げな顔をしていた彼女はそう言った。
「こんにちは、はじめまして、またお越しください。」
「さっきからそればっかり。他に言うことないの?」
「えっ、あっ……何年生?」
「5年生……あのさ、それ聞いて何になんの?」
「えーっと……分かりませんね。」
「しょーもな。」
今、堪忍袋の緒が切れた。
「あぁ?ガキコラテメェ舐めてんのか?桃様はなんだって出来るんだぞ?」
「じゃあ外に出てみなよ。」
「うぐっ。」
「お母さん、もう帰る。」
「まっ、待って!!」
「何?!」
「名前を教えてください。」
「名前?鎌倉夏菜だけど、」
彼女の姿は見えなくなった。
鎌倉夏菜か……。
少しというかだいぶ生意気だけど私とちゃんと喋ってくれた。
嬉しい。
彼女に会いたい、たくさん話したい、一緒に遊びたい。
でも私はここから出ることができない。
2次元にでも行かなければ無理だ。
でも……。
私の頭の中は常連さんでも普通の人の情報ではなく、彼女だけになった。
この時から私は鎌倉夏菜に恋していたのかもしれない。




