84話 「ごめんね。」
84話 「ごめんね」
「あなた達が栗山桃を殺そうとしているのは知ってる。」
少しにやけた顔で羽場咲はこう言った。
「だからここで大人しく引き下がる事ね。」
別人有亜は青ざめている。
そりゃそうだ、何も出来ないのだから。
「でも、私ならお前の武器を奪える。」
私がアイツの銃を奪えばこの場から逃げられる。
しかし、
「バカねぇ。そんなの知ってて挑発してるのに。」
奪えない……!?
嘘だ……そんな……。
「さぁ早く帰りなさい。」
ジリジリと寄ってくる彼女に私はどうすることもできずに立ち尽くした。
私達との距離が30センチくらいになった時、
さっきまで青ざめていた有亜がニヤリと笑った。
「お前は引っ込んでろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
強烈なパンチが羽場咲を襲った。
「何してんの。」
「こんなところで挫けちゃダメでしょ?」
「いやでも……」
「大丈夫。栗山桃を消せば、あの人も消せるから。」
「う、うん……。」
別人有亜がスタスタと学校へ歩き始めた。私も、もちろんついていく。
「ふふふ……フハハハ。」
不気味な笑い声が不穏な空気を醸し出した。
「もう、栗山桃がいなくなれば能力も無くなる。頼ってちゃいけないんだよ。」
「そうね……。」
寂しそうな顔をしている。
私と離れるのが嫌なのだろうか?
「私ね、嫌なの。」
やっぱり?
「人を殺すのが、」
「え?」
「いくらデータだろうと相手は栗山桃っていう人。私は今からその人を倒さないといけない。でも、本当にそれでいいのかなって……。」
「ど、どういうこと?」
「だってさ、桃さんだって好きな人いたわけじゃん。未練とか後悔とか残っちゃうじゃん。報われないじゃん……。今更何を言ってるんだろうとか思うかもしれないけど、私、殺したくない。消したくない。」
「……」
「ごめんね。早く帰りたいのに。」
目から零れる涙を手で拭いながら歩く別人有亜はどこか寂しそうだった。
「じゃあ消す前に栗山桃の願いを叶えるのはどう?」
「へ?何で?帰りたいんじゃ?」
「別に私はどこにいてもいいし、今すぐ帰りたいわけじゃない。いろいろ疑問はあるけど、それでも構わない。」
「うん。」
「私はみんなが幸せならそれでいいよ。もちろんあんたもね。」
歩くのをやめて振り返り、抱きついてきた。
「あのね、もう一つ嫌なことがあって。
私、あなたと色んなことに関わっているうちにあなたと離れるのが嫌になっちゃって……。これって恋なのかなんなのか分からないけど、もう少しだけでいいから一緒にいたいなって思ったの。駄目かな?」
私も空いていた腕で思い切り抱きしめた。
「もちろん。」
いつの間にか私の目からも涙が零れていた。
土曜日更新できなくてごめんなさい。
以後気をつけます。
いよいよ次回で10章が終わります。
2人の向かう先にあるものとは?




