53話 あなたが好きだから
53話 「あなたが好きだから」
「いい雰囲気ぶちこわしやがって!誰だ!バス切ったの!」
「せっ……先輩!落ちます!」
「ふぇ!?」
「このまま行けば電柱に当たって終わりです!さぁ私に捕まって!3、2ー1!」
「ちょっと待っ!!」
アリアを抱え背中から転がり落ちた。
「大丈夫か?アリア!」
「大丈夫です。それよりも先輩……手……」
「あっ」
どうやら手首をバスの中に置いてきたようだ。
「これでよし。」
アリアはわざわざ近くの店で裾の長いコートを買ってくれた。
「手首、いや手すら見えていないので大丈夫ですね。」
「この格好は大丈夫じゃない気がする。」
「手首が切れているのを見せるんですか?」
「まぁそれも嫌だけど……別にいいか。あ、時間大丈夫か?」
「走らないと間に合いませんね……。」
「じゃあ行くか!」
「はい!」
いつの間にか元に戻っていたバスが通り過ぎるのを見てから私達は走り出した。
「アリアちゃん!雨璃さん!」
「咲!?」
夏祭り会場に来ると着物姿の咲がいた。
「すみません。遅れてしまって……雨璃さん。そのコート、どうしたんですか?」
「いや……その……。」
「そういえばさっきのバスの中で手首を見つけたんだけど、絶対あなたのでしょ?」
「はい……。」
「よかったですね。先輩!」
「よかったのか?」
手首はセロハンで貼らずにポケットの中に入れた。
「で、夏祭りでは何をやるんだ?」
「たこ焼きとかを売るんですよ!」
「あぁそっちね。」
「そっち?まさか客の方だと思ってました?」
「もうその話はいい!さっさと行くぞ!」
咲が密かに笑っている気がした。
「アリアは張り切ってるな。あの双子も手伝うの大変そう。」
「後は私達にお任せ下さいと言われましたが何もしないのは申し訳ないですね……。」
「任せときゃいいよ。イリアとエリアはアリアを監視するために来て……何でもない。」
「なんだか楽しい。」
「ん?」
「なんでもありません。ふふっ。これでお互い様ですね。」
「あーそう。」
咲は前髪についてくるハエを払いながら
「私はあなたが好きです。でもあなたは私の事を好きじゃない。これは実らない恋というものなのでしょうか?」
寂しそうな顔で言った。
元々友達になったのは恋人へのワンステップだし、告白の返事も返せていない。
「アリアさんが呼んでいますね。行きましょうか。」
言った方がいいのだろうか。
でも……
「雨璃さん?」
「あのさ、」
なんで言わないんだよ。言えよ早く。
「咲、付き合ってください。」
咲は目を丸くして払っていたハエを握りつぶしていた。
また言えてないじゃん。本当のこと。




