205話 「言いたいことを言えと
205話 「言いたいことを言えと」
この校長の名はまだ知らない。
本人が一度も口にしたことがないからだ。
正体すらよく分かっていないが、この地域で1番強いのではと思う。何も説明していないのに全てを分かっているのだから。
「教師をやめると……それだけ?」
さっきのハイテンションとは真逆の真剣さで私に迫ってくる。
「はい。」
簡潔に答えると胸ぐらを掴まれた。
「仕事を辞めてどうするつもり?この地域のことには極力関わらずにただただ遠くから眺めるだけ?」
どうしてそこまで考えるんだ。大体あっているが。
「でしょ?君、人の心は分かっても自分の心の声もダダ漏れだってことには気づかないもんね。」
それはあなたが私の中を覗けるからだ。普通のやつには何も聞こえないように調整している。
「はーん。よく分からないね。まぁ、辞めさせないけど。」
そう言うだろうとは思っていた。しかし、私は諦めない。
「働き続けることは諦めるのに?はぁ……分かってないなー。いくら君が何を言ったって無駄なんだよね。君がここでやめてしまえば確実に世界は滅びる道へと進み始める。そうならない為にも私は簡単に頷いてはいけないんだよ。やってもらわなければならないことがある。今横にいるでしょう、月雲雷って子が。文化祭を成功させるにはその子と君が必要なんだよ。あとタブレットになってるアイもね。」
ずっと首元が苦しくても私は平気な顔をしていた。
それがどうしたんだ。世界がどうなろうと私はもう知らない。
私が動いてもどうにもならないだろう。ならば、共に滅びゆく世界をゆっくり眺めていた方がマシだ。
と、この時の私は考えていた。
「あの二人とも……会話の流れが掴めないんですけど……あの……ちょっといいですか?」
校長と一緒に首を90度くるっと回すと月雲は少し退いた。
「私には大切な人達の命がかかってます。先生が学校を辞めたいなら勝手にどうぞ。でも、私はみんなと文化祭を盛り上げますから。」
私はこの人の心をずっと聞いてきたので分かるが、
彼女は変わった。
ずっと聞いてきたと言ってもほんの一瞬だが、
それでも変化を魅せるというのはすごい事だ。
実際彼女は心の中で、
『菊野と桜葉を解放する為にも、ここで私が今まで嫌っていたもの達と関わっていかなければならない。だから、宣言するんだ。力の仕組みがわからないからどうなるか分からないけどきっと上手くいく。今までの最低な自分から生まれ変わるんだ。』
と、言っていた。
最低な自分と思っているということは過去に何かあってその事について自分が悪いところがあり、反省しているということなのだろうか。
私だって……いやこの子よりもきっと最低な人間なのだろう。紅葉の件に関しては協力してもらっていただけなのだが、何も知らない奴から見ると何故今のうのうと仕事をしてるんだと言われかねない。
教師になったのにもちゃんとした理由がある。
生徒が頑張ろうとしているのに私が諦めてどうする。
私は校長の腕を思い切り掴み遠ざけた。
「月雲雷と言ったな。」
「へ?言いましたっけ?あれ?言った気がするようなしないような……まぁどっちでもいいや。」
「お前がクラスの中心となり最高の文化祭を作ってくれるなら協力しよう。教師を辞めるのはその後にする。」
月雲は固まったあと顔を緩ませた。
「よかった……。」
元の席に戻った校長はニコッと笑う。
【お前ならやってくれると思ってた】と言わんばかりの……
「なんだい?」
「なんでもないです。」
急に色々決まり、私達は窓の外から生徒が来ないか確かめていた。
「あ。」
ひとりの少女が走ってやってきた。
「お?あの子はいつも1番に来ている出席番号が最後の和田 真樹さんじゃないか。」
なんでもしってるな、校長先生……
「そりゃ、私は校長先生だからねー。」
その和田さんがこちらに向かって走ってくる。
そういえばいつの間にか火事がおさまっていることに気づいた。本当に燃えたわけじゃないけど。
和田さんは窓を叩いて、校長先生が開けると直ぐに飛び入ってきた。まるで誰かから逃げてきたみたいに。
「おはようございます。私、和田真樹と申します。ご存知かもしれませんが、2年生なのでそこの人、よろしくお願いしますね。」
月雲と握手をした和田はすたすた歩いて校長室をでていった。
ちなみに彼女はこれから私達が関わるクラスの一員ではない。
しかし、すごく関わってくる人物なのだということをまだ知らなかったのである。
本日の小説更新は明日の体調面を考慮しておやすみとさせていただきます。
今日の分は平日のどこかであげられたらなと思います。申し訳ございません。
追記 (2018/12/22)
今日の更新はしません。申し訳ございません。また更新日が不安定になります。必ずしも土日とはかぎりません。ごめんなさい。
追記 (2018/12/29)
一部修正しました。




