204話 冷静で涼しく
204話 「冷静で涼しく」
言われてからはっと我に返った。
「熱くない……怪我もしてない……なんで?」
「これは全部幻覚だからだ。お前を惑わせて捕まえようとした誰かがいたんだろ。」
「そう……なんだ……。もしかして分かってたのか?」
「勘」
「はーなるほどー……っておい!もし本物だったらどうしてたんだよ!ふざけんな!!」
「まぁ落ち着け。敵はすぐ近くにいることを忘れんな。お前、校長室に行きたがってたのに道が分からなかったんだろ?それもお前を惑わすための力が働いてたからさ……。」
「誰だよ……そんなこと出来るやつ……」
「とにかく急ぐぞ、校長室に。」
また軽々と私を持ち上げたこいつは燃えていない方向に走り出した。
「何者なんだ?」
「私は山野涼。この学校で教師をしている。」
「あ、教師か……」
「あってなんだ。」
「なんで、ここに来れたのかなと思っただけです。」
「ん?どういうことだ?」
「今日は普通に登校日なのにほとんどの人が来てないでしょ。なのにあなたは来れたんですねって話……です。」
「……」
なぜか山野涼はそこから校長室に着くまで何も返さなかった。
着くとゆっくり降ろされた。
「ど、どうも。」
人に礼を言うのが恥ずかしい私はもじもじしていた。全く気にせずに山野涼はドアを開けた。
「失礼します。校長先生は……」
私がドアを閉めて入ると同時に校長先生が座っているであろう椅子が……後ろをむいていたその椅子が前にくるんっと向いた。
「何か用かね。」
足と腕を組み、前髪で片方の目が隠れている彼女は、すごく怖かった。
「こいつが校長先生に用があると。そして私も相談したいことが……」
室内なのに深々とかぶっていた帽子をぱっと外し立った。
身長は高い。山野涼もよく見れば高いが、この人はそれ以上。
上から見下ろされてる気分だ。
ずんずんと近づいてきて私の両肩を掴んだ。
「やぁやぁやぁやぁ!待ってたよー!!あ、コンセントはそこね!マフラーをそばに置けばいいから!2人はそこのふかふかのソファに座りなさいな!はいはいはい!!」
急に陽気になったから驚いた。
「校長、ふざけないでください。真面目な話なんで。」
「ごめんごめん!一回やってみたかったの!はい、マフラー脱ぐ!」
無理矢理とられたマフラーはコンセント付近に投げ出された。するとタブレットに変わり自動で充電した。
「で、どっちから何を話すんだい?」
山野涼をちらっと見てもなんの反応もなかった。なんなんだこの人。
仕方ない。先に済ませよう。
「あの……校長先生?」
「はいはいー校長先生だよー。何かな?」
「明日から夏休みにしてください!!」
すごい速さで土下座した為か、校長先生の前髪が吹っ飛んでいた気がした。
「ふーん。明日からねぇ……」
「期間は例年通りで、文化祭を早めに開催できればと思いまして!」
「んー……ま、顔上げなよ。」
そっと顔を上げると、目の前に校長先生の顔が見えた。
「うわっ!!」
「別に構わないんだけどね……君の魔法を解いてもらわないとどうにもならないんだよ。」
「へ?」
「終業式というのをやらなきゃいけないの。だから明日からは無理。だけど、明後日からならOK!君が生徒をここに来れるようにしたらね。」
私が……生徒を来れないようにしていたのを知っている。この人、只者じゃない。
「分かりましたが……どうやって……」
「君が、文化祭を『みんな』でやりたいって思えば来るんじゃないかな?」
「『みんな』で……」
他人との関わりを嫌ってきた私が……そんなことを望めるのだろうか。
でも、あのふたりのためにもやらなきゃいけない……うん、やろう。やってやろう。
「山野先生はどんな話をしに来たんだい?君、滅多にここに来ないじゃんか。」
「ほとんどの先生がここには来ませんよ…………私の話というのは……」
「なになにー??」
私が起き上がってソファに座ると山野涼は険しい顔をしてこう言った。
「先生をやめます。」
これで17章は完結です。
次章の語りは山野涼です。
少し早く始まった夏休み。
個性的なクラスメイトをどう文化祭に参加させていくのか。
そして2人は元に戻れるのか……
来週と再来週の土日更新は私の都合が悪いため休ませていただきます。ではまた。




