200話 雨のち晴れ翌日曇り
200話 「雨のち晴れ翌日曇り」
全身笹で覆われている人間(?)はそろりそろりと近づいてくる。
電気がついていないので他に何かを持っていても分からないだろう。
殺されるの?
ブチッ
笹がものすごい勢いで倒れた。
怯えている私たちに構わず桜葉が電気をつけてくれたので
それが人間であることが分かり安心した。
「大丈夫ですか?」
菊野が恐る恐る聞くと笹の下敷きになっていた女の子はゆっくりと起き上がった。
「痛た……七夕だからってこんな大きい笹を置かなくてもいいじゃない……それに……さっきからうるさいんだけど……あなた達!」
思い切り顔を上げた彼女のおでこは菊野に激突した。
「あっ……ごめんなさい……大丈夫?」
菊野はおでこを摩るだけで何も言わなかった。
というより……震えている。
首を傾げる女の子と面識があるのだろう……か?
「で、どうやってここに入ってきたのよ。外からは鍵がかかっていて入れないはずよ。」
ヒリヒリするのか頭を抑えながらカウンターに入った。
「あなたこそ、何故この時間にここに?」
「私は図書委員なの、昼の当番で来てるだけ。いつもは人が沢山来るのに今日は全然……。突然真っ暗になったから停電したのかと思って図書室内を歩いてたら人の声がして……笹に引っかかっちゃって……」
不思議だ……この人だけ来れているってことが……
地面に座ったまま震えている菊野を見るとさらに違和感を感じた。
「なぁ、お前どっかで会ったことあるか?私は月雲雷って言うんだけど。」
もしかしたら中学の同級生かもしれないと思い試しに質問してみたら
「月雲雷ってあの……え?らいらいなの?髪切ってるから全然分かんなかった!久しぶりじゃん!私の事覚えてる?中学の時クラス一緒だったでしょ?『相澤一葉』なんだけど。」
覚えている。いつもクラスで1番だった。時々話す程度の仲で、球技大会を積極的にサボるのに賛成していた方だ。もちろん菊野のこともいっしょに……
あ、だから震えているのか。
これはあいつが菊野歩だって言うべきなのだろうか?
しかし、こいつにそんなことを言って何が起こるかわからない。危険だ。
「ああ、思い出した!一葉じゃん!あはは!」
笑顔で肩を叩こうとした瞬間、目の前の『相澤一葉』は消えた。
「え?」
かすりもしなかった手を下ろすことが出来なかった。
「え?桜葉、見えてたよね?私だけに見えてた幽霊とかそんなんじゃないよね?」
「見えてたよ?」
「よかった……いや、全然良くないけど。」
ちらっと菊野を見ると椅子に座って黄昏ていた。
「大丈夫か?菊野。嫌いな奴だっただろ?」
「まさか同じ高校にいたとは……あっちは私の事ちっとも覚えてないし……月雲みたいに髪は切ってないのに。」
掠れた声から怒りが伝わってくる。
「正直言って私の事あいつと同じくらい、いやもっと嫌いだろ?」
「えぇ……嫌いよ。」
「でも、一緒に行動してくれる。」
「それがどうしたのよ。」
「私を幸せにするために?」
「は?何が言いたいの?」
「お前は……私に幸せを手に入れて欲しいって言ったけど、お前が私を見てくれない限り幸せにはなれない。」
「だから何を……」
「お前はマフラー女のために動いてるんだろ?幸せを手に入れて欲しいってのは建前で本当はマフラー女のことを考えてるだけなんだろ?菊野の中の隅っこに私がいるだけ。そんなんじゃ私はいつまでも苦しい。
いつまでも嫌われるわけなんだから。そりゃ……嫌われるのは仕方ないけど……お前と一緒にいるうちに望んではいけない願いを持ってしまったんだ。」
一言いうたびに胸が張り裂けそうになる。
何も言わなくていい。
呆れた顔でずっと見てくれればいい。
いじめてた奴なんて……好きにならなくていい。
これは罰だ。
「僕……分かったかも。」
桜葉がこのギスギスした空間から私達を救ってくれたのかどうかは分からない。
きっと……救ってくれたんだろう。
「何をわかったんだよ、桜葉。」
「この学校に生徒を登校させない犯人は雷さん。君じゃないの?」
200話突破しました!
ここまで続けられるとは思ってもいませんでした。
いつも読んでくださっている読者の皆さん、本当にありがとうございます。
だいぶ休むことがあって迷惑ばかりかけてきました。ごめんなさい。
いつ終わるかまだまだ分からないですけどこれからもよろしくお願いします。
追記(2018/11/03)
誤字を訂正しました。
追記 (2018/12/29)
一部修正しました。




