198話 書いていこう
最初に
先週更新をしなかったにも関わらず何もお知らせをしていなかったことを深くお詫び申し上げます。
今週からまたいつも通りの更新に戻ります。
本当にごめんなさい。
198話 「書いていこう」
白馬はどんどん近づいてくる。
出入口はひとつしかない、つまり私達は逃げられないのだ。
「いやーここに集まってくれて感謝っす。実は行方不明になっている人がいるんすよ……学校が始まったくらいの時にいなくなったらしくて、その人、マフラーを身につけていたみたいなんすよ。今、あなたが着ているみたいな赤いマフラーを。」
そう言った白馬は勢いよくジャンプし、
女の子に返信した。
「それを……返して!」
女の子はマフラーに手を伸ばす。
「菊野!危ない!」
「大丈夫よ、月雲。これがあるからね!」
女の子の指先にピンが触れた。
動きが止まった?
私があげた、菊野が邪魔な前髪を止めるために使っていたピンにそんな効果があったのか?
「ごめんね。これは元々私のものだし、渡すわけにはいかないの。だから帰って?」
「嫌だよ。マフさんのためにも私達は戦わなくちゃならない。」
「へぇー……あなたがマフさんの何を知ってるの?」
「あなたこそ。」
ピンが指先から離れると女の子は1歩下がった。
「残念だけどあなた達はここから逃げられない。どんな手を使ってでも私はあなた達からマフラーを取り戻すから。覚悟しておいてね。」
姿を消した彼女の次に人は来なかった。
「窓を割ってでても構わないけど、どうやら力が加わってるみたいね、簡単に開きそうにないわ。」
「そうだね……僕も出入口をさっき見てみたけど鍵がかけられていて全然開けられなかったよ。」
私達は一旦座って落ち着いた。
「じゃあ……ここで何するか考えない?」
「はぁ?脱出方法を考えるべきだろ。」
「僕も賛成。」
「桜葉も何言って……」
「月雲、雷でも私の治癒力でもどうにもならないこの空間で考えないことは悪いことだと思わないの?」
「はぁ……分かったよ。」
ピンで床に線を引くと、紙が浮き出てきた。
さらにシャーペンも消しゴムも。
形は歪だが、使えないことは無さそうだ。
「文化祭をどう盛り上げるか、私達で考えてやろうじゃない。どうせみんな来ないし、体育館は絶対使うし……絶好の機会よ!!ちょっと早い夏休みを堪能しましょう!」
いや……体育館で堪能は出来ないだろと思いつつ、菊野の言うことをメモする桜葉を眺めていた。
桜葉は何かやりたいことあるのかな?
「なぁ、桜葉?お前も何かやりたいことないの?」
筆が止まった。菊野も口を閉じる。
静けさのあと、桜葉はゆっくりと話し始めた。
「僕は元々この学校の人間じゃないし、2人のことが楽しいならなんでもいいんだけど、そのなんて言うか……」
頭をかいて困った顔をしている桜葉を見て私はモヤモヤした。
再び筆をとり菊野の話を聞こうという体制に入ったが、あいつは何も話さなかった。
「やりたいこと言いなよ?別にいいじゃん。今日から君はこの学校の生徒になるようなもんだし、この世界……ていうかこの学校基本なんでもありな所あるからさ。言わないと……主張しとかないと後悔するよ。」
流石だ。
私のモヤモヤもいつの間にか無くなっていた。
「ごめんね。なんか……うん。言うよ、僕のやりたいこと。」
私と菊野は真剣な顔で桜葉を見た。
「みんなの前で歌いたい。」




