偶然
「いやいや…待て…なんでそうなるの?」
直哉の顔の前に手を出し、必死に断る表現をする
「だって、無断で高校まで来ちゃったし…」
唇をつきだし、いじけている風を装う
だがしかし、それよりも無断で来たという事実に驚く
「なんで無断で…」
「心配でつい」
パッと顔を輝かせ、キラキラとした笑顔をこちらに向ける
たまに情緒不安定なんじゃないかと疑いたくなるような表情
怒れば笑い
悲しんでも次の瞬間には笑う
直哉は俺と母さんをおかしいと言うが、直哉だって十分おかしいんだ
「……やだよ」
ふい、と顔をそらし、枕に顔を埋める
「なんでさ」
怒っているとも悲しんでいるともどちらともつかないようなトーン
理由?
理由なんて簡単だ
「どこの学校に中学生が高校生の授業参観をするやつがいるんだよ」
「ここにいるよ」
「…大体っ、先生達だって許さないはず…」
「高校選びの参考にってことで許してもらえたよ」
…いつの間に…
「…じゃあ…俺に聞く必要あった?」
先生に許しをもらったなら、もう授業見ていってもいいってことじゃないか
俺に聞く必要なんて微塵もなかったじゃないか…
「まあ、どうせなら兄ちゃんの口から許しをもらいたかったし」
その瞬間ガタリと音がする
どうやら直哉が椅子から立ち上がったようだ
「ほら、兄ちゃん。もうすぐ三限目終わるよ。起きて」
真っ白な毛布が剥がされ、冷えた空気が一気に体を侵食する
「さっむ…」
「何言ってるの。ストーブついてるから暖かい方だよ。ほら、早く」
グイーと俺の腕を引き、徐々にベッドのふちへと体が寄せられる
「うーん…」
顔をあげ、渋々ベッドから降りる
やっぱり寒い
「早く早く!兄ちゃん!!」
「んー…まだチャイム鳴ってないし…ゆっくり行けばいいだろ…」
「ダメだって!!ほら早く!」
俺の腕をとり、ツカツカと扉に向かう直哉
何をそんなに急ぐ必要があるのか
直哉が扉に手を触れる瞬間
いきなり扉が自動的に開いた
驚いて目を見開くと、直哉の前にはある人物が立っていた
「あ、すいません」
直哉が謝り、俺はそいつをまじまじと見る
「や、いいよ。…あれ、君は…」
直哉の後ろにいた俺に気づいた彼は笑う
ニコニコと笑うその人は
やっぱり真っ白だった