謎
「ねえってば、聞いてる?」
学校に来た早々、机にふんぞり返りながら偉そうに座る姿
最近は椅子に座るんじゃなくて机に座るのが流行っているのかと疑いたくなるじゃないか…
「昨日は何処に行ってたのかしら?」
その言葉に俺は目を見開く
「ついてきてたんじゃ…ないのか…」
てっきり後をつけられていたと思っていた
「だって…」
腕を組みながら机から降りようとしない彼女は、さらに驚きの言葉を吐き捨てた
「あなた、消えたんですもの」
「はあ?」
いやいや、そんなはずはない
図書室まで真っ直ぐ歩いて行ったはず
「本当よ。私、昨日ちゃんとあなたの後をつけたもの。でも、あなた途中で幽霊みたいに消えたわ。あれはさすがに驚いたわね」
驚いたようには見えないような笑顔
彼女は実際、それをあまり驚いていないように感じる
そんな彼女の細い指先が、ゆっくりと撫でるように頬に触れる
「ねぇ?あなたは、この前から誰に会ってるの?私、とっても興味あるの…」
彼女の爪が少し触れ、肌に食い込む
「…いたっ…」
鋭い爪は遠慮を知らないように痛みだけを俺に与え続ける
「言ったじゃない…私達はあなたの味方だって…」
『私達』…
「私達って…誰だよ」
彼女の手を払いのけ、彼女を睨み付ける
彼女はその手を擦りながら、彼女もまた、俺の目を見据えた
「私達は私達よ。あなたが知ることじゃないわ…それより…」
チラリと目を向けたその先には、俺の目から視線を動かし、少し上に向ける
「私的には、その傷のことも気になるわね」
肌とは違った
絶対交わらないその色
白い包帯には、薄く赤が混ざっている
「!これ…は…」
慌てて手のひらで覆い隠す
しかし、今更そんなことをしても遅かった
彼女は机から降り、俺の耳元に近づき囁く
「バカね。どうしてあんな親を殺さないのか、不思議でしょうがないわ」
ドクリと心臓が騒ぎ出す
彼女は何を言っているのか
人間として、言ってはいけないことを、彼女はなんの気兼ねなく言う
「まあ、別にいいのよ。あなたが傷つくだけなら、なんの支障もないわ」
クスリと笑い、横を通りすぎる
やけに周りが静かだと思ったら、皆俺達の様子を静かに見ていた
いつから…?
聞かれただろうか?
いや、きっとそれは大丈夫…
聞かれないように彼女は耳元で囁いたんだから
それよりも…
俺の『家庭の事情』を、彼女は知っている
なんで…なんで…
彼女の言葉は、真っ黒な疑問だらけだった
消えた?
いつ?どこで?
彼女は何を知ろうとしているんだ…?
いや…違うか…
彼女達
複数形
頭が痛む
さっきから、耳鳴りもする…
顔をあげ、窓の外が見える
グラリと揺れた視界に映った最後の光景は、曇天だった
ああ…最近、晴れないなぁ…
呑気なことを考えながら、ゆっくりと意識を手放していった