とけた ゆきんこ
小さいお子さんに読んでほしいお話です。
よろしくおねがいします。
とある雪国のとある町。そこに今年も冬がやってきました。
雪がちらほらふって来たかと思うと、見る見るうちにまわりは真っ白になりました。
一夜あけるとと、雪はくつがうまるくらいにつもっていました。
小学生のゆう君は、たかし君・こうちゃん・れん君の友だち三人といっしょに、さっそく近くの公園で雪あそびをしていました。
しばらくすると、大きな木のかげからこちらをのぞいている、一人の女の子に気が付きました。
「見かけない子だね。」ゆう君が言いました。
「ぼくたちとあそびたいのかな?」こうちゃんは言いました。
「じゃあ、さそおうか。」と言って、ゆう君は女の子に近づいて行きました。「おーい。」
その声に、女の子はびくっとしてここからいなくなろうとしました。
そのとき、ゆう君はやさしく声をかけました。「待って。こわがらないで。へんなことはしないから。」
女の子はおろおろしましたが、ゆう君に思いきって言いました。「ごめんなさい、楽しそうだったから、ついのぞいちゃって…。」
「いいんだよ。だったらさ、いっしょにあそばない?」ゆう君が女の子をさそいました。
「いいの?」
「もちろん!たくさんの方が楽しいしね。おいで。」そう言って、ゆう君は女の子に手をさし出しました。
すると、女の子は言いました。「ごめんなさい。お母さんから『あったかいものにはさわっちゃだめだよ』って言われてるの。」そう言って手をひっこめました。
「へえ、へんなこと言うんだね。まあいいや。行こう?」ゆう君は手まねきをしました。
女の子は、てとてとと、ゆう君の後について行きました。
「ぼくは名前は《ゆう》。君は?」ゆう君が女の子にたずねました。
女の子は、小さな声で言いました。「《こゆき》。よ、よろしくね。」
女の子は、顔が少し赤くなっていました。
それから、ゆう君たちは雪あそびをしました。
ゆきだるまを作ったり、雪がっせんをしたりしました。
小さなかまくらも作りました。
かまくらの中で、ゆう君たちはこゆきちゃんとお話をしました。
「わたし今、お母さんとたびをしてるの。あちこち。ここも今日までで、明日にはつぎの町に行かなくちゃいけないの。」
「そうかあ。どおりで見たことない顔だと思った。」たかし君が言いました。
「あちこちの町に行って、たいへんじゃない?」れん君がこゆきちゃんに聞きました。
「うん。人にはなんだか近づきづらくて…。」こゆきちゃんは言いました。
「でもぼくたちとはなかよく話してるよね?」ゆう君が言いました。
「ほんとだ。もしかしてはじめてかも。」
「よかったあ。これでぼくたち、友だちだね!」たかし君が言いました。
「いいの?友だちになってくれて。」
「あたり前じゃないか。もうすっかり友だちだよ。」みんなが言いました。
「ありがとう。」こゆきちゃんはうれしくてなきそうでした。
「せっかく友だちになったんだから、ぼくたちの町のいいところを見て行ってよ。」
四人は話しあって、こゆきちゃんにこの町を見せて回ることにしました。
ずらりとならんだお店、大きな駅、高いビル。
雪かきされた歩道を歩きながら、ゆう君たちはこゆきちゃんに、あれはなになにだよ、と話してあげました。
こゆきちゃんはまじまじとそれらを見ながら、うれしそうな顔をして聞いていました。
雪がちらほらふっていたのがやんで、くもが消えていきました。
「ちょうどいいや。とっておきを見せてあげるよ。」ゆう君はそう言うと、こゆきちゃんの手をにぎろうとして、やめました。
そして、手を雪の中につっこんで、少しして雪から出しました。
ゆう君は言いました。「これなら少しの間だけあったかくないよ。さあにぎって。」
こゆきちゃんはそっとゆう君の手をにぎりました。
手はつめたいはずなのに、あたたかくかんじました。
でも、こゆきちゃんの手にかわったことはありませんでした。
「ついたー。」たかし君が大ごえで言いました。
「どう?」そう言ってこゆきちゃんがつれてこられたのは、まわりより少しだけ高い小さな山のてっぺんでした。
ちょうど夕方で、きれいな夕やけが見えていました。
「わあ、すごーい。」こゆきちゃんはうれしくなりました。
「ここから見る夕やけは、いつもきれいなんだ。」れん君がむねをはって言いました。
「お前がいばるなよ。」こうちゃんが言いました。
「今日はありがとう。だいじにするね。」そう言って、こゆきちゃんがきゅうになき出しました。
「どうしたの?」みんながおどろきました。
「みんなにかくしてたことがあるの。」
「なあに?」
「これを言っちゃうと、きらわれると思って言えなかったの。」
「だいじょうぶ。友だちだもん。」ゆう君は言いました。
「わたし、【雪ん子】なの。」なくのをこらえて、こゆきちゃんは言いました。
「雪ん子?」みんながふしぎそうな顔をしました。
「わたしのお母さんは、冬の神さまなの。おしごとは、雪をふらせて『冬が来たよー』っておしらせすること。」
「へえ、すごいね。」四人は口をそろえて言いました。
「びっくりしないの?」こゆきちゃんは《あれ?》と思いました。
「人じゃないのかなーとは思ってたんだ。」たかし君は言いました。
「こんなにさむいのに、いきが白くならないしね。」れん君が言いました。
「でもわるいことをするような子には見えなかったからね。」こうちゃんは言いました。
「まだお話あるんでしょ?」ゆう君が言いました。
「うん。それでね、今年からわたしもお母さんのしごとを見て回ることになったの。」
「それはたいへんだ。」れん君がうなづきました。
「わたしたちは、あったかいものにさわるととけちゃうんだって。お母さんからそう聞いてたから、人に近づきづらかったの。」
「それで手をにぎれなかったのか。」ゆう君は言いました。
「そうなの。ごめんね。」こゆきちゃんはごめんなさいしました。
「雪がやんだでしょ?これっておしらせがおわったよ、っていうことなの。もうつぎの町に行かなくちゃいけないの。」
「もう?」四人はざんねんがりました。
「でもわすれないで。はなれててもぼくたち、友だちだから。」たかし君は言いました。
「またおいで。それで、いっしょにあそぼう。」こうちゃんは言いました。
「うん、ありがとう。」そう言って、こゆきちゃんはふしぎなかんじがしていました。この気持ちはなんだろう?はじめての…。
『こゆきー。そろそろ行くわよー。』空から声がしました。
「あ、お母さんだ。行かなきゃ。」するとこゆきちゃんは、ふわっとういたかと思うと、空の中へとんでいきました。
「じゃあねー。」「またあおうねー。」四人はそれぞれ言いました。
「またねー。」こゆきちゃんのすがたが小さくなりました。
四人は、こゆきちゃんが見えなくなるまで、空へ向かって大きく手をふっていました。
「お母さーん。」こゆきちゃんはお母さんのそばにもどってきました。
「どうしたの、そんなにはしゃいじゃって。」お母さんが聞きました。
「えとね、えとね、にんげんの子どもたちとお友だちになったよ。」こゆきちゃんはえがおで言いました。
「それはよかったわね。」お母さんはうれしそうに言いました。
「でね、見つけたよ、あったかくてもとけないもの。」こゆきちゃんはえへんとえらそうにして言いました。
「へえ、なんだい?」お母さんはやさしく聞きました。
「にんげんのこころ。みんなやさしくて、あったかいけど、なんともなかったよ。」
「なんだい、やっぱりとけてるじゃないの。」お母さんは言いました。
「え?どこもとけてないよ?」
「とけてるよ。こゆきの【にんげんがこわいーっていうこころ】が。」
「ほんとだ。そっかあ。」こゆきちゃんはうんうんとうなづきました。
「でもこころじゃなくて、あったかいおなべとかだと本当にとけちゃうからね。気をつけて。」
「はーい。」げんきにへんじをするこゆきちゃんでした。
とけないと思ってて、やっぱりとけてしまった雪ん子なのでした。
でもよかったね、こゆきちゃん。あったかくてもとけないもの、でもあったかくてとかしちゃうもの、そんなふしぎなものが見つかって。
ふしぎですね、【こころ】って。