6
ひたひた、ひたひた。
足音が近づいてくる。
濡れた裸足で板の間を歩くような。
粘着質の何かが歩いているような。
不気味な気配。
ひたひたひた、ひたひたひた。
何かが近づいてくる。
振り向いても何も見えないのに。
ああ、これは夢だ。
いつも見る、あの夢。
「やっと戻ってきた」
戻ってきた? 誰が、どこに?
「離さない。もう二度と、我の傍から」
誰の声、どこかで昔聞いたことがある?
「もう、離さない」
くるりと体が何かに包まれる。
冷たい、ひやりとした何か。
声もこの何かにも覚えがあった。
濡れたような足音は、もう聞こえない。
足音の主は私を拘束し、私の耳に冷たい息を吹き掛ける。
「や」
拘束する冷たい何かから逃れたくて、必死に身をよじるけれど拘束は更に強まるばかりだった。
「嫌。助けて」
捕まってしまった。
戻りたくなかったのに。
「許して」
戻りたかった、やっと戻れた。
でも、どこに?
「嫌、いやあぁっ」
離して欲しい、離さないで。
やっと戻れたから、二度と戻りたくなかったから。
これは夢? 本当に夢なの?
私の抵抗は、何の意味もない。
拘束はどんどん強くなる、あたしの体は拘束する何かと、吹き掛けられる息と同じ温度になる。
「お帰り」
あたしはとうとう捕まってしまったのだ。