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千石高校

タツヲは千石高校の校長に取り引きをもちかける。かれの狙いとはなにか?

 そんなことがあって数日後。

 千石高校の正門を校長は急いで通り抜けた。

 万石高校の制服を着た、数人の生徒が見守る中、かれは眉を険しくしかめ、校舎へと入っていく。唇は噛みしめられていた。

 校長室に入ると、イッパチが出迎えた。

「ああ、どうも。先週、アキラさんが来ていたことお報せしていなかったんで……」

 イッパチの言葉に校長はぎょっとなった。

「アキラが……」

「なに心配ご無用でござんすよ。あたしが追い返しましたから」

「きみが」

 校長は目を丸くした。

「はい、さようで。もうあいつがこの千石高校にちょっかいをだすことはござんせんから、ご安心を」

 校長はほっとため息をついた。

 デスクに向かうと、どさりとちからなく椅子に座り込む。デスクの表面に両手を乗せ、握りしめた。

「なにか心配ごとでもおありで?」

 イッパチが話しかけると、校長は顔をあげ叫んだ。

「きみ! イッパチくん。あれはなんだね?」

「あれ、と申しますと?」

 校長は窓の外を指差した。指先は、校門にむけられている。

「決まっているじゃないか。校門の前にたむろしている万石高校の生徒だ。あいつら、いつになったら元の高校へ戻るんだね? もう、千石高校はふつうの高校になったんじゃないのかね?」

「さあ……てね」

 イッパチは空とぼける。

 校長は額に青筋をたて、怒っていた。

「きみとあのタツヲの間でどんな密約がなされたか知らん。が、この千石高校はわたしの高校だ。あんな、他校の生徒がうろちょろしてもらっては困るんだ」

「なにが困るんですか?」

 その声に校長は蒼白になった。

 この声は……。

 もちろんタツヲのものだった。

 校長室の入り口からふらりと姿を現したタツヲは、薄笑いを浮かべている。

「校長先生、この千石高校が大事なら勇気を持って対処すべきでしたね。他校の、しかも番長などと呼ばれている生徒のちからを借りるなんて、じつに浅はかというしかない。もしこのことが教育委員会に知られたら、どう言われるでしょうね」

「きみは……」

 校長は震えだした。

 顔にはじっとりと冷や汗が浮かんでいる。

「きみはわたしを脅迫する気なのか?」

「脅迫、人聞きの悪いことを言われては困りますねえ。ぼくはただ、事実を言っているだけなんです。それではぼくはここで失礼しなくては……どうもあなたは話し合いする気はなさそうだし、ぼくとしてもここは正直に事実をどこかの新聞社とか、週刊誌に話しておかないとあとで何を言われるか……」

「ど、ど、どうして新聞社とか、週刊誌なんだ!」

「いや、ぼく案外口が軽いんで、つい聞かれていないこともぺらぺら喋ってしまう悪い癖があるんです。それじゃこれで……」

「ま、待ってくれ!」

 校長は悲鳴のような声をあげた。

「待ちたまえ! な、話し合いだったかね? きみ、なにを話し合いたいんだ? 聞かせてくれ」

「おたがいの利益になることですよ。校長先生」

「利益?」

「そうです。あなたは千石高校を当たり前の高校にしたい。そしてぼくは高校生活を終えるまで、万石高校、千石高校ふたつの高校に対し、影響力を保持したいと思っているんです。このふたつの目的は両立します。ぼくの提案が受け入れられたらね」

「どうすればいいんだ!」

 タツヲはにやりと笑うと校長のそばに立ち、耳打ちをした。

 校長はぼう然とタツヲを見上げた。

「そんなこと……」

「簡単ですよ。これでお互い、万々歳というわけです。あなたは荒れ果てた高校を立て直した名校長というわけだし、ぼくは表に出ることなく千石高校に影響力を行使できる。どうです?」

 校長はちからなくうなずいた。

 がっくり肩を落とし、両手で顔を覆った。

 

「まだいるのか?」

 赤星高校の校長室で、ケン太とユミとエミのふたご。そしてキヨシとケイスケが顔をあわせていた。ケイスケは千石高校のいたるところに万石高校の生徒たちがいることを報せに来たのである。

「へい、それが妙なんで」

「なにが妙なんだい」

 ケイスケはすっかりケン太に対し、配下の口調になっている。ケン太は校長室の上がりかまちに腰をおろし、ケイスケは入り口の土間に膝をついて見上げている姿勢をとっている。その格好は、時代劇の親分と子分といった調子だ。どうやらケイスケにとって誰かの子分になっているのはとても具合のいいことのようであった。

 アキラが母親に連れられて千石高校から去った後、ケイスケは自動的にキヨシの子分として行動していたが、そのキヨシがケン太の配下になる構えを取ると、嬉々として自分も子分となって収まったのである。

「たしかにやつら、万石高校の生徒なんでやすがね、どういうわけだか千石高校の制服を着込んでいるんです。傍目には、千石高校の生徒のふりしてやがって……」

 ふうん、とケン太は腕を組んだ。

「で、タツヲは?」

「ええ、あいつも時々顔を出すみたいです。そんときゃ、万石の連中になにか指示を出しているようですがね……」

 ケン太はキヨシに話しかけた。

「キヨシくん。きみのお兄さんはいまどうしている?」

 ふいに自分の名前を呼ばれ、キヨシはあわてて口もとに運んでいた焼き芋を飲み込んだ。あいかわらず、なにか食べていないと落ち着かない様子だ。

「兄ちゃん、ずっと勉強部屋にとじこもってばかりいるんだな。母ちゃんが家庭教師の先生を呼んで、受験の準備するんだって張り切っているけど、あれじゃ兄ちゃん可愛そうなんだな」

「受験?」

「うん、なんでも兄ちゃんには外国の学校に行かせるつもりらしい。日本の学校にやると、またいけないこと企むからって言ってたな。でもいけないことってなんだ?」

 ふたごが口を開いた。

「連中、こんどはこの赤星高校に来るのかしら?」

「またなの……。やっと千石高校の連中がいなくなったと思ったら今度は万石高校だなんて……いったいいつになったらこの高校に平和がくるのかしら?」

 ユミとエミは顔を見合わせ首を振った。

「守るんだ! 生徒を集め、この学校を守る準備をしようじゃないか!」

 ケン太は叫んだ。

 闘志が湧き上がる。

 かれらの報告で、あらたな目標を見出したケン太の顔はやる気に満ちていた。

 ユミが手を叩いた。

「そうよね……! あたしらがやらなきゃ、誰がやるのよ!」

 エミも立ち上がる。

「さっそく集めましょう。あたしたち、赤星高校に通っていた友達に声をかけるわ!」

 ケン太はうなずいた。

「よし、ぼくはセイントカインの連中に会ってくる」

 ケイスケが口を開いた。

「でもあの連中はしり込みしていたじゃないですか。引っ張り出せますかい?」

「それはぼくに任せてくれ」

 ケン太は微笑をうかべていた。

 それじゃ行動に移ろうと、全員立ち上がり外へと出かけていった。

 ひとり残されていた赤星高校の校長は、しばらく布団のうえで仰向けになって天井を見上げていたがなにごとか決意した顔になっていた。

 苦労して起き上がると、枕もとの物入れを掴んだ。

 蓋を開き、中から取り出したのは携帯電話であった。

 手馴れた様子でメール画面を開き、すばやい指の操作で文字を入力し始める。

 複数のあて先に同時に送信するよう設定すると、送信ボタンを押した。

 送信完了のメッセージに、校長はにやりと笑みを浮かべていた。なにごとか勝利を確信している表情である。

 かれのメールのあて先はいったいだれであったのだろうか?

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