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アキラとの戦い

とうとうアキラと決闘することになったケン太。しかし勝てるのだろうか?

「アキラと一対一の勝負? 危険ですわ!」

「そうよ、きっと罠をしかけてきますよ!」

 ユミとエミのふたりはかわるがわるケン太にアキラとの勝負をやめるよう忠告した。しかしケン太の決意は変わらない。

 いつもの校長室である。ケン太は上がりかまちに腰をおろし、ユミとエミはかれの両側に座って話をしている。

「これはぼくが言い出したことなんだ。それにこれで赤星高校から千石高校の侵入を防ぐことが出来る。ぼくが勝ったら、もう赤星には手を出すなとアキラに言うつもりだ」

「約束を守るかしら?」

 ユミは疑わしそうに言った。

 それを校長は天井を見上げ、黙って聞いている。

 ケン太はユミとエミを振り切るように立ち上がった。

「それじゃ、行ってくる」

「ケン太さん!」

 ユミはたまらずケン太の肩をつかんだ。

 ふりむくケン太にユミはポケットから火打石を取り出した。

 かちっ、かちっと火打石を擦って切り火を熾す。

「ご武運を」

「有難う」

 ケン太はがらりと障子を開けると校長室から外へ出て行った。

 ほっとユミはため息をつき、つぶやく。

「どうしよう……あたしたち、なにもしなくていいのかしら?」

「お姉ちゃん、こっそりケン太さんの後をついていかない?」

「そうねえ……」

 ユミは寝ている校長をそっと見やった。

 校長は目だけ動かし、口を開いた。

「行きなさい。わたしはいいから……」

「校長先生……」

 ふたごは目に一杯涙をうかべ、なにか言いかけた。

 が、決意したように立ち上がるとケン太の後を追って出口へと向かう。

 

 があーっ、と轟音をたて陸橋を電車が通過していく。その陸橋のたもと、干上がった川原にケン太とアキラが対峙している。

「本当に、これで最期だな? ぼくが勝てばもう赤星高校には手を出さないと誓うんだな?」

 ケン太は叫んだ。

 アキラはにやっと笑い、うなずいた。

「ああ、約束する。が、お前が負けたらどうする? 貴様はなにを約束するんだ?」

 言われてケン太はぐっと詰まった。

 黙っているケン太に、アキラはおいかぶせるように声をかけた。

「そうだな……もしおれが勝てば、お前はおれの部下になる、というのはどうだ? お前はなかなか見所がある。いずれおれが社会でことを起こす際、幹部としてとりたててやってもいいと思っているんだ」

「なにをするつもりなんだ?」

 アキラは肩をすくめた。

「それは決まっていない。政治家になるか、会社を興すか……それとも革命家になるのも面白いかもしれん。お前はどうなんだ。このまま大人になって、社会の歯車になるのが望みなのか?」

「それのどこがいけない?」

「お前は男じゃないか。男と生まれたからには、なにか自分の生きた証しを打ち立てたいとは思わないのか? よく言うじゃないか。失敗した革命家は犯罪者であり、成功した革命家こそが社会の改革者と呼ばれると。おれはどっちでもいい。この社会をひっくり返してやるのがおれの望みさ」

「そんなの断る!」

 おやおや……、とアキラは首をふった。

「まったく話しの合わない男だな、お前は。しかたない、少々痛い目にあってもらわないといけないようだ」

 と、アキラはふり返った。

「だれだ! そこにいるのは? 出て来い」

 陸橋の陰からのっそりと姿を現したのはキヨシだった。あいかわらずケイスケをかたわらに引き連れている。

 ケン太はアキラを見た。

「ひとりっていう約束だったろ」

 アキラはぶるっと首を横にした。

「馬鹿な! おれがあいつらの手助けなど必要とするわけがない! キヨシ、なぜ来たんだ?」

「お、おら……」

 決まり悪そうにキヨシはもじもじとしている。

「こんな喧嘩、やめて貰いたいって思ったんだ……」

「なにい?」

 キヨシはにやっと笑った。

 きれいに生えそろった前歯がきらりと光った。

「キヨシ……いつ歯医者にいったんだ?」

「行かねえよ。そのガクラン着て、生えてきたんだ。そのガクランはすげえよ。おれ、生まれ変わったんだ!」

 アキラは目を細めた。

「なるほど、それで恩に感じたというわけか? おれたちの決着をつける戦いを止めて、お前はどうしたいんだ?」

「わ、わからねえ……でも、兄ちゃんは間違っている……と、思う」

 ふん、とアキラは鼻で笑った。

「お前は考えるな! 考えるのはおれの役目だ。いいか、そこで立っていろ。余計なことはするんじゃないっ!」

 そう言ってアキラは向き直り、だしぬけにケン太めがけて走り出した。

 ケン太は身構えた。

 瞬間、アキラの長身が宙を舞った。

 はあーっ!

 裂帛の気合がアキラの口から鋭くはなたれ、空中をつたいケン太に殺到した。

 その気合と共にアキラは空中で前蹴りを放った。

 まるで機関銃の弾丸のようにアキラの前蹴りは構えたケン太の前腕部を何度も蹴った。

 その勢いに、ケン太はぐらっとよろめき数歩、あとずさった。

 が、ガードしただけではなかった。

 とん、と地上に降り立ったアキラにケン太は廻し蹴りをくらわしたのである。

 ばしっ!

 ケン太の爪先がアキラの腹部に命中した。

 鳩尾に完全に決まっている。

 本来なら、アキラは身をおりまげているはずだった。

 その動きを予想してケン太はつぎの攻撃に移るつもりだったのである。

 が、かれは平然としていた。

 ケン太の表情が一瞬こわばっていた。

「どうした、それだけか?」

 せせら笑いを浮かべたアキラは、腕をふってケン太の頬を張り飛ばした。

 がくん、とケン太の膝が折れた。

 アキラのビンタは強烈だった。

 目の前に星が飛び、ケン太の視界が暗くなる。

 ばしん!

 もう一度アキラのビンタが反対側の頬を張り飛ばした。

 きーん、とケン太は耳鳴りがして気が遠くなる。

 必死に建て直し、ケン太は猛烈なラッシュでパンチをアキラの胸板、わき腹へと叩き込む。

 まるで岩を叩いているかのようだ。

 アキラは仁王立ちになってケン太の攻撃を受け止めている。

「まるで効かないぞ! それがお前のパンチなのか? 無駄無駄無駄あーっ!」

 がくん!

 アキラのフックがケン太の顎をとらえていた。

 どさ……!

 ケン太は仰向けに倒れていた。

 その顔を覗き込んだアキラはゆっくりと首をふって肩をすくめた。

「所詮、喧嘩は素人だ……ふっ、つまらん!」

 ケン太は完全に意識を失っている。

 アキラはほっとため息をついた。

 やはりヨーコにガクランを仕立ててもらってよかった。

 彼女はアキラに戦闘のためのガクランは作らないと言ったにかかわらず、彼女の仕立てたのは見かけは学生服であるが、中身は完全に戦闘服といってよかった。

 アキラの着ているガクランの裏地には、衝撃を吸収する新素材の層が縫いこまれていたのである。そのため、ケン太の攻撃がいかに鋭かろうとも、アキラにまったくダメージがなかった。

 さらにガクランにはもうひとつの仕掛けがあった。

 アキラの筋力を増幅するため、ガクランには伸び縮みする素材で出来ていたのである。これにより、一種のスプリングのちからでアキラのちからは強められていた。

 これで勝負あった……。

 もうケン太はおれに挑もうなどと考えることはないだろう。

 やるなら徹底して相手を叩きのめす。それがアキラの身上である。

 立ち去ろうとするアキラは、倒れたケン太が身動きするのを認めた。

 !

 まさか、まだ動けるのか?

 ふらり──と、ケン太は立ち上がっていた。

 アキラの眉がひそめられる。

 やつは完全に意識を失っていたはずだ。そんなに早く意識を取り戻すはずはないのだが……?

 ふらふら、とケン太はアキラにむかって歩いてくる。

 まるで戦いの態勢をとってはいない。

 が、アキラは本能的に危険を感じとっていた。

 防御の態勢をとりかけたアキラに、ケン太はいきなり飛び掛った。

 その動きは出し抜けであり、かつ異様なものだった。

 がくん、とまるで操り人形が動くようにケン太は両腕をのばし、防御の構えをとるアキラの腕をかいくぐりその首を締め上げていたのである。

「ぐ……!」

 アキラの息が詰まった。

 おそろしいほどの腕力であった。

 ケン太の両手の指先には信じられないくらいのちからがかかっていた。

 アキラは必死に振りほどこうとしたのだったが、まるで万力が締まるようにケン太の指は縮まっていく。

 ケン太の目はアキラを見てはいない。というより、なにも見ていないものの目だった。

 意思のない操り人形と化したケン太にアキラはぎりぎりと首を絞められていく。

 それをキヨシとケイスケはぽかんとした顔で見守っていた。

 ケイスケがキヨシのわき腹をつついた。

「キヨシさん、どうします? あのままじゃアキラさん殺されちまいますよ!」

「だ……だって、おら兄ちゃんになにもするなって言われて……」

「そうよ! 止めるべきよ!」

 女の声にふたりは顔をあげた。

 川原の、土手にふたごの姉妹が立っていた。

 ユミとエミのふたりである。

 ユミが叫ぶ。

「早く! 止めないとケン太さん、人殺しになっちゃう!」

 その声でキヨシとケイスケは弾かれたように飛び出した。

 背後からケン太にキヨシは抱きつくと、その腕を離そうともがく。

「す……すげえ、ちからだ!」

 キヨシの顔が真赤に染まった。

 が、やはりキヨシは馬鹿力の持ち主だった。

 締め付けていたケン太の腕が、ゆるゆるとアキラの首からはなれていく。

 ほっ、とアキラは息を吸い込んだ。

 ひいーっ、ひいーっと笛のような音をたて、なんども息を吸い込んだ。

 けほけほ……と、ようやく咳き込み、身をそらせた。

 ケン太はキヨシに背後から抱きかかえられつつも、アキラのほうを向いて飛び掛ろうともがいている。

「いまのうち、お帰りなさい。戦いはドロー、それでいいじゃない」

 アキラの顔色がじょじょに平静になった。

 首周りをこすり、脂汗を浮かべている。

 ちら、とキヨシとケイスケを見る。

「くそ……お前ら、ただじゃおかないからな! 覚えておけ!」

 捨て台詞を吐くと、後を見ずに土手を登っていった。アキラの姿が完全に見えなくなると、ふたごはキヨシのほうを見て口を開いた。

「もういいわ、キヨシさん」

 エミがそう言うと、キヨシは掴まえていたケン太の腕を離した。

 ぱっとケン太はふり向きざま、戦おうという姿勢をとった。

 あいかわらず目はうつろなままだ。

「ケン太さん!」

「ケン太さん、目を覚まして!」

 ユミとエミはかわるがわる叫ぶ。

 と、ようやくケン太の目に表情が戻ってきた。

 視線がはっきりし、目の前の現実がわかってきたようだ。

「ユミ、エミ……それにキヨシさんとケイスケ……」

 がくり、と膝をおった。

 ぜいぜいと荒い息をつく。

「ぼくはどうなったんだろう……アキラに殴られて、それで気が遠くなって……」

 四人がケン太のしたことを説明すると、信じられないといった表情になる。

「そんな、ぼくがアキラを殺そうとしただなんて……」

「ガクランのせいだよ! ガクランがケン太さんを守ろうとしたんだっぺ!」

 キヨシが叫んだ。

 ケン太はじぶんのガクランを見おろした。

「ガクランが……?」

 伝説のガクランはあれほどの戦いのあったあとだというのに汚れも、裂けもせずまるでクリーニングが済んだすぐ後のように綺麗なままだ。

 ふらふらとケン太は歩き出した。

 エミが声をかけた。

「ケン太さん、どこへ行くつもり?」

 ケン太はふり返った。

 薄い、気弱げな笑いを浮かべている。

「ぼくには判ったことがある。この戦いはじぶんひとりの戦いだと思っていた。が、違うんだ。ひとりではできない……いや、やってはいけない戦いなんだ」

 ケン太の長広舌をみなはぼんやりと聞き入っていた。

 ケイスケがおそるおそる口を出した。

「て言いますと?」

「仲間が必要だ……ぼくと一緒に、赤星高校を蘇らせる戦いに参加する仲間が!」

 ふたごは一歩、前に出た。

「あたしたちがいるわ! あたしたち、最初からケン太さんの仲間じゃない?」

 うん、とケン太はうなずいた。

「だが、まだ三人だ。もっと必要なんだ」

 キヨシとケイスケは顔を見合わせた。

「あ、あのう……おら……その戦いに参加してもいい……なんて思ってるんだな……」

 そう言うと真っ赤になった。

 ケイスケは肩をすくめた。

「しょうがねえ……キヨシさんがそう言うならおれも一緒になりますよ」

 ケン太は笑った。

「有難う……それじゃ行こうか」

「どこへ?」

「会いたい仲間がいるんだ。もし仲間になってくれるんならね」

 そう言うと歩き出す。

 四人は顔を見合わせ、その後を追った。

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