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○×系男女  作者: △□一
3/3

#3  共同生活

3話 共同生活





朝6時。




鮮は目が覚めた。



もそもそと布団から抜け出し、うーんと伸びをすると、ぼーっとする頭で全身鏡の前に立つ。


「今日は・・・"赤毛"の"ショート"で、髪質は・・・うーん、"剛毛"か・・・多分今日は晴れるね・・・」



ブツブツつぶやきながらハサミで髪をさらに短く切る。そして、近くにあった金髪ショートのウイッグをかぶった。



「これでよし、っと・・・」



鮮は慣れた手つきでウイッグを固定し、ベッドの近くに常備しているビニール袋に今さっき切った赤毛と枕元に落ちている灰色の髪を拾い集めた。



一晩で髪が生え変わってしまう病気を持つ鮮の一日は髪の毛を切って、拾うところから始まるのだ。



ビニール袋の口を縛り、窓際の隅に置いておく。


こうすれば“あの人”も持って行きやすいだろう。



時計を見るともうすぐ6時30分になるところだ。



流石に寝巻きでロビーに降りていくのは恥ずかしい。

クローゼットを開いて探っていると昨日鋏にもらった服が目にとまった。




「これを着て学校・・・に行くらしいし・・・いっか。」




服を手にとって着替える。

不思議とサイズはぴったり鮮の身体にあっていて、少し怖いくらいだ。


くるりと回ってみる。




「よし!!!」




鮮はガッツポーズをして部屋を出た。



*



ロビーの扉を開けると、まずはじめに睫と目があった。


昨日と全く同じ服装である。



「お、おはようございます・・・!」



「ぁー、あんたか。はよ。」



睫はふぁあと欠伸を一つして目を潤ませた。

目の下のクマがなんだか昨日よりもひどいような気がする。


朝が苦手なのだろうか?



「よく眠れたか?」



「はい。おかげさまで。」



「そうか。それはよかった。」



「睫さんは・・・?」



「おれか?・・・まあ、今日はいい方、だな。」



はーあと大きなため息をつく。


「何か・・・あったんですか?」



「おれの隣の部屋・・・・縁の部屋なんだ。」



「はい?」



それがどうかしたのだろうか。




「あいつ、毎晩毎晩鼾が酷いんだよ。隣のおれの部屋まで聞こえるくらい。何回か部屋変えの申請出してんだけどなかなかOKもらえねんだわ。」



「それは・・・不運ですね・・・」



目の下のクマが取れないのはそのせいか。




「おい。朝飯来たぞ。」



睫が指を指す先で、士気が大きなテーブルの上に朝食を用意していた。



「わあ・・・!」



テーブルの上に並んでいるのはいかにも朝食といった料理ばかりで、白米、味噌汁、目玉焼きにサラダ、焼き魚などが並んでいた。



「おう、嬢ちゃん。昨日はよく眠れたか?」



士気がこちらに気がついて話しかけてきた。



「はい。ぐっすり眠れました。」



「そうか!そりゃあよかった!!」



ニイと士気は笑った。すると、そうだそうだと言って質問してきた。



「嬢ちゃん。食物アレルギーある?」



「アレルギー・・・ですか?特にないですけど・・・」



「そっかそっか!ありがとよ!」



健康第一!とか言いながら士気は忙しそうにロビーを出た。




「・・・食べよ。」


鮮は呟いて席に着いた。



*




「そこ僕の席なんだけど」


急に声をかけられた。

振り返ると、そこには一人の小さな少年が立っていた。



青みがかった白髪は腰の辺りまであり、前髪は軽く目を隠してしまっている。目は寒気がするほど冷たい青色で、肌は白い。



そして一番目を引くのは、両手首と首にある黒くて重苦しい鉄の首輪と手枷である。

手枷には無いが、首輪には途中で切れた鎖がつながっている。



よく見れば、頬のあたりに軽く傷が残っている。随分古い傷のようだが・・・


・・・何かあったのだろうか?




「そこ僕の席なんだけど」



「あ、すみません!」



思わず見とれていたらどくのを忘れていた。少年は席に座る。


そして、まぐまぐと目玉焼きを食べ始めた。


「マイペースな子だなあ・・・」



「あいつは音乃(おとの)古音(ふるーと)。2年前にこの施設に来たんだ。」


隣にいた睫が少年を指差しながら言う。


「あの子の頬に傷があったんですけど・・・何かあったんですか?」


鮮が聞くと睫は「後でな」と言ってご飯を口に運び始めた。



*



「あ!あやちゃん!!!こっちこっちにゃ!」



「縁ちゃん!」



縁はガツガツと魚を頬張っていた。その隣に鮮は座った。



「い、いただきます・・・」



手を合わせ、まず味噌汁の椀を手に取った。暖かい。


椀に口を付け、そのまま口に含む。



味噌のいい香りが鼻いっぱいに広がって、何とも言えないほっこりした気分になった。



「おいしい・・・」



「おい。チンタラしてると学校遅れんぞ。」


時計を見ると、もう7時30分だ。

学校は8時に始まると昨日聞いたので出来るだけ急がなければならない。


睫はもう食べ終わったようで食器を持ってロビーを後にした。食べ終わった食器は厨房まで持っていくのがここの礼儀らしい。



鮮は味わいつつ、でもできるだけ急いで完食した。



*



7時58分。




「ギリギリセーフぅぅ!!」


鮮は教室に滑り込んだ。


周りの子達は何事かと一瞬こちらを見たがすぐにおしゃべりを再開した。


教室には10席程しか席がなく、とても教室が広く感じた。


はあはあと息を切らしていると、こらえたような笑い声が聞こえてきた。



「あんた・・・マジで面白いな・・・」


「だって、ここ広すぎるんですもん・・・」


「地図持ってんだろ?」


「持ってますけど・・・私方向音痴ですし・・・」



朝食をとり終わった時にはもう40分を過ぎていて、慌てて荷物を部屋に取りに帰ったり道に迷ったりして、結局は途中で管理人室に寄り、四九に教えてもらったのだ。


睫が若干涙目になりながら必死に笑いに耐えている。鮮は恥ずかしさで顔が赤くなったのがわかった。




そんな時チャイムが鳴った。




「そうだ、あんたの席はおれの隣だ。」



そう言って左の席を指差す。



「うう・・・よろしくお願いします・・・」



鮮は席に座った。



*



「はぁあ・・・・」



昼食時間。



鮮は教室で大きなため息をついた。



「どうかしたの。鮮。」



凛とした声で隣の少女が話しかける。


黒髪ロングでぱっつん前髪、黄緑色のキリッとした目に黒縁メガネはまさに優等生といった感じで、右手にはフォーク、左手には黒いブックカバーのついた文庫本を持っている。


セーラー服がよく似合う彼女の名は「本乃(ほんの)しほり(しおり)」。席が後ろだった彼女とはさっきまでの授業で仲良くなったのだ。



「新入生テストとか聞いてなかったよしほりちゃん・・・」



「鋏さんから聞かされてるものだと思っていたもの。」


文庫本に目を落としながら時々昼食のナポリタンを口に運ぶ。

本当に器用な人だ。


「うう・・・鋏さん何も言ってくれなかったし・・・」



「うっかりしていたのね。」



「うっかりじゃ済まされないよ!」



ちゅるるとナポリタンをすする。



「次の授業は・・・」


しほりが時間割を確認しようとすると



「生物だぜ。」



「!睫さん!!」



いつの間にか睫が後ろに立って上から覗き込んでいた。



「生物はイカの解剖だそうだ。準備があるから早めに理科室来いよ」



「うへえ・・・解剖か・・・」


本で知識はあるのだが、

そんなことやったことは今までに一度もない。



「楽しそうね、睫。」



一切本から顔を上げずにしほりは言う。



「勿論だ。なんせ解剖だぜ?」



ニヤリと睫は口をつりあげて笑う。ヨダレもたれそうな勢いだ。



「さすが変態内蔵オタクね。」



「うるさいガリ勉本オタク。」



悪態をつくとじゃあなといって教室を出ていった。



「二人共仲いいんだね」


鮮が笑うと


「そんなんじゃないわよ。ただ入った時期が近かったから話す機会が多かっただけ。」



そういって、読み終わったらしい本をパタンと閉じた。



*



14時。


今日のすべての授業が終了した。




「手が生臭い・・・」


鮮はぐったりしながら言った。

何度も洗ったはずなのにどうにも生臭い臭いが取れないのだ。



「それがいいんだろうが。」


睫がドヤ顔で言っているが意味がわからない。



「さすが変態ね」


「うっさいあんたはサボってただろ!」


「あなたは引くぐらいノリノリだったわね」


「い、いいじゃねえか。別に。」



睫としほりは相変わらず言い争っている。



どうしたらいいものかと戸惑っていると後ろからくいくいとケープを引っ張られた。


振り返ると、左目を赤い前髪で隠し、白くて長いマフラーをぐるぐる巻きにした少年だった。



だが、





その頭にはぴょこんと猫耳がついており、後ろからはするりと赤い尻尾が伸びていた。



「き、君・・・は・・・」


鮮が戸惑っていると睫がそれに気づいたようで、



「おう(えにし)。どうした?」



と話しかけた。


縁は少し考えたあと、



「姉ちゃんしらない?」



といった。


「縁か?おれはしらねえな。」


「・・・そう」


少しだけ悲しそうな顔をしたあとにありがとうと言ってパタパタと走り去っていった。




「睫さん、今の子は・・・?」




猫乃(ねこの)(えにし)。縁の双子の弟だよ。」



「双子!?」

猫耳から察して姉弟だろうとは思っていたがまさか双子だったとは・・・

よく考えたら背丈もそっくりだったような気が・・・



キーンコーンカーンコーン・・・


『3時から4時までは全体清掃となります。各分担区の清掃をしてください』




「あ゛ー・・・掃除めんどいな」


パキパキと指の骨を鳴らしながらつぶやいた。



「一時間て・・・長くないですか?」




「仕方ないのよ。ここ、施設が広いから。」




「えと・・・私はどこを掃除すれば・・・?」




睫はそうだったと言って胸ポケットから紙を取り出した。



「あんたの分担区は・・・窓ガラス磨きだ。」




「窓ガラスって・・・まさか全部ですか!?!?」




「勿論だ。」




「因みにわたしと睫は共有スペースよ。」




「そんなあ・・・」




「まあなんとかなると思うぜ?困ったら手伝っててもらえばいいしな。」




頑張ってーと言いながら二人は行ってしまった。



*



「お、おわらん・・・・」


現在3時48分。


もうすぐで終わるというのに、まだ半分も磨き終えていなかった。



慣れない作業だし、一人でこんなにやるのは流石に大変だ。窓の位置によっては5m近く高い位置にあるものもある。


磨けるわけがない・・・



「そういえば、手伝ってもらえるって睫さんが言ってたような・・・」



手伝いとはどういうことなのだろうか?



「あ!色乃鮮さんですか!」



横から声をかけられた。


黒髪ショートで白いパーカーに赤チェックの短パン。見た目は男の子っぽいが声からしてどうやら女の子のようだ。



「は、はい。私が色乃鮮ですけど・・・」



「ボクは妖乃(ようの)(ゆう)といいます!睫さんに頼まれて手伝いに来ました!」


幽はニッコリと笑って敬礼した。

可愛い。


「わ!ありがとうございます!わざわざ!」


「いえいえ、手伝うのがボクの仕事なので!!それじゃみんな!!」




みんな?


幽の周りを見てみたが、どう見ても幽一人しかいない。



その瞬間、




鮮の足元に置いてあった予備用の布巾数枚がふわりと宙に浮かび上がった。




「!?!?」

鮮が戸惑っているが、幽は気にせずにニコニコしている。



「『ラン』は高いとこ!『リン』は一階を!『ルン』は四階!『レン』は二階ね!『ロン』は広いとこをお願い!!」



幽がそう言うと布巾はずばばばと飛んでいき、窓を磨き始めた。



「えと・・・ゆ、幽・・・ちゃん?今のは・・・?!」


「あ!!すいません!!何も言わずに勝手にしてしまって・・・ボクは、『生きている物が一切見えない』病気なんです。」



「生きてるものが見えない・・・?」



「はい。なので、僕には鮮さんの姿は服がふわふわ浮いているようにしか見えないんです。」



「!」



「生きているものは見ることも触ることもできませんが命がないものなら見たり触ったりできるんですよ。」



「じゃあ・・・今布が飛んでいったのは・・・」



「はい。ボクが仲良くなった幽霊たちです!みんないい子なので、お手伝いとか、やってもらってるんですよー」



幽はえへへと笑う。



「すごいね幽ちゃん・・・私の病気は何の役にも立たないのに。」



私の病気はただ自分が傷つくだけの病気だ。


誰かを助けたりだなんてできない。




「そんなことないかもしれませんよ?」



「へ?」



「役に立たないと思ってるものでも、思わぬところで役に立ってる時だってあるんですから。大丈夫ですよ!」



幽はニッコリと笑った。すると、ひらりと布巾が数枚戻ってきた。



「もうやってくれたんだ!!ありがとうみんな!!」



その瞬間糸が切れたようにパサりと布巾が地面に落ちた。幽は布巾を拾うと鮮に渡した。



「ありがとう!」



「役にたててよかったです!また夕食の時に会いましょう!」





幽はペコリと礼をすると走り去っていった。




*




掃除を終えた鮮は布巾を片付け、自室に戻っていた。



時刻は16時12分。



「この時間は一体何をすれば・・・」



何をしたら良いのか分からず、ぼーっとベットの上に座っていると、コンコンとノックの音が聞こえた。はーいと返事をする。



「あやちゃん!!!」



「うぉあ?!?!」



縁が思い切り抱きついて(飛びかかって?)きた。

どさっと後ろに倒れる。



「遊びに来たにゃー!!」



「私もよ。」



そう言ってしほりもドアから部屋に入ってくる。



「二人共・・!」



あまりにびっくりして言葉が出ない。



「あやちゃん!お話しよ!」



にゃはっと笑ってベットに寝転ぶ。


「お話・・・?」



「そう。まあ、”ガールズトーク”ってやつね」


失礼するわと言ってしほりもベットに腰掛けた。



「ガールズトーク・・・って何をするの?」


そんなものはやったこともない。



「一番の定番は恋バナね」



ふっと笑って鮮を見る。

鮮は意味が分からず、ただただ顔を赤くしていた。



「ねーねー、あやちゃんは好きな人とかいにゃかったのー?」



「好きな人かあ・・・そういえばいたことないなあ・・・二人は」



「私は本が恋人だから。」



「あたしはみんな大好きだからにゃー」



「そっか。」



考えたこともなかった。



恋なんて、


私にはできないと思っていたから。




「・・・あやちゃん?」



「・・・ん?」



縁がじっとこちらを見つめる。

そうして、ぎゅうっと抱きしめてきた。



「そんな寂しそうな顔しないで欲しいにゃ。」



「・・・寂しそうな顔なんか・・・」



「あたしにはわかるもん。あやちゃんが寂しそうなの。」



寂しい。


無意識のうちにそんな顔をしていたのか。


私は・・・・。



「ごめんね。もう、大丈夫だから。ね?」



できる限りの自然の笑みを作って縁に見せる。


安心したように縁は笑った。




*




22時48分。



食事を終え、風呂にも入り終わってあとはねるだけという時間だ。





「ほんとに不思議だよなあ」




たった一週間前の私ならこんな生活ができるだなんて夢にも思わなかっただろう。



胸に手を当ててみる。


ドクドクと規則正しい音を立てて血を送り出す”それ”は、あの頃よりも今の方がしっかりとした音を立てているような気がする。



あの頃・・・




―――思い出しただけで寒気がする。







「いいや。寝よ寝よ!」



電気を消して、

ガバっと布団をかぶる。




明日はどんなことが待っているんだろう。




楽しみだなあ。






私はゆっくりと眠りに落ちていった・・・






やっと3話終了しました。



長かったです。




今回は『やすらぎ』の日常的な生活を書いたつもりです。



できるだけ新キャラ多くだそうと思っていろいろ頑張ったんですが、なんかうまくいったのかいってないのかよくわからないですねはい。



次回はちょっと感じを変えて書いてみたいなあと考えています。



やっと!私の!大好きな!キャラが!かける!!!




というわけでまた次回お会いしましょう!

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