一話。 Birth by Death. あるいは現在進行形の死。
―――目を開けば異世界でした。
そんな見出しが出るような転生を彼は想像したが、そんなことはなかった。むしろ異世界に来たかどうかすら怪しいし、それ以前に問題が発生していたりする。
(目……目が空かないし体が動かない!? なにこれ!? )
そう、目が空かないし、体が動かないのである。その癖思考は正常とは言いがたいがクリアで、益々訳がわからない。ただギャアギャアと子供、と言うより、生まれたての赤ん坊が泣いているような音が聞こえる。すぐそばで。と言うか、外側からならまだしも、内側からも。
彼が落ち着きを取り戻すのと、その落ち着きから落ちるのとは同時だった。
(あ、赤ん坊からのスタート? そんな馬鹿なっ。不公平にもほどがあるっ)
内心でどんなに怒っても、体は動いてくれない。ただただ泣くばかりだ。泣かなければ死ぬのだから、泣くのは当然なのだが。
しかしすぐに泣き声以外の声が聞こえる。複数人の、歓喜しているような声。すぐに浮遊感、そして冷たい感触。彼はすぐに理解した。抱き抱えられていると。 精神的には十代半ば。微かな羞恥が生じるが、圧倒的な安心感。羞恥などたちまち霧散する。
「■■■■■■■■■■」
息切れした、しかし力強い、年若い女性の声。聞き覚えは彼にはないが、肉体が覚えている。母親だ。
なんとか顔を見ようとしても、目は開かない。開いたとしても、見ることはできないのだが。
彼はどうにもなら無いと解ると急速にどうでもよくなり、眠ることに決めた。諦めはいい方である。眠る直前、額に柔らかな感触を得た。