だいたい家族
「代替家族の説明は以上となります。何か質問はございますか?」
場違いなほど快活な声を聞いてやって来た若い夫婦は顔を見合わせて頷きあう。
「それじゃ、この子は本当に幸せに暮らせるんですね?」
妻の言葉に私は微笑み頷いた。
「もちろんです。私達は可能な限りお二人の子供が幸せに暮らせるように努めてまいります。先ほどのお話にも繋がりますが、お二人はいつでもお子様のご様子を見に来ることも出来るんですよ」
夫婦は微笑んだ。
これなら安心だね、なんて口にしている。
まったく馬鹿げている。
こんな場所に子供を預けようとする人間なんて一度だって様子を見にきたりしないのに。
「それにご安心ください。お二人のご子息は一歳にもなっておりません。この日の事なんて覚えていないでしょうし、きっとここで新しくなる家族のことを本当のお父さんやお母さんと思ってくれますよ」
私の皮肉に満ちた言葉。
目の前の二人に伝わるはずもない。
そもそもこんな皮肉が伝わるような人間ならこんな場所に――いや、もう止そう。
「時々会いに来ても良いかしら?」
さっき言っただろ。
いつでも会いに来て良いと。
それなのにもうこんな質問か。
「もちろんです。いつでも会いに来てください」
私の言葉が終わるか終わらないかの内に夫婦は署名を始めた。
僅かな躊躇いもなく。
これで契約は成立だ。
「……いつでもいらしてください」
私の言葉は空しく響くばかりだ。
*
「マザー。今日のご夫婦はどうでしたか」
業務から戻ると私の長男が問うてくる。
答えなど分かっていると言わんばかりに。
「いつもと一緒よ。赤子を捨てられると分かった途端にもうほとんど話を聞いちゃいない」
「それはお疲れ様です」
長男は苦笑いをしながら私のバッテリーを交換する。
元々は何も知らない子供だったけれど、今じゃ本当にアンドロイドのメンテナンスが上手くなっている。
いや、長男だけではない。
この代替家族で共に暮らしている者は皆――。
「マザー。今、何を考えているか当てて見せましょうか?」
長男の言葉を受けて私は無言で先を促す。
「『あぁ。やっぱりマスターの言っていたことは正しかった』……どうですか?」
「ご名答」
くすくす笑いながら長男を誉める。
私のマスターこと本来の『持ち主』は常日頃から言っていたのだ。
『人間は一度再教育しなおす必要がある』
その方法がこれだ。
捨て子をひたすらに教育し続ける。
……実に途方もない話。
『君にしか頼めない。私はただの人間で寿命が決まっているから』
いくら無限の寿命を持つとはいえ、アンドロイドに丸投げをするなんて。
「まるで人間にでもなってしまったみたい」
私の口癖となった愚痴を長男は笑って流すばかりだ。




