↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/178

停止順序のない計画

その日の夕方、引継ぎを終えた班が計画卓へ戻った。


病院、鉄道、避難所から受け取った三つの保守窓は動かさない。市営第三、湾岸、北環状の札の間で空いているのは、最初にどこへ負荷を渡すかという順番だけだった。


俺は作業台へ三枚の現況図を置いた。


流量だけを見るなら、市営第三を最後に残したかった。過去の正常記録が多く、外から来る振動を俺が現地で聞ける。ほかの二地点を止めた時、受けた負荷の違いを比べやすい。


その順番を、白瀬さんが止めた。


「市営第三を最後まで稼働させれば、鉄道側の最低負荷を長く迷宮へ残します」


駅間の列車は空になった。けれどホームの換気と地上へ出る設備は、利用者の誘導が終わるまで必要だった。


「今なら鉄道側を別供給へ置けます。朝の運行再開を見送った時間を使えるのは、最初の窓です」


市営第三を先に止めれば、街の損失は大きい。


だからこそ、すでに運休と避難を受け入れている今が一番小さかった。


俺は市営第三の札を、一番左へ動かした。


すぐには離さなかった。


市営第三を先に止めると、俺が一番よく知る比較点を最初に失う。残り二地点の異常が強くなった時、聞き慣れた場所を基準に戻せなくなる。


「市営第三を最後に残せば、流れの違いは追いやすいです」


俺は自分の案を言った。


白瀬さんは、鉄道の運行票を札の下へ置いた。


「その追いやすさは、運休を長引かせて作ります。最後まで残すなら、駅の避難設備を迷宮側へ戻さない別の代替が要る。今ある電源車は病院と避難所から外せません」


俺は流量図だけで、代替車両を一台作っていた。


「先に市営第三で取れる確認を減らします。外振動の変化までで戻します」


分かりやすい現場を長く使う案を捨てた。


「では次に湾岸です」


今度は湾岸の現地責任者が首を振った。


医薬原料の地上搬送は続いている。保冷庫を守る二室だけでなく、冷蔵車へ積み替えた荷を受入れ先へ渡し切るまで、搬送路の入口側に人が残る。


「止めるために荷は入れません。ただ、今止めれば、搬送中の記録が閉じません。受領札が閉じるまでは空荷と言えない」


空に見える枠を、書類上だけ空にしなかった。


湾岸の札は二番目より後ろへ下がった。


残った北環状を二番目へ置こうとすると、獅堂さんが図の上へ手を置いた。


「北環状は最後だ」


「最後では、護衛班が一番疲れた時に難しい退路へ入ります」


白瀬さんが言った。


「疲れたまま入れない。だから、中へ残す班を今から交代させる」


獅堂さんは、北環状の入口映像を開いた。


二つに分かれた通路の奥で、避難灯が白くなっている。探索班の帰路と運搬種の戻り道が近い。停止を先にすれば、負荷の動きで魔物が入口側へ寄る可能性があった。


「今止めると、まだ帰路にいる班と流れがぶつかる。先に人を出す。市営第三を休ませる間、北環状の班は入口外で交代する。三番目に入るのは休んだ班だけだ」


難しい場所を早く済ませるのではない。


難しい場所から人を出す時間を、先の停止で作る。


北環状の札は三番目に置かれた。


獅堂さんが守ったのは、危険な現場を後回しにすることではない。


今いる探索班を出し、交代を休ませ、短い第三窓に入れる人数を確定することだった。


「最後に置く代わりに、作業範囲は入口二点までだ」


深層の確認を外すことで、北環状を最後へ置ける。


俺が流量を優先すれば市営第三が最後、白瀬さんが公共影響を優先すれば市営第三が最初、獅堂さんが退路を守れば北環状は最後になる。


同じ三枚を見ても、守る対象で順番は変わった。


すると、湾岸は二番目しかない。


だが湾岸の荷は、最初の窓までに受領を閉じられる保証がなかった。


「三つが自然に並ぶまで待つ案はありません」


久世統括官が通信卓から言った。


「待つ間も病院の予備設備は乱れを受け、避難所の電源車は補給を使う。順番が決まらないこと自体が、継続する損失です」


久世統括官は、別の紙を三枚の横へ置いた。


病院の再切替余裕。湾岸で受入れを断った貨物。北環状の避難所で使う補給。


「技術的に一番きれいな順ではなく、失敗してもこの三つを同時に失わない順を選びます」


どの迷宮を守るかではなく、停止の外にいる人を一度に危険へ置かないことが、久世統括官の順番だった。


湾岸の現地責任者は、運送会社と受入れ先へ連絡した。


最後の二台を予定先へ運ぶ案を取り下げ、一台を港内の確認済み区画へ留める。売上と到着予定を失う代わりに、受領札を現場内で閉じられる。


「二番目の窓までに空荷を確定します。ただし、留置分の保冷と補償は広域事故へ載せてください」


久世統括官が費用枠を動かした。


湾岸の札が二番目へ戻った。


市営第三、湾岸、北環状。


社会側の時間と、退路側の時間からはこの順だった。


念のため、残る五つの並びも捨てずに試した。


湾岸を最初にすると、医薬原料の受領が閉じる前に作業者が残る。北環状を最初にすると、帰還班と負荷の戻りが同じ通路へ入る。


湾岸、市営第三、北環状の順なら、鉄道が停止可能な今の時間を逃す。北環状、湾岸、市営第三の順なら、避難所の代替が固定される前に入口負荷を落とすことになる。


札を動かすたび、誰かの作業が途中で切れた。


採らない順番にも、採らない理由と失う対象を残した。


次に俺は、真央さんの共通波形へ三枚の札を重ねた。


市営第三を最初の谷で休ませる。


湾岸は受け側へ回り、北環状にも遅れて負荷が入る。


湾岸を二番目に休ませると、市営第三は低いまま、北環状が残りを受ける。


最後に北環状を休ませ、三地点を最低負荷へ置く。


紙の上では、一続きになった。


「市営第三の復帰は、どこへ入れますか」


小暮さんが聞いた。


「最初の窓の終わりです。長く止め続けません。外からの振動が細くなるところまで確認し、最低負荷へ戻します」


「戻した時、北環状は」


俺は計算紙をめくった。


最初に止めることだけ考えていた。戻した時にどこが受けるかを、順番の外へ置いていた。


白瀬さんが、市営第三の停止と復帰を病院、鉄道、避難所の時間へ重ねる。


市営第三を休ませた直後、北環状の避難所側は代替へあるため、迷宮へ残る公共負荷は減っている。


それでも迷宮内部の受入れは増える。


「止めている間に北環状が上限へ近づきます」


白瀬さんが言った。


「宮前さんの予測では、どこまでですか」


俺は市営第三の過去停止と、湾岸一枠停止の反応から幅を出した。


北環状の深層は未測定だ。数字を一本にはできない。


小さい側なら、現地の中止線の手前で収まる。


大きい側なら、最初の確認が終わるより早く上限へ届く。


「今のままでは、最初の停止を始められません」


俺は市営第三の札を外さなかった。


順番を変えれば、病院か貨物か退路のどれかが先に崩れる。


必要なのは別の順番ではなく、最初に動く負荷の受け先だった。


「受け先を作るために、北環状の深層へ人を入れる案は採りません」


獅堂さんが先に線を引いた。


「病院の代替を削って、北環状を先に止める案も採りません」


白瀬さんが続けた。


久世統括官は、別自治体へ無断で負荷を渡す案を採らないと明記した。


俺は、市営第三の確認を完了するまで止め続ける案を消した。


選ばなかった案を隠さなかったから、次に必要な受け先の条件が四つに絞れた。


人を入れず確認できる。公共代替を削らない。北環状へ届く前に受ける。満ちる前に切り離せる。


獅堂さんが、北環状の護送表へ一行加えた。


《流量上限で即時退避。中央確認を待たない》


白瀬さんは、避難所の最低負荷を代替へ固定し、停止中に迷宮側へ戻せない条件を出した。


久世統括官は、受け先を作れない限り条件審査を承認へ進めないと決めた。


俺は、三者の条件を流量図へ戻した。


市営第三を先に休ませる順番は変えない。


ただし、流れた負荷を北環状へ着く前に一時的に受ける区画が要る。


空であることを確認でき、失敗時に切り離せて、使った後に残量を測れる場所。


白瀬さんは、さらに一つ条件を足した。


「避難所の代替を置く場所と、同じ区画にはしません。受け先が異常になった時、防災物資まで近づけなくなります」


獅堂さんは、資材を入れても帰還班の通路を塞がない広さを求めた。


久世統括官は、一自治体の所有物へ他二地点の負荷を無断で預けず、広域事故として費用と開始責任を持つとした。


俺が求めたのは、北環状へ届く前に応答することだった。


同じ《受け先》でも、四人が守るものは違う。全部を満たさなければ、図面上の空白は現場の受け皿にならなかった。


それがなければ、一地点の安全を別地点の事故で買うことになる。


三者一致の停止順はできた。


同時に、その順番だけでは実行できないことも分かった。


第一停止の直後、三番目に置いた北環状迷宮は、許容量を一時的に超える予測になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。