停止順序のない計画
その日の夕方、引継ぎを終えた班が計画卓へ戻った。
病院、鉄道、避難所から受け取った三つの保守窓は動かさない。市営第三、湾岸、北環状の札の間で空いているのは、最初にどこへ負荷を渡すかという順番だけだった。
俺は作業台へ三枚の現況図を置いた。
流量だけを見るなら、市営第三を最後に残したかった。過去の正常記録が多く、外から来る振動を俺が現地で聞ける。ほかの二地点を止めた時、受けた負荷の違いを比べやすい。
その順番を、白瀬さんが止めた。
「市営第三を最後まで稼働させれば、鉄道側の最低負荷を長く迷宮へ残します」
駅間の列車は空になった。けれどホームの換気と地上へ出る設備は、利用者の誘導が終わるまで必要だった。
「今なら鉄道側を別供給へ置けます。朝の運行再開を見送った時間を使えるのは、最初の窓です」
市営第三を先に止めれば、街の損失は大きい。
だからこそ、すでに運休と避難を受け入れている今が一番小さかった。
俺は市営第三の札を、一番左へ動かした。
すぐには離さなかった。
市営第三を先に止めると、俺が一番よく知る比較点を最初に失う。残り二地点の異常が強くなった時、聞き慣れた場所を基準に戻せなくなる。
「市営第三を最後に残せば、流れの違いは追いやすいです」
俺は自分の案を言った。
白瀬さんは、鉄道の運行票を札の下へ置いた。
「その追いやすさは、運休を長引かせて作ります。最後まで残すなら、駅の避難設備を迷宮側へ戻さない別の代替が要る。今ある電源車は病院と避難所から外せません」
俺は流量図だけで、代替車両を一台作っていた。
「先に市営第三で取れる確認を減らします。外振動の変化までで戻します」
分かりやすい現場を長く使う案を捨てた。
「では次に湾岸です」
今度は湾岸の現地責任者が首を振った。
医薬原料の地上搬送は続いている。保冷庫を守る二室だけでなく、冷蔵車へ積み替えた荷を受入れ先へ渡し切るまで、搬送路の入口側に人が残る。
「止めるために荷は入れません。ただ、今止めれば、搬送中の記録が閉じません。受領札が閉じるまでは空荷と言えない」
空に見える枠を、書類上だけ空にしなかった。
湾岸の札は二番目より後ろへ下がった。
残った北環状を二番目へ置こうとすると、獅堂さんが図の上へ手を置いた。
「北環状は最後だ」
「最後では、護衛班が一番疲れた時に難しい退路へ入ります」
白瀬さんが言った。
「疲れたまま入れない。だから、中へ残す班を今から交代させる」
獅堂さんは、北環状の入口映像を開いた。
二つに分かれた通路の奥で、避難灯が白くなっている。探索班の帰路と運搬種の戻り道が近い。停止を先にすれば、負荷の動きで魔物が入口側へ寄る可能性があった。
「今止めると、まだ帰路にいる班と流れがぶつかる。先に人を出す。市営第三を休ませる間、北環状の班は入口外で交代する。三番目に入るのは休んだ班だけだ」
難しい場所を早く済ませるのではない。
難しい場所から人を出す時間を、先の停止で作る。
北環状の札は三番目に置かれた。
獅堂さんが守ったのは、危険な現場を後回しにすることではない。
今いる探索班を出し、交代を休ませ、短い第三窓に入れる人数を確定することだった。
「最後に置く代わりに、作業範囲は入口二点までだ」
深層の確認を外すことで、北環状を最後へ置ける。
俺が流量を優先すれば市営第三が最後、白瀬さんが公共影響を優先すれば市営第三が最初、獅堂さんが退路を守れば北環状は最後になる。
同じ三枚を見ても、守る対象で順番は変わった。
すると、湾岸は二番目しかない。
だが湾岸の荷は、最初の窓までに受領を閉じられる保証がなかった。
「三つが自然に並ぶまで待つ案はありません」
久世統括官が通信卓から言った。
「待つ間も病院の予備設備は乱れを受け、避難所の電源車は補給を使う。順番が決まらないこと自体が、継続する損失です」
久世統括官は、別の紙を三枚の横へ置いた。
病院の再切替余裕。湾岸で受入れを断った貨物。北環状の避難所で使う補給。
「技術的に一番きれいな順ではなく、失敗してもこの三つを同時に失わない順を選びます」
どの迷宮を守るかではなく、停止の外にいる人を一度に危険へ置かないことが、久世統括官の順番だった。
湾岸の現地責任者は、運送会社と受入れ先へ連絡した。
最後の二台を予定先へ運ぶ案を取り下げ、一台を港内の確認済み区画へ留める。売上と到着予定を失う代わりに、受領札を現場内で閉じられる。
「二番目の窓までに空荷を確定します。ただし、留置分の保冷と補償は広域事故へ載せてください」
久世統括官が費用枠を動かした。
湾岸の札が二番目へ戻った。
市営第三、湾岸、北環状。
社会側の時間と、退路側の時間からはこの順だった。
念のため、残る五つの並びも捨てずに試した。
湾岸を最初にすると、医薬原料の受領が閉じる前に作業者が残る。北環状を最初にすると、帰還班と負荷の戻りが同じ通路へ入る。
湾岸、市営第三、北環状の順なら、鉄道が停止可能な今の時間を逃す。北環状、湾岸、市営第三の順なら、避難所の代替が固定される前に入口負荷を落とすことになる。
札を動かすたび、誰かの作業が途中で切れた。
採らない順番にも、採らない理由と失う対象を残した。
次に俺は、真央さんの共通波形へ三枚の札を重ねた。
市営第三を最初の谷で休ませる。
湾岸は受け側へ回り、北環状にも遅れて負荷が入る。
湾岸を二番目に休ませると、市営第三は低いまま、北環状が残りを受ける。
最後に北環状を休ませ、三地点を最低負荷へ置く。
紙の上では、一続きになった。
「市営第三の復帰は、どこへ入れますか」
小暮さんが聞いた。
「最初の窓の終わりです。長く止め続けません。外からの振動が細くなるところまで確認し、最低負荷へ戻します」
「戻した時、北環状は」
俺は計算紙をめくった。
最初に止めることだけ考えていた。戻した時にどこが受けるかを、順番の外へ置いていた。
白瀬さんが、市営第三の停止と復帰を病院、鉄道、避難所の時間へ重ねる。
市営第三を休ませた直後、北環状の避難所側は代替へあるため、迷宮へ残る公共負荷は減っている。
それでも迷宮内部の受入れは増える。
「止めている間に北環状が上限へ近づきます」
白瀬さんが言った。
「宮前さんの予測では、どこまでですか」
俺は市営第三の過去停止と、湾岸一枠停止の反応から幅を出した。
北環状の深層は未測定だ。数字を一本にはできない。
小さい側なら、現地の中止線の手前で収まる。
大きい側なら、最初の確認が終わるより早く上限へ届く。
「今のままでは、最初の停止を始められません」
俺は市営第三の札を外さなかった。
順番を変えれば、病院か貨物か退路のどれかが先に崩れる。
必要なのは別の順番ではなく、最初に動く負荷の受け先だった。
「受け先を作るために、北環状の深層へ人を入れる案は採りません」
獅堂さんが先に線を引いた。
「病院の代替を削って、北環状を先に止める案も採りません」
白瀬さんが続けた。
久世統括官は、別自治体へ無断で負荷を渡す案を採らないと明記した。
俺は、市営第三の確認を完了するまで止め続ける案を消した。
選ばなかった案を隠さなかったから、次に必要な受け先の条件が四つに絞れた。
人を入れず確認できる。公共代替を削らない。北環状へ届く前に受ける。満ちる前に切り離せる。
獅堂さんが、北環状の護送表へ一行加えた。
《流量上限で即時退避。中央確認を待たない》
白瀬さんは、避難所の最低負荷を代替へ固定し、停止中に迷宮側へ戻せない条件を出した。
久世統括官は、受け先を作れない限り条件審査を承認へ進めないと決めた。
俺は、三者の条件を流量図へ戻した。
市営第三を先に休ませる順番は変えない。
ただし、流れた負荷を北環状へ着く前に一時的に受ける区画が要る。
空であることを確認でき、失敗時に切り離せて、使った後に残量を測れる場所。
白瀬さんは、さらに一つ条件を足した。
「避難所の代替を置く場所と、同じ区画にはしません。受け先が異常になった時、防災物資まで近づけなくなります」
獅堂さんは、資材を入れても帰還班の通路を塞がない広さを求めた。
久世統括官は、一自治体の所有物へ他二地点の負荷を無断で預けず、広域事故として費用と開始責任を持つとした。
俺が求めたのは、北環状へ届く前に応答することだった。
同じ《受け先》でも、四人が守るものは違う。全部を満たさなければ、図面上の空白は現場の受け皿にならなかった。
それがなければ、一地点の安全を別地点の事故で買うことになる。
三者一致の停止順はできた。
同時に、その順番だけでは実行できないことも分かった。
第一停止の直後、三番目に置いた北環状迷宮は、許容量を一時的に超える予測になっていた。




