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六時間の空白

緊急閉鎖のあと、地上流出なしと群れの待避区画への移動を入口側と奥側で独立確認し、中央通路だけは誘導員付きの暫定利用へ戻っていた。共同売出し前夜の全体停止までに、六時間の使い方を決めなければならない。


暫定利用は、元の営業へ戻ったという意味ではない。


西側三店舗は開店保留のまま、商品を地上受渡し窓口で渡している。反対側の店へ行く客は、床際へ寄らないよう誘導員に案内される。中央通路には、群れが再び地上側へ向いた場合の再閉鎖線が残っていた。


店員の勤務も、配送も、清掃も、毎日少しずつ余分な手間を払っている。


共同売出し前夜を逃せば、その状態を正規材と次の全店停止枠が揃うまで続けることになる。六時間は急いで使う必要がある。同時に、急ぐために空欄を成功扱いできない時間だった。


六時間を全部、修理へ渡すことはできない。


止めた時にしか見えない流れを調べる時間と、施工した結果を人のいない状態で試す時間が要る。どちらかを削れば、工事が終わっても翌朝に開けられない。


俺は閉店後の地下街へ、三本の横線を引いた工程表を持ち込んだ。


最初の二時間は調査に使う。


地下街の通常負荷を外した時、床下の温度逆転がどこまで残るか。図面外の管理空間が一つの空間なのか、途中で分かれているのか。正規の戻り側が反応を失っている位置はどこか。人を床下へ入れるのではなく、既存の点検位置と施工班が安全に開けられる範囲だけで確かめる。


次の二時間半が施工だ。


確認できた範囲で、開業時の旧仮設接続を正規の戻り側から切り離す。傷んだ戻り格子を交換し、使わない開口を迷宮用の位相封止帯で隔離する。ただし、床下一面を開ける工事や、古い管理空間を端まで追う作業は入れない。


最後の一時間半で段階試験を行う。


無負荷の確認から始め、共用部、店舗側の順に使う状態へ近づける。その間に、床下の温度、図面外空間の鳴り、天井の水滴、魔物の進路、映像と時刻が、それぞれの再開条件へ戻るかを見る。


「きれいに三つへ分けたな」と堀江さんが言った。


工程表を褒めた声ではなかった。


「現物がその時間で見つかるとは限らん。最初の二時間で正規側の受け口が出なければ、施工時間を食うぞ」


「食わせません」


俺は調査欄の下に、中止線を引いた。


正規側の接続位置を確定できない。床下の低温範囲が西側三店舗の外へ広がる。図面と異なる空間がもう一つ出る。そのどれかなら、施工へ進まず全体閉鎖を続ける。


施工中も同じだった。群れが地上側へ向く、位相封止帯が現物に合わない、交換後の流れが未測定区画へ逃げる。起きた時点で手を止める。


試験は、時間切れを理由にまとめて行わない。最後の段階へ入る時間が残っていなければ、予定した時刻にシャッターは上げない。


「六時間目に作業完了ではなく、六時間目に再開条件を満たしていなければ閉鎖継続、と」


真央さんが工程表の言葉を、記録側の表現へ置き換えた。


「未達の理由も、調査遅れ、施工残り、試験不足で分けます。後から全部を『工事が遅れた』にしないためです」


小暮さんは、閉鎖継続になった場合の当番表を開いた。


誘導員は始発後まで交代を置く。地上受渡し窓口は、西側三店舗だけでなく全店が使える状態にする。共同売出しの案内には、開店を遅らせる場合の連絡欄を最初から空けてある。


「予定に間に合うよう作るのは当然です。ただし、予定に合わせて確認したことにはしません」


店主側からは、別の線が返ってきた。


停止前の商品移動を終えても、各店の設備を戻すのは店側が確認してからにする。保全班が共用部を再開できると判断しても、店舗内の異常があれば、その店は開けない。反対に、一店舗の都合で共用通路の安全条件を下げることも求めない。


六時間は、保全班だけの空白ではなかった。店の商品と勤務、市の交通と待機場所、探索側の入場停止、施工班の交代要員が同じ開始時刻へ揃って初めて使える。


獅堂さんは地下街と第三迷宮の境を示す図へ、二本の退避線を引いた。


作業員は中央通路から地上へ出す。魔物は深層側の待避区画へ逃がす。二つが交わりそうなら、設備の状態に関係なく作業を中断する。


「倒して続ける案は工程に入れない。群れの向きが変わった時点で、こっちが使っている場所を捨てる」


施工班の責任者も、自分たちの中止条件を加えた。


現物の材質が調達記録と違う場合、旧仮設接続を外した先が確認済みの正規路へ戻らない場合、指定材が不足する場合。診断側が続けられると言っても、施工側の判断で閉じる。


俺は自分で抱えていた作業を一つずつ外した。


床下の反応を聞き分け、次に確かめる位置を出す。施工で反応が変われば、工程を更新する。そこまでが俺の担当だ。


戻り格子を交換するのは堀江さんと施工班。群れと退路は獅堂さん。原本と試験順は真央さん。停止開始は白瀬さんと小暮さん。再開は施工者とは別の確認を受けて、小暮さんと店側が決める。


一人分の勤務表に収めようとすれば、どこかが無人になる。


工程表を机上の六時間で終わらせないため、開始から順に札を動かした。


退出確認が遅れた場合、調査開始は待つ。商品移動が終わっていても、人が一人残っていれば停止状態には数えない。


調査で床下の範囲が広がった場合、施工の札を右へずらさず、その場で閉鎖継続へ落とす。施工が早く終わった場合だけ、余った時間を試験へ渡す。試験から施工へ時間を返す矢印は作らなかった。


「戻す確認は、最後に余った時間でやる仕事じゃない」


堀江さんが、施工札と試験札の間へ太い仕切りを置いた。


真央さんは各札へ、記録の開始と終了を付けた。作業そのものが短くても、前後の原本がなければ比較できない。カメラの付け替えで生じる空白は、作業時間の節約にならなかった。


獅堂さんは、群れの移動を待つ時間を作業遅れに数えないよう求めた。


「俺の判断で下がったら、その間を施工班の責任時間に入れるな。戻れるか決めるのもこっちだ」


小暮さんは、閉鎖継続へ落ちた瞬間に動かす連絡札を別にした。始発対応、店主への通知、地上受渡し窓口の延長、補償時刻の更新。失敗が決まってから担当を探す欄はなくなった。


札を一巡させると、停止前にできる準備も見えた。


商品移動、資材の外形確認、定点カメラの設置、地上の迂回表示、交代要員の集合。これらは先に行う。ただし、通常負荷が残っている間の準備を、停止後の調査へ混ぜて時間を稼いだことにはしない。


六時間の工程は、作業を詰め込んだ表から、間に合わない時に止まれる表へ変わった。


「宮前さんの交代は」


白瀬さんが聞いた。


「調査の後半で堀江さんへ現況を渡し、短く外れます。施工の節目で戻ります」


「短く、は時間ではありません」


小暮さんが勤務表へ、俺の交代要員と引継ぎ欄を入れた。


六時間の前にも、すでに何晩か現場へ入っている。疲れていないと言えば、記録と合わない。俺は異議を出さなかった。


やらない作業も、工程表へ残した。


図面外空間の全容調査。天蓋第零迷宮との接続調査。十一分周期の意味の確定。濡れた天井材の全面交換。今回の局所危険を閉じるために不要なものは、別の停止と別の責任者が要る。


「見つけたついでに」は、六時間では一番高い作業になる。


工程が固まり、堀江さんと施工班が資材を現物で照合した。


交換する戻り格子。開口を保持する受け枠。作業域を分ける保護幕。図面外空間を正規側から隔離する位相封止帯。


箱の札と中身を、調達記録と一つずつ合わせる。


堀江さんの手が、最後の箱で止まった。


「封止帯が足りない」


予定では、確認済みの開口と、調査で分岐が見つかった場合の予備を合わせて四区画分を置くことになっていた。


箱にあるのは三区画分だけだった。


在庫表の数え間違いではない。別の現場へ出た一単位が、正規の検査を終えず戻っていない。市の備蓄にも、同じ適合記録を持つものは残っていなかった。


似た材はあった。


ただし迷宮側の低い波を受けた時、同じ戻り方をする証明がない。


堀江さんは、似た材を予備箱から外へ出した。間違えて使わないため、適合未確認の札を付け、施工班の資材列から離す。


「足りない物が見えた時点で、ある物として数えない。工程を守るのは、その後だ」


準備段階で不足が分かったこと自体は、資材照合が働いた結果だった。だが発見を成果と呼んでも、隔離できる範囲は一つ増えない。


「切って増やせませんか」とは、誰も言わなかった。一単位は一つの隔離範囲を保証するまとまりで、長さを合わせれば同じ働きになる部材ではない。


正規調達を待てば、共同売出し前夜の停止枠には間に合わない。


不足を無視すれば、工程表に書いた施工中止条件へ、始める前から触れる。


六時間の空白は作れた。


だが、その中へ置くはずだった封止材が、一単位だけ足りなかった。


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