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つないだ手の温度が均されるまで  作者: みけめがね


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第五話 新しい朝が来た

ひんやりとした部屋で目が覚めた。

掛け時計の針が示すのは七時二十分。カーテンの隙間から朝日が漏れ出て畳に染み込んでいる。

慣れない他人の部屋で寝たせいかいつもより随分早く起きてしまった。

背筋を思い切り伸ばし眠気を飛ばす。

次の瞬間弾みでストンと置いた右手に妙な感触が走る。


「?」


目線を右手に向けると、なぜか朝一さんの髪の毛が私の右手に敷かれていた。

 

「———!?」


一瞬脳の処理が追いつかなかった。互いの布団は二メートルほど離して寝ていたはずなのに、いつの間にか私の布団に朝一さんは半身を突っ込んで寝息を立てている。この人は一人で寝る時もこんなに寝相が悪いのかな……? とりあえず、朝食の準備をしないと行けないので布団からずるっと身体を引き摺り出す。


「んぅ……」


私が布団から出たと同時に朝一さんがむっくりと目を覚ました。


「お、おはようございます……」


起きたばかりの朝一さんに向かって挨拶をするが脳みそがフリーズしていたのか、布団から出たばかりの私に向かって、

 

「……私なんで清水さんの布団にいるんですか!?」


と戸惑いの表情を見せた。どうやら寝相が悪いのはいつものことではないらしい。


「なんでって私に聞かれても……」


「そういえば清水さんのお布団、私のお布団よりなんだかあったかい感じがしましたよ? そのせいかな」


朝一さんは寝起きだからか、若干ポヤポヤした口調になっている気がする。

つまりこれからは同じ布団で一緒に寝たいってことなんだろうか。朝一さんは少し恥ずかしいことも結構平気で言えるタイプかもしれない。私は聞いているだけでちょっと顔が熱くなっているけど。


「———私、自分の部屋から食材取ってくるんで、お布団でも畳んでおいてください」


朝一さんはまだまだ寝足りなそうな目でコクリと頷いた。多分しばらくはポヤポヤしてるだろうな。

ドアを開けると。外はこの街にしては珍しい雪景色だった。

通学路を歩く小学生たちは雪合戦をしながら学校に向かっている。もちろん私にはそんな元気と気力はないのでその楽しそうな後ろ姿を眺めるだけだ。

自分の部屋の鍵を開け、おひとり様用の冷蔵庫の中を確認する。

卵がちょうど二個とハムが最後の一パック分、今日の朝ごはんはハムエッグでいいか。

さてと、朝一さんの部屋に戻ろう。


「———むにゃむにゃ……」


部屋のドアを開けると居間で朝一さんが私の布団を抱き枕のように抱えて堂々と二度寝をかましていた。もちろん布団は一ミリも畳まれていない。


「はぁ……まぁ時間の許す限りは寝かせてあげようかな」


自分が気に入った人には甘いのはお母さん譲りなのかもしれない。と頭の中で勝手に思いながら台所に向かう。まぁ、目玉焼きとハムを焼くだけなんだけど。

 

コンロには小さめのフライパンがポツンと放置されていた。普段は使ってないのかな?まぁ、あの人はお金さえあれば毎日三食カップラーメン生活になりかねない性格だ。

一応フライパンを洗って、コンロに火を灯し水滴を乾かす。

サラダ油がなかったので朝一さんが味付けか何かで使ったであろうオリーブオイルをフライパンに少し垂らして、オリーブオイルを広げる。

そしてシンクの端で卵の殻をコンコンと打ち付けてフライパンの上で卵を割る。割れた殻から卵が滑り落ち、熱を帯びたフライパンの上で卵が一気に悲鳴を上げ、次第に声は一定の大きさを保つようになる。

そこにハムを追加で投入。卵とハムのデュエットでレクイエムが奏でられている。


「ん、いい匂い……」


そう言って朝一さんはキョンシーが復活するかの如く、むくっと上半身を起こした。


「朝ごはん、簡単ですけどできましたよ?」


「やった〜! ハムエッグですか?」


私が朝ごはんという単語を発した瞬間、朝一さんの表情から眠気が吹き飛んだような気がした。


 「そうですけど?」

 

朝一さんはシチューの時と同じくキラキラ目を輝かせている。この人には人が作ったご飯は全てご馳走に見えるのだろうか。そうだとしたら料理好きの私に関してはなんとも有難いというか、申し訳ないというか…


「清水さん! 卵に何かけます?」


無邪気な子供のような目で私に目玉焼きにかける調味料を聞いてくる

机の上にはいつの間にかマヨネーズ、醤油、塩胡椒、ソース、オリーブオイル、焼き肉のたれ、バターが置かれている。なんでこの部屋食材はないのに調味料ばっかりあるんだろう……?

 

「へっ? あ、じゃあ私は醤油で……」


私は醤油差しに手を伸ばす。


「ちぇ〜……清水さんも醤油派か〜」


そう言って朝一さんは焼き肉のタレの蓋をポンっと開けた。

朝ごはんに焼き肉のタレは少々ずるい気がするのは私だけだろうか。

ちょろっと醤油をかけた半熟の目玉焼きからとろーっと黄身が漏れ出る。あぁ、ほかほかの温かいご飯が欲しい。


「冷凍ご飯、あっためようかな?」

 

頭の中に閃光が走るってのはまさにこういうことだろう。

  

「偶然ですね、私も同じこと考えてました」


私と朝一さんは自然と手を握っていた。正直言ってよくわからないが共鳴を感じた。

 

———四分後

レンジから二人で湯気の立ち上る温かいご飯を移しその上に半分残しておいた目玉焼きを乗っける。

乗っけただけ。過程はシンプルだがまさに至高そのものだ。

味は?と聞かれたら『いますぐ試してきて』と一蹴できる。もはや説明不要だ。


「全然話変わるんですけど、朝一さんって大学生ですか?」


ご飯粒を口元につけた朝一さんに向かって苦笑気味に尋ねる。

 

「なんでわかったんですか!?」


そんなに取り乱すことだろうか。朝一さんは今度は私のことをメシアではなくエスパーっていいそうな驚き方だ。

 

「別に……昨日自分で大人って言ってたけど、それにしてはまだ若そうですし……」


若いっていうか子供っぽいの方が正しいけどって言葉はグッと抑えた。

 

「は、はぁ……」


「あと朝一さん、夕方は空いてますか?」


私がそう聞くと朝一さんは枕元に充電してあったスマホを取り出して

カレンダーを開いた。大学生なら講義の予定がたくさん入っているんだろう。

 

「一応夕方は全然空いてますけど?」


と首を横にかしげた。


「朝一さんの部屋も私の部屋も冷蔵庫に食材がないのでよければ一緒に買い出しに行きたいなって思ってて」

 

「そうですね! 了解っっってあああ!!!!」


「どうかしましたか!?」


朝一さんが突然叫び。そして口をぱくぱくさせながらゆっくり壁に向かって指を差した。

壁にかかった時計は八時三十分を指し示していた。


「うわわあああああああ!! 私バイト行く準備するんで一度部屋戻りますね!?」

 

流石に私も取り乱した。朝一さんはうんうんうんと何度も頷いて「行け!」と言わんばかりに目線を送る。玄関で靴を履き替えパジャマ姿で自分の部屋に全速力で戻る。

 

五分後、怒涛の早着替えを完了させ、私が部屋の外に出るとちょうど同じタイミングで朝一さんの部屋のドアも開いた。

朝一さんはジーンズに灰色のダウンジャケットとリュックという意外とシンプルな格好で出てきた。適当にちょろっと結ばれた髪の毛も可愛く見える。美人なので時間がなくても適当でもなんでも結局総合評価が美人なので非常にずるい。

そんな朝一さんは私の方を向いて

 

「清水さん、バイト頑張ってください!」

  

とエールを送る。

人からお見送りされるのもそういえば下手したら二年くらい経験してないかもしれない。

 なんだかこんな賑やか? な朝は久しぶりだ。

いや、相手が朝一さんだからかな? なんだろうこの気持ち、今はちょっとわからないけど、 

もし答え合わせをするとしたら採点してくれるのは朝一さんなんだろうか。それとも……

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