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つないだ手の温度が均されるまで  作者: みけめがね


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20/21

第二十話 嘆願

「朝一さん、起きてください、もうじき到着しますよ」


「むにゃ……しみじゅさん……」

 

————年末帰省の影響で少し混んだ電車に揺られ約三十分、私とまだ若干眠そうな朝一さんは、ボロアパートのある木日向町から十二駅離れた私の実家の最寄り駅についた。

駅を出ると昔より少し小さくなった街が静かに出迎えてくれた。

昔遊んだ小さい公園、シャッターの閉まったおもちゃ屋さん。子供の頃の記憶が昨日のことのように頭に浮かんでくる。

しばらく歩くと閑静な住宅街の一角に、変わらない私の実家があった。

まだおじいちゃんがいた時に建てたらしい少し古い大きな家。


「え……? 清水さんこんなおっきな家に住んでたの……!?」

 

私の実家を指差す朝一さんの笑顔が引き攣っている。

 

「そうですけど、何かおかしいですか?」


「いや、なんで今のボロアパートに住んでるのかな〜って……」


「それはまぁ……節約と言いますか……」


「そこは贅沢しようよ!?」


「まぁ、そうしてたら、今頃私は朝一さんの隣にはいませんよ」


「あはは、それもそうか!」


「じゃあ、インターホン押しますよ」


私が家のインターホンを押す。しばらくすると奥からパタパタと足音がして、扉が開いた。


「白華! どうしたの!? 何かあったの? それに確か、朝一さんまで……」


ドアの先にいた母は私を見た瞬間、まるで死人が帰ってきたような表情をした。

私の隣の朝一さんは丁寧に母に向かってお辞儀をする。

 

「今日は……お母さんに大事な話があって来ました」


「……入りなさい、大事な話があるなら聞くわよ」


廊下には私が小中学生の時に取った賞状やトロフィーがずらりと飾られてあった。


「朝一さんって、優秀だったんだね〜」

 

朝一さんは壁にかかった賞状をじっと眺める。

 

「まぁ……そうだったんでしょうね……ちょっと恥ずかしいから見ないでください……」


それから私たちは家のリビングに通された。リビングのテレビ台には、お父さんがまだ家にいた頃の家族写真が飾られたままになっていた。

そういえば父と母が仲良くしてたのは私が小さな頃だけだった。

しばらくすると母がお茶とお菓子を用意してくれた。


「あっ! 清水さん、お菓子買って来たのでぜひ、食べてください!」

 

朝一さんが母にお菓子の入った紙袋を差し出す

 

「朝一さんありがとう。そういえば、小日向市も最近雪降ったらしいじゃない……大変だったでしょう? このお菓子は白華と買いに行ってくれたの?」


「そうですね。しみ……じゃないな、白華さんが大体選んでくれました」


下の名前呼び……! なんだか嬉しい。私の心は一人でに舞い上がる。


「そうなの……それで白華、大事な話って?」


「私と朝一さんのこれからについての話です。私は、朝一さんとこの先も歩んでいきたい……」


ダンッ

母が突然机を勢いよく叩いた。

お茶の入った湯呑みが床にひっくり返るがそれも母は気に留めない。


「白華……だって、朝一さんとは別れるって言ったじゃない! どうして朝一さんにそこまで執着するの!!」


「私は、朝一さんに一番そばにいて欲しいって思ったの」


「それが……それが、一体なんの証明になるのよ!!」


母は声を張り上げる。

  

「本当はお母さんも一番辛い時に一緒にいてくれる人が欲しかったんじゃない? 私はその一人に朝一さんを選んだだけなの」

 

ハッと何かに気づいたかのように母は在りし日の家族の写った写真立ての方を見る。

写真立ての中の私や母や父は笑ったままだ。でもあの日々は二度と帰ってこない。それは母も私も十分にわかっている。


母の目からはボロボロと大粒の涙が溢れ出した。そしてヘナっと力が抜けるように母は床に跪いた。


「そうね……二人を引き裂いて満足いくかって言われたら、行かないわ。だって……誰も幸せになってないもの……私ったら、本当に自分のことしか考えてない。今までごめんね……白華」


すると朝一さんが泣き崩れた母にハンカチを差し出した。

 

「清水さん、私……恥ずかしいですけど、白華さんに、たくさん助けてもらったんですよ?」


「え……?」


「白華さんの温かさが色んな意味で私の人生を変えてくれたんです。だから、私も白華さんと一緒に歩んで行きたいって思えたんです」


「…………白華、絶対に朝一さんを裏切らない?」


涙を拭いた母は私の目を見て問いかける。

 

「裏切らない。絶対に」


私はまっすぐ母の目を見た。見つめ直した。

 

「そう……朝一さん、まだまだ未熟な私の娘ですが、どうか、これからも大事にしてやってください」


母は深く頭を下げる。

 

「はっ! はい!!!」


朝一さんも頭を下げる目には少し涙が見えた。その時感極まって私も少し泣いてしまった。もちろん嬉し涙。

 

  ◇  ◇  ◇

 

「それじゃあ……お母さん、またくるね」

 

「白華も、朝一さんも元気でね」


「はい!」「うん」

 

母に手を振って私は玄関のドアを閉める。

ドアを閉じた瞬間どっと疲れが噴き出てきた。玄関から後ろに振り向いた瞬間軽く眩暈がしてそのまま地面に倒れそうになる。


(やば……い)


「ちょ、清水さん!大丈夫?」


もふん

倒れ込んだ先で朝一さんの柔らかい胸が私の体重を受け止めてくれた。

朝一さんの匂い、私よりだいぶ低めの体温がとても落ち着く。

そっと深呼吸……うん、朝一さん成分チャージが捗る。

 

「大丈夫です……それよりも、もうちょっとこのままでもいいですか……?」

 

「いいけど……ここで?家の敷地内だけど……」


「いいんです。だってもうすぐ家族になるんですから…………」


「かっ……家族……! ……っていうか清水さん寝てる? ちょっと!? 清水さーん!?」


年末の気持ちいいほど快晴の昼下がり、こうして私たちは正式に恋人になることができたのでした。

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