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つないだ手の温度が均されるまで  作者: みけめがね


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第十六話 決意

「お母さん、もう行くわね。突然来てごめんね」


母が慌ただしそうに鞄を持って帰る準備をする。

開いたスマホの画面の時計はちょうど二時を示していた。


「うん、大丈夫だよ、気にしないで」


私は外まで行って母を見送る。

母は車のエンジンをかける。運転席の窓が沈んでいくように開いて、窓から伸ばされた母の手は私の頬を優しく撫でる。


「朝一さんとも、ちゃんと折り合いつけるのよ」


「…………はい」


私が喉の奥から絞り出したその言葉は二倍の重力で落ちていくようなそんな感じがした。

車のエアコンの風が母の髪の毛をふわふわと靡かせた。

よく見ると母の髪の毛の生え際は綺麗な黒髪ではなく若干白髪になっていた。

母はとても美しい女性だが、そんな母にも平等に老いは迫っていると、なぜか少し悲しくなった。


「白華、寒いから体調に気をつけるのよ」


「……はい」


生気のない返事がダラダラと口から零れ落ちていく。


「また来るわね」


そう言って運転席の窓が閉まった。

 

「うん……またね」


そう小さく呟いて軽く手を振った。母の乗った車は走り去って行った。

私は母の車が完全に見えなくなる前にフラフラと自分の部屋に戻った。

 

「はぁ……」


ため息が部屋の中に空気にどんよりとした澱みを作っている。

 

(お母さんのいう幸せって一体なんだろう)


頭の中で悶々と考えている。

母の描く幸せってのは、優しい旦那さんがいて、愛せる子どもがいるそんな普通の家庭を築くことなのかな。

確かに朝一さんとの生活は、それとは全く違う別の景色だけど。

なら、朝一さんは私のことをどう思っているのだろう。

 

そんなことを延々と考えていると、突然ドアホンが鳴った。

通販も頼んでないし、きっと朝一さんだ。

早足で玄関まで向かいドアを開ける。


「お外は寒いよぉ……」


朝一さんは寒そうに両手を擦り合わせながら玄関に入ってきた。

私は朝一さんの胸に倒れ込むように抱きついた。閉じた瞼の中に涙が溜まっていく。

ガチャンとドアが閉まる。

かろうじて開いた視線の先には朝一さんの心配そうな顔があった。

 

「あっ……朝一さんは……いま、私のこと、どう思ってますか?」

 

朝一さんの顔を見て思わず声が詰まる。

 

「清水さん……どうしたの? 清水さんらしくないよ?」

 

「らしくとかじゃなくて、どう思っているか聞いてるんです!」

 

縋るように朝一さんのダウンジャケットの袖を強く掴んだ。

私の叫び声に近い泣き声が部屋の中に響いて、飽和していく。


「言葉にするのが難しいけど……清水さんは……本当に私の救世主みたいな人だよ」


朝一さんは私の髪の毛を優しく撫でる。それは救世主に向けられたものとは全く違う、愛する我が子にする愛撫のようだった。


「…………私が?」

 

「それこそ私は清水さんに命を救ってもらえたわけだし、その上一緒に寄り添ってくれたり、心の拠り所にしてもらえたのかなって思うと、少しだけ本心から私を愛してくれたのかなって、少し生きる自信を貰えるの」


私の涙は次々に頬を伝って畳へ落ちて、色の濃くなった面積をじわじわと増やしていく。

私は涙を拭って。まっすぐ朝一さんを見据えた。

 

「…………朝一さん、少し話があります」

 

「うん、言ってごらん」


朝一さんの優しい声と表情に、まだ閉まりきってない涙腺がじわっと熱を帯びる。

これ以上泣いてはだめだ。深く息を吸って呼吸を整える。

 

「私、来月の十日にこのアパートから引っ越そうと思います」


  ◇ ◇ ◇


そんなことがあったが、特に何事もなく夜を迎えた。

布団に潜る。がなかなか眠れない。長く重たい沈黙と暗闇が二人を包む。


「清水さんっ」


その沈黙を切り裂くように朝一さんは口を開いた。


「クリスマスの日、一緒に駅前のイルミネーション見にいかない?」


布団から顔を出して朝一さんは突然突拍子もない提案をする。

 

「ほら、これでもし最後なら、お互いのことも、忘れられないくらい素敵な思い出にしたいじゃん?」

 

なんだかいつもより不自然なくらい明るい声色で朝一さんは言う。

こんな重い話をした日に今度イルミネーションを見ようなんて、

なんとも朝一さんらしい。

 

でも、やっぱりこの話をするのは今は、やめた方が良かったかもしれない。さっきよりも部屋の温度がぐんと大幅に下がって、肌寒く感じる。

朝一さんも確実に心にダメージを負っているんだ。私のことも大事に思ってくれてるからこそ、この部屋の温度は確実に下がっていく。

 

「……そうですね。行きましょうか、イルミネーション」

 

「やった〜! 正真正銘、最初で最後のデートだね」


その言葉と声に私の布団の中の全身も熱くなっていった。

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