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つないだ手の温度が均されるまで  作者: みけめがね


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第十五話 母

部屋の大掃除から二日が経過した。

私は午前中にシフトを入れていたスーパーのバイトを終えて住処であるボロアパートへと足を進めていた。


(今日は災難だったな、理不尽なクレームに対応するマニュアルが欲しい……)

 

トボトボ歩いているとボロアパートの前に、見覚えのある白のワゴン車が止まっていた。

 

(あ……お母さんだ)


緊張のせいか額に変な汗が浮き出てくる。

一回落ち着くために深呼吸をしてから、運転席の窓をコンコンとノックした。

運転席にいたお母さんはすぐ反応して、ドアを開けて車外に出てきた。

 

「お、お母さん……いらっしゃい」

 

秋以来の再会、緊張でお母さんとまともに目を合わせられない。


白華(はっか)、二ヶ月ぶりね、最近インフルエンザとか流行ってるけど大丈夫?」


久しぶりに朝一さんにも明かしてない下の名前で呼ばれて、少し心がくすぐったくなる。


「うん、大丈夫だよ」


本当は能力の使いすぎで一回倒れたけど、色々心配されそうだし、朝一さんのことは絶対悟られてはいけないし、内緒にしておこう。


「白華! 荷物運ぶから、手伝ってくれる?」


車の後部座席には大きめのダンボール箱が三つ積まれていた。


「全然いいけど……これってまさか全部食材?」


「えっと……二つは食材が入ってて、あと一つはお母さんからのお下がりだけど洋服とかが入ってるわ。多分サイズもちょうどいいんじゃないかしら」


ダンボールの中を見ると服が丁寧に畳まれて大きな一つの圧縮袋に収納されていた。いつのお下がりなんだろう、古さは全く感じない。

 

「ありがとう……でも、私が着ても大丈夫かな?」

 

「大丈夫よ。今の白華、若い頃の私とそっくりだもの」


母はそう言ってきゅっと口角を引き上げた。

でも私にとって母のその言葉は、嬉しいというより、どこか漠然とした不安を感じさせるようなそんな一言だった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「よいしょっと」


私と母はダンボールを部屋まで運んだ。


「白華、手伝ってくれてありがとう。あと、ちょっと大事な話があるの部屋に上がってもいいかしら?」


不自然なほどの笑顔で訊ねてくる母は申し訳ないが、少し不気味に見えた。


「……いいよ」


突然の大事な話の事前宣告。

私はとても嫌な予感がしつつも、母を自分の部屋に上げた。


「前来た時より、随分綺麗になったわね……」


居間に入るなり、母は突然ボソッと呟いた。

 

「なんのこと……?」

 

「この部屋よ、まるで別人の部屋みたい」


そう言いながら母は部屋を隅から隅まで見渡している。

 

「結構頑張ったんだよ」


私がふふん、と誇らしげに胸を張るジェスチャーをする。

ふふっと母は一瞬優しく微笑む。


「お母さん、お茶入れようか?」


母はコクリと頷いた。

私はお湯を沸かし、温かいお茶を淹れた。


「どうぞ」


「ありがとう」

 

母はお茶を一口飲む、沈黙が少し流れる。


「白華、あなた恋してるでしょ?」


沈黙を破って母の口から唐突に出た言葉は、幼い頃ならイマイチピンと来なかった

恋愛に関することだった。


「……そんな、お母さん、私恋なんて……」


私がそう自分でもいうのが苦しい言い訳を喚こうとしたその時、

 

「お母さん知ってるのよ。ここの大家さんから聞いたんだけど、最近お隣の朝一さん? だったかしら、その人の部屋によく通ってるって」


母の顔から先ほどの一瞬の微笑みは姿を消した。

 

「だから何……? そんなにお隣さんと仲良くしちゃいけないの?」


頭に徐々に血が昇っていく感覚がした。

 

「……お母さんは、白華にちゃんと幸せになって欲しいの!」


母が珍しく大きな声で怒鳴った。私の見たことない母の表情がそこにはあった。

悲しいような、怒っているような、なんともいえない複雑な表情。


「それってどういうこと……?」


「もし、白華がどれだけその女性のことが好きでも、私も世間も認めないわってこと」


母は冷静にもう一度お茶を口に含んで、窓の外に目をやった。

恐れていた最悪のアンサーが母の口から、ついに出てきてしまった。

私の頭の中は一気に真っ白になった。

窓の外では葉っぱの落ち切った裸の桜の木の枝が冷たい風に容赦なく吹かれていた。

そんな頭の中でかろうじて浮かんだ、

 

(私は、どうしたらいいんだろう)

 

そんな私の気持ちも容赦なく灰色の不安定な寒空が覆い尽くした。

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