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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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第57話 貴族の決断

57話です。

会議室の空気は、冷えていた。


重い扉が閉まる音が、石壁に響く。

長い楕円の机。並ぶ椅子。壁には古い戦争の地図が掛かっている。


王都の中枢会議室。


ここで決まったことは、国になる。


だが――今日は違う。


今日は、決める者がいない。


文官たちが視線を落とす。

貴族たちが咳払いをする。

将軍は腕を組み、黙っている。


机の中央に置かれた書類には、太い文字で書かれている。


新鉱山都市

建設方針


資源はある。

労働者もいる。

輸送路も整いつつある。


問題は、ただ一つ。


どう作るか。


誰が決めるか。


沈黙が続く。


その沈黙を、ゆっくりと椅子を引く音が切った。


アルヴェルだ。


貴族ライバル。


整った軍服。

冷たい目。

だが今日は――ほんのわずかに、迷いが混じっている。


全員の視線が集まる。


「……提案がある」


低い声。


誰も止めない。


止められない。



アルヴェルは書類を手に取る。


「……鉱山都市は三案ある」


紙を机に叩く。


「第一案」


地図を指す。


「……貴族管理都市」


ざわめき。


「……安全だ」


続ける。


「……秩序は維持される。利益も安定する」


貴族たちが頷く。


だがアルヴェルは、首を振る。


「……だが、遅い」


部屋が静まる。


「……次」


第二案。


「……商人自治都市」


文官たちが顔を上げる。


「……利益は最大」


「……だが」


アルヴェルの声が低くなる。


「……国家が弱くなる」


誰も反論しない。


それも真実だ。



アルヴェルは、最後の紙を持ち上げる。


第三案。


しばらく、言葉が出ない。


部屋の空気が張り詰める。


やがて、口を開く。


「……教育都市」


沈黙。


将軍が眉を上げる。


文官が顔を見合わせる。


貴族が顔をしかめる。



「……労働者を、労働者のままにしない」


アルヴェルの声が響く。


「……鉱夫に教育を与える」


「……技術を教える」


「……管理者を内部から作る」


誰かが笑う。


「……理想論だ」


アルヴェルの目が、その男を刺す。


「……違う」


低い声。


「……効率だ」


机を叩く。


「……奴隷は反乱する」


「……兵は逃げる」


「……だが、理解した労働者は都市を作る」


会議室が静まり返る。


それは――あの男の思想。


あの教師の思想。



将軍が言う。


「……つまり」


「……教育を軍需に使うと?」


アルヴェルは頷く。


「……そうだ」


「……技術都市にする」


「……兵器も、機械も、採掘も」


「……全部ここで作る」



文官が震える声で言う。


「……そんな都市、前例が」


アルヴェルは即答する。


「……作る」



沈黙。


そして、視線が一斉に向く。


部屋の後ろ。


壁際。


腕を組んで立つ男。


俺だ。



アルヴェルが言う。


「……教師」


その呼び方に、部屋がざわめく。


「……お前は口を出さないと言った」


「……守れ」


視線がぶつかる。


長い沈黙。


俺は――笑う。


「……守る」


その一言。



将軍が、低く笑う。


「……面白い」


机を叩く。


「……俺は賛成だ」


貴族が怒鳴る。


「……無茶だ!」


「……労働者に力を与えるなど」


アルヴェルが、ゆっくり振り向く。


その目は、冷たい。


「……怖いか?」


貴族が言葉を詰まらせる。


アルヴェルは続ける。


「……なら、黙っていろ」



その瞬間。


空気が変わる。


初めてだ。


アルヴェルが、自分の意思で権力を使った。



文官が言う。


「……責任は」


アルヴェルは即答する。


「……私だ」


机を叩く。


「……都市は私が作る」


「……失敗したら、私が潰す」


沈黙。


そして――


将軍が立つ。


「……なら軍も出す」


文官が息を吐く。


「……制度は私が作る」


一人、また一人。


手が上がる。



会議は、動き始めた。


誰も命令していない。


だが――


決断が生まれた。



会議が終わる。


廊下。


アルヴェルが立っている。


背中越しに言う。


「……どうだ」


俺は答える。


「……いい」


アルヴェルが振り向く。


「……だが」


続ける。


「……今のは、まだ教師の影だ」


アルヴェルの目が細くなる。


「……なら」


低い声。


「……次は、俺の都市を見ろ」



窓の外。


王都の向こう。


遠くの鉱山地帯。


夕日が赤く染めている。



そこで、次の国が生まれる。


誤字脱字はお許しください。

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