第53話 決める者の孤独
53話です。
孤独は、
夜に来なかった。
昼に、
来た。
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王宮の廊下。
人は、
増えている。
書類も、
増えている。
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だが――
声が減った。
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「……ご判断を」
文官が
書類を差し出す。
目を
合わせない。
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「……可」
そう言う。
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文官は、
深く頭を下げる。
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「……助かります」
その言葉は、
いつも通りだ。
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だが――
相談ではない。
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別の書類。
「……承認を」
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「……可」
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三枚目。
「……却下」
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文官は、
理由を聞かない。
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聞けば、
考える責任が
生まれる。
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考える責任は、
こちらに
集約されている。
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昼食。
一人だ。
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以前は、
同席を
勧められた。
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今は、
ない。
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「……お忙しい
でしょうから」
その配慮が、
距離になる。
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午後。
将軍が
来る。
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「……国境に
小競り合い」
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「……どうする」
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「……抑えろ」
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「……どこまで」
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「……越えない
範囲で」
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将軍は、
一瞬
黙る。
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「……線は」
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(……まただ)
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「……私が
引く」
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将軍は
頷く。
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それで、
終わりだ。
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将軍は、
強い。
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だが――
決めない。
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それが、
この国の
最適解になった。
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私邸。
机の上。
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提案書が
減っている。
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なぜなら――
考える意味が
なくなった
からだ。
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思い出す。
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合議制の
混乱。
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沈黙の
反乱。
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選ばない
社会。
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すべて、
自分が
壊した。
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そして、
すべて
引き受けた。
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だから――
誰も、
奪わない。
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奪えない。
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夕方。
学院から
報告。
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「……質問件数、
ゼロ」
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その数字は、
もう
怖くない。
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慣れた。
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だが――
別の欄。
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教師の
判断相談件数
増加
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相談。
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判断ではない。
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「……こういう場合、
どうすれば」
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教師たちは、
子供に
選ばせない。
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自分に
聞く。
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(……伝染したな)
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夜。
街を歩く。
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人々は、
整っている。
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混乱は、
ない。
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だが――
誰も、
自分の
歩幅で
歩いていない。
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市場の端。
商人が
客に言う。
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「……上で
決まってる」
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その言葉が、
合言葉になった。
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安心の
合言葉。
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それは、
毒だ。
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私邸に
戻る。
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暖炉の火。
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温かい。
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だが――
自分のため
だけだ。
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机に
向かう。
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今日の
決裁数。
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百二十七。
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判断の
質ではない。
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量だ。
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量が、
孤独を
生む。
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一つ一つ、
誰かの
人生だ。
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だが――
顔が
見えない。
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見えなく
なった。
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夜更け。
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窓を
開ける。
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風が
冷たい。
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久しぶりだ。
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風は、
乱す。
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だが――
考えさせる。
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その瞬間、
理解する。
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孤独とは、
人がいない
ことではない。
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選択を
共有できない
ことだ。
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誰かに
聞きたい。
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「……どう思う」
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だが――
聞く相手が
いない。
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育てなかった。
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消した。
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自分で。
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翌朝。
新しい
書類。
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緊急判断
要請
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山だ。
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(……終わらない)
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だが――
終わりは
見えている。
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自分が
倒れれば。
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消えれば。
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この国は、
再び
止まる。
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誰も、
代わりに
決めない。
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それを、
知っているのは
自分だけだ。
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だから――
今日も
決める。
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一人で。
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それが、
最も
残酷な
責任だった。
誤字脱字はお許しください。




