第51話 再び一人で決める
51話です。
決める前に、
確認はしなかった。
確認すれば、
止められる。
止められれば、
続けられる。
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夜明け前。
王都は、
まだ眠っている。
街灯は、
規則正しく
並び、
門は、
予定通り
閉じている。
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私邸の机。
白紙が、
一枚。
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そこに書く言葉は、
もう決まっていた。
だが――
書けば戻れない。
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(……分かっている)
一人で決めるとは、
責任を
背負うことではない。
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全ての言い訳を、
消すことだ。
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扉が、
叩かれる。
「……閣下」
将軍だ。
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「……隣国の
新交易圏」
「……完全に
稼働しました」
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「……我が国は」
「……外されています」
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「……軍を
動かしますか」
その問いは、
珍しく
直接的だった。
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「……いいえ」
即答した。
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将軍は、
一瞬だけ
驚く。
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「……では」
「……私が
動きます」
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将軍は、
何も言わない。
それが、
了承だ。
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机に戻る。
白紙に、
文字を書く。
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臨時布告
国家緊急権に基づき、
本日より
外交・交易に関する
最終判断権を
一時的に
私が引き受ける
本決定に伴う
結果と責任は、
全て
私個人に帰属する
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署名。
家名ではない。
個人名。
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それだけで、
この国の
仕組みが
音を立てて
歪む。
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布告は、
即時。
理由説明は、
ない。
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王宮が
ざわつく。
文官が
走る。
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「……合議は」
「……ありません」
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「……前例は」
「……作りません」
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その会話が、
繰り返される。
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港。
布告が
届く。
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管理者が
読む。
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「……判断は
閣下が」
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彼は、
初めて
安堵する。
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「……では
準備を」
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船が
動き始める。
今度は、
迷いなく。
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学院。
教師たちが
布告を見る。
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「……選ばなくて
いい」
その一言で、
教室の
空気が
変わる。
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子供たちは、
ほっとする。
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だが――
例の子だけが、
違う。
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「……なぜ
今は
選ばなくて
いいんですか」
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教師は、
答えられない。
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王宮。
使者を
呼ぶ。
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「……隣国へ」
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「……条件は」
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「……全て
こちらで
決める」
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大胆だ。
無謀だ。
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だが――
速い。
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隣国は
驚く。
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「……あの国が
決めた?」
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「……一人で?」
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「……なら、
交渉できる」
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交渉は、
成立する。
条件は、
悪い。
だが――
席には
座れた。
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夜。
王都。
灯りが、
増える。
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市場は
活気を
取り戻す。
港は
動く。
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数字は、
回復する。
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王宮の廊下。
文官が
小声で言う。
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「……助かりました」
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「……ですが」
一拍。
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「……前例に
なります」
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「……なりません」
そう答えた。
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「……私が
消えれば
終わりです」
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沈黙。
それが、
理解された
合図だ。
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私邸。
夜。
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机の上に、
二つの紙。
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一つは、
沈黙を
教えた制度。
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もう一つは、
今日の
布告。
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どちらも、
正しい。
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ただ――
同時に
存在できない。
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窓の外。
王都は
動いている。
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だが――
それは
自分が
一人で
選び続ける
限りだ。
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理解している。
これは、
解決ではない。
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時間稼ぎだ。
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そして――
この選択は、
次の世代に
必ず
禍根を
残す。
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自分が
再び
消える時、
この国は
また
問われる。
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誰が
選ぶのか。
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夜明け。
白紙は、
もうない。
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残っているのは、
署名された
現実だけだ。
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そして――
その現実は、
今日も
静かに
動いている。
誤字脱字はお許しください。




