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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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50/57

第50話 動く世界

50話です。

知らせは、

遅れて届いた。


それ自体が、

兆候だった。



国境の町。


見張り台の兵が、

旗を見た。


色が、

違う。



「……隣国の

 商隊です」


部下が

報告する。



「……予定は」


上官が

聞く。



「……ありません」



上官は、

一瞬

考える。


考えてから――

何もしない。



「……前例が

 ない」


その一言で、

話は終わる。



商隊は、

国境で

止まる。



彼らは、

怒らない。



三日待つ。



四日目。


使者が

来る。



「……通行許可を

 願いたい」


礼儀正しい。



役所。


書類が

回る。



「……前例は」



「……ありません」



「……では」



沈黙。



使者は、

追い返されない。


だが――

通されない。



商隊は、

引き返す。



隣国では、

別の判断が

下される。



「……この国は

 動かない」



「……なら、

 迂回しよう」



交易路が、

変わる。



数字は、

すぐには

動かない。



だが――

流れは、

 確実に

 逸れる。



港。


別の国の

船が

来ない。



「……天候か」


管理者は

言う。



誰も、

調べない。



学院。


世界地図が

更新されない。



「……先生、

 ここ」


子供が

指す。



「……変わって

 いませんか」



教師は、

教本を見る。



「……去年と

 同じです」



「……なら

 いい」



その会話で、

終わる。



王宮。


定例会議。



「……税収、

 微減」



「……原因は」



「……不明」



誰も、

深掘りしない。



「……想定内だ」


その一言で、

会議は

次へ進む。



だが――

隣国では、

会議が

違った。



「……あの国は

 止まった」



「……侵攻の

 話ではない」



「……主導権だ」



彼らは、

市場を

押さえる。



交易を

再編する。



条約を

結び直す。



戦わない。



先に決める。



こちらの国は、

気づかない。



なぜなら――

決める会議が

 存在しない。



私邸。


夜。


報告書を

めくる。



交易量、

前年比

マイナス。



だが、

警告色は

付いていない。



「……許容範囲」


その注記。



(……範囲は

 誰が

 決めた)



ふと、

思い出す。



選ばない社会。



責任を

希釈した社会。



前例を

最上位に

置いた社会。



動く世界に、

 最も

 弱い社会。



翌朝。


隣国の

布告が

掲示される。



新交易圏

設立


参加国募集



参加国の

名簿に、

自国は

ない。



王宮。


初めて

慌ただしさが

走る。



「……なぜ

 知らされなかった」



「……使者は

 来ました」



「……では」



「……返事を

 していません」



沈黙。



「……今から

 参加を」


誰かが

言う。



「……条件は」



「……不利です」



将軍が

言う。



「……戦うか」



文官が

首を振る。



「……戦争は

 決断が

 必要です」



沈黙。



誰も、

決めない。



決められない。



その時。



自分は、

理解した。



これは、

制度の失敗ではない。



成功の

 帰結だ。



沈黙を

教え。



選択を

分散し。



責任を

薄めた。



その結果――

世界が

 先に

 選んだ。



夜。


国境の灯が

遠い。



あちらは、

明るい。



こちらは、

整っている。



だが――

動いていない。



理解した。



次に必要なのは、

さらに危険な

選択だ。



誰かが、

 再び

 一人で

 決めること。



だが――

それは、

これまで

守ってきた

全てを

裏切る。



そして、

その役は――

もう

決まっている。


誤字脱字はお許しください。

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