第49話 責任の希釈
49話です。
改革案は、
善意から始まった。
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王宮・小会議室。
文官が、
新しい案を
読み上げる。
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「……判断は
複数名で
行う」
「……責任は
共有する」
「……単独判断を
避け、
合議制を
原則とする」
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将軍が、
腕を組む。
「……つまり」
「……誰も
一人では
決めない」
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「……はい」
文官は、
胸を張る。
「……これで、
判断者が
萎縮する
問題は
解消されます」
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誰も、
反対しない。
反対する理由が
ない。
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布告は、
すぐに
出された。
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重要判断は、
複数責任者による
合議を
原則とする
決定過程は
記録し、
責任は
集団で
負う
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人々は、
安心した。
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「……一人じゃ
ない」
その一言が、
全てだった。
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港。
新しい会議室が
設けられる。
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管理者、
商人代表、
兵站担当。
三人が
集まる。
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「……出航は
どうする」
誰かが
聞く。
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「……風は
微妙だ」
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「……規定では
判断保留」
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「……では」
沈黙。
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「……次の
潮待ちで」
誰かが
言う。
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「……それで」
全員が
頷く。
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船は、
出ない。
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市場。
露店の
配置変更。
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「……どうする」
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「……前例は」
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「……去年は」
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「……では
去年通りで」
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人は、
動く。
だが――
去年通りに。
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学院。
教師会議。
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「……授業内容の
変更案」
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「……保護者の
反応は」
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「……未知です」
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「……では
現状維持で」
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子供たちは、
今日も
同じことを
学ぶ。
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王宮。
報告が
集まる。
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「……判断件数、
回復」
「……トラブル、
減少」
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文官が
言う。
「……安定しました」
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だが――
数字の
隅に、
小さな
変化がある。
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新規施策数
前年比
マイナス82%
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「……誰も
新しいことを
しません」
報告者が
言う。
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「……問題か」
王族が
問う。
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「……いえ」
一拍。
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「……安全です」
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沈黙。
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夜。
私邸。
机の上に、
二つの報告。
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一つは、
事故件数
減少。
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もう一つは、
挑戦件数
消失。
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(……静かだ)
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かつての
沈黙とは
違う。
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これは、
整った沈黙だ。
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誰も
苦しまない。
誰も
壊れない。
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だが――
何も生まれない。
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街を歩く。
人々は
穏やかだ。
争わない。
怒鳴らない。
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ただ――
皆、
同じ顔をしている。
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市場で、
子供が
親に聞く。
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「……これ、
新しい?」
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親は、
少し考える。
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「……前から
あるやつだ」
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「……じゃあ
いい」
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それだけだ。
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学院。
例の子。
もう、
目立たない。
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手を挙げない。
止まらない。
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完全に
溶け込んだ。
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(……勝ったな)
制度が。
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だが――
胸の奥に
違和感が
残る。
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支配は、
完成した。
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命令は、
必要なくなった。
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問いは、
消え。
選択は、
分散され。
責任は、
溶けた。
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これは、
理想的な
統治だ。
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だが――
一つだけ、
残っている。
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この国は、
次の危機に
耐えられない。
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なぜなら――
危機とは、
前例が
ないからだ。
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夜。
王都の空。
星は、
動かない。
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理解した。
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次に来るのは、
革命ではない。
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外からの
圧力だ。
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この国が
止まっている間に、
世界は
動いている。
誤字脱字はお許しください。




