第48話 責任を選ぶ者
48話です。
最初に壊れたのは、
制度ではなかった。
人だった。
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港の再開は、
成功だった。
荷は動き、
船は出た。
商人は笑い、
帳簿は埋まる。
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だが――
三日後。
一隻、
戻らなかった。
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「……遭難です」
港湾管理者が、
王宮で
頭を下げる。
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「……判断は」
王族が
問う。
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「……私です」
即答だった。
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「……布告に従い、
風向きを
見て
判断しました」
声は、
震えていない。
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「……問責は
しない」
王族が
言う。
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その言葉は、
守られた。
公式には。
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だが――
翌日。
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港湾管理者の
名前が、
噂に出る。
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「……あの人の
判断だ」
「……無理を
したらしい」
「……欲を
出したとか」
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誰も、
責任を
押し付けたとは
言わない。
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ただ――
距離を取る。
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港湾管理者は、
職を辞した。
理由は、
「自発的」。
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彼は、
文句を
言わなかった。
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「……選んだ
のは
私ですから」
その一言で
終わった。
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別の場所。
学院。
教師が、
子供たちに
選ばせた。
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「……今日は
誰が
進行役を
やりますか」
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一人の子が、
手を挙げた。
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授業は、
少し
乱れた。
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進行役は、
上手く
できなかった。
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「……時間が
足りません」
誰かが
言う。
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「……まとめが
下手だ」
別の子が
言う。
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進行役の子は、
黙る。
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教師は、
止めない。
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授業後。
その子は、
泣かなかった。
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だが――
次の日。
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手を挙げなかった。
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市場。
露店の
再開を
決めた商人。
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売れ残りが
出た。
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「……読み違えた」
誰も、
責めない。
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だが――
次の日。
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彼は、
店を
出さなかった。
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「……様子見だ」
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選んだ者が、
減っていく。
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王宮。
報告が
重なる。
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「……再稼働率、
安定せず」
「……判断者の
離脱が
目立ちます」
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将軍が
言う。
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「……当然だ」
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「……選ぶとは、
矢面に
立つことだ」
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「……守られないと
分かれば、
誰も
立たない」
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王族が
こちらを見る。
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「……問責しないと
言ったな」
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「……公式には」
そう答えた。
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「……だが」
一拍。
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「……社会は
別です」
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沈黙。
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選択は、
自由だ。
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だが――
責任は、
共有されない。
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それが、
この国の
現実だ。
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私邸。
机の上に、
報告書。
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判断者数
前週比
マイナス17%
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(……減っている)
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これは、
反動だ。
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沈黙を
教えた世界で、
突然
選べと言った。
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人々は、
選んだ。
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そして、
一度
痛い目を見た。
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次に来るのは、
決まっている。
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「……選ばない
方が
得だ」
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その合理性が、
再び
広がる。
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違う形で。
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夜。
王都。
灯りは、
ついている。
だが――
以前より
暗い。
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人々は、
動く。
だが――
前に出ない。
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理解した。
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選択を
解禁しただけでは
足りない。
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責任を
分配する
仕組みが
ない限り。
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次に必要なのは、
もっと危険な
改革だ。
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「選んだ結果を、
一人で
背負わせない」
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だが――
それは、
権力の
分解を
意味する。
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次に壊れるのは、
制度ではない。
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支配そのものだ。
誤字脱字はお許しください。




