第46話 沈黙の反乱
46話です。
最初に、その言葉を使ったのは
将軍だった。
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王宮・軍務会議。
机の上に、
報告書が
積み上がっている。
学院。
港。
役所。
門。
どれも、
止まっている。
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「……これは」
将軍が、
低い声で言う。
「反乱だ」
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一瞬、
空気が張る。
文官が、
即座に否定する。
「……武装は
確認されていません」
「……集会も
ありません」
「……スローガンも、
要求もない」
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「……それでもだ」
将軍は、
地図を指で叩く。
「……命令が
届かない」
「……それは、
軍にとって
反乱だ」
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沈黙。
反論は、
出ない。
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「……誰が
主導している」
王族が
問う。
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「……不明です」
文官が
答える。
「……個人ですら
特定できません」
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「……思想か」
「……それも
不明です」
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会議室に、
奇妙な静けさが
落ちる。
敵が、
輪郭を持たない。
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「……対処法は」
王族が
言う。
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将軍は、
即答する。
「……鎮圧です」
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「……どうやって」
「……命令違反者を
拘束します」
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文官が、
首を振る。
「……違反が
ありません」
「……規則通りに
“判断を
保留”しているだけです」
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将軍は、
舌打ちする。
「……なら、
規則を
変えろ」
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「……規則を
変えるには」
文官が
続ける。
「……現場の
判断が
必要です」
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沈黙。
会議室の
全員が、
同じことに
気づく。
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規則を変える判断を、
誰も
できない。
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「……原因は」
王族が
こちらを見る。
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視線が、
集中する。
逃げ場は、
ない。
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「……教育です」
そう答えた。
声は、
静かだった。
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「……沈黙を
教えました」
「……配慮を
教えました」
「……判断を
委ねる先を
固定しました」
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「……その結果」
一拍。
「……誰も、
選ばなく
なりました」
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将軍が、
眉を寄せる。
「……それが
反乱だと?」
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「……はい」
即答した。
「……命令を
待ち続けることで、
命令を
無力化する」
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「……誰も
逆らっていない」
「……だが、
誰も
従っても
いない」
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その言葉が、
会議室に
落ちる。
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「……止められるか」
王族が
聞く。
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「……武力では
無理です」
「……説得も
無理です」
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「……では」
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「……禁忌があります」
そう言った。
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「……禁忌?」
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「……選択を
個人に
返すことです」
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ざわめき。
文官が、
声を荒げる。
「……それは
混乱を
招きます」
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「……はい」
否定しない。
「……必ず」
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将軍が、
低く笑う。
「……混乱の方が
まだ
戦えるな」
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王族は、
長く
黙る。
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「……やれ」
短い命令。
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「……だが」
続ける。
「……失敗すれば」
その先は、
言わない。
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私邸に
戻る。
机の上に、
新しい草案。
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緊急布告案
各現場責任者は
状況に応じ
自ら判断せよ
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たった
それだけだ。
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(……これで、
全てが
壊れる)
今まで
積み上げた
沈黙も。
秩序も。
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だが――
壊さなければ、
動かない。
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窓の外。
王都は、
まだ
静かだ。
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だが、
その静けさの中で、
人々は
待っている。
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「決めていい」
と言われる瞬間を。
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夜明け前。
布告は、
まだ出ていない。
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その間にも、
港は止まり、
門は閉じ、
学院は進まない。
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理解している。
次の一言で、
この国は
二つに割れる。
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沈黙の反乱は、
もう始まっている。
あとは――
誰が
最初に
動くか。
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次は、
この物語で
最も危険な命令。
チョークシリーズは他の先生の物語もありますのでよろしければご覧ください。




