第45話 止まる社会
42話です。
最初に止まったのは、
声ではなかった。
時間だった。
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王都の朝は、
正確だ。
鐘が鳴り、
門が開き、
人が動く。
それが、
この国の誇りだった。
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その日も、
鐘は鳴った。
だが――
一部の門が、
開かなかった。
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「……どういうことだ」
門番は、
困惑していた。
「……命令は?」
「……いつもの通りだ」
「……では、
なぜ動かない」
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門番は、
答えない。
答えられない。
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「……命令書は?」
「……あります」
「……確認したか」
「……はい」
「……では、
なぜ」
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門番は、
静かに言った。
「……優先順位が
書いてありません」
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沈黙。
それだけで、
会話が
終わる。
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別の場所。
市場。
露店が、
半分しか
開いていない。
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「……今日は、
どうした」
商人が、
隣に聞く。
「……指示待ちだ」
「……誰の」
「……分からない」
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誰も、
勝手に
始めない。
始める理由が
ない。
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学院。
授業は、
行われている。
だが――
進まない。
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「……では、
次の作業を」
教師が
言う。
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子供たちは、
動かない。
一人ではない。
三人。
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「……組みなさい」
教師が
言う。
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子供の一人が、
首を傾げる。
「……命令ですか」
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教師は、
息を吸う。
「……はい」
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「……理由は」
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沈黙。
理由を
説明すると、
反論が
始まる。
説明しなければ、
納得が
生まれない。
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「……今は
そういう
時間では」
教師は
同じ答えを
使う。
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子供たちは、
頷く。
そして――
動かない。
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廊下で、
学院長が
立ち尽くす。
(……増えた)
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役所。
書類が、
山積みになっている。
処理されない。
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「……なぜ、
止まっている」
上官が
問う。
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部下は、
即答する。
「……規程に
例外処理が
ありません」
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「……判断しろ」
「……判断権限が
明記されていません」
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それ以上、
言葉は
続かない。
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港。
荷が、
下ろされない。
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「……いつまで
待つ」
船頭が
怒鳴る。
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港湾管理者は、
静かに言う。
「……風向きが
規定外です」
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「……問題ない
程度だろう」
「……その判断は
誰が」
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船は、
港に
留まる。
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報告は、
点で届く。
学院。
門。
役所。
港。
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どれも、
小さい。
どれも、
致命的ではない。
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だが――
線でつながり始めている。
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王宮。
会議室。
文官が
報告を読む。
「……軽微な
遅延が
各所で」
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「……原因は」
「……確認中です」
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誰も、
慌てない。
慌てる理由が
ない。
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「……対処は」
「……現場に
任せています」
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その一文が、
この国を
止めた。
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現場には、
任される訓練を
受けていない
人間しか
いなかった。
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私邸。
報告を
まとめて読む。
(……連鎖している)
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これは、
反乱ではない。
誰も、
命令に
逆らっていない。
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ただ――
命令の外側で
動かない。
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それは、
教育の
成果だった。
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沈黙を
教えた。
配慮を
教えた。
判断を
委ねる先を
固定した。
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その結果――
判断そのものが
消えた。
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夜。
街灯が、
一部
消える。
管理担当が、
出てこない。
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「……誰が
直す」
「……指示待ちだ」
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闇は、
静かに
広がる。
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翌朝。
新聞。
一部地域で
業務遅延
原因不明
原因は、
ある。
だが――
誰も
責任を
引き受けない。
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王宮。
王族が
初めて
眉をひそめる。
「……国が、
遅い」
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「……反乱か」
誰かが
言う。
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「……いいえ」
文官が
答える。
「……静かすぎます」
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沈黙。
それが、
問題だと
理解され始める。
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「……どう止める」
王族が
問う。
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誰も、
答えられない。
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止める方法は、
武力だ。
だが――
敵がいない。
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説得だ。
だが――
問いを
許していない。
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命令だ。
だが――
命令を
選べない。
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私邸に戻る。
机の上に、
あのメモ。
最初の質問
答えない
という答え
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(……代償だ)
答えなかった。
その結果――
誰も
答えなくなった。
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窓の外。
王都は、
まだ
静かだ。
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だが、
この静けさは
平和ではない。
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機能停止の
前兆だ。
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理解した。
次に必要なのは、
命令ではない。
問いでもない。
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「選べ」と
言うことだ。
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だが――
それは、
これまで
否定してきた
全てを
壊す。
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次に来るのは、
この国で
最も
危険な言葉。
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「自分で
決めろ」
チョークシリーズは他の先生の物語もありますのでよろしければご覧ください。




