第43話 沈黙を教える
43話です。
それは、
新しい禁止ではなかった。
新しい美徳だった。
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学院の朝礼。
教師は、
いつもより
穏やかな声で
語りかける。
「……今日は、
大切なことを
学びます」
子供たちは、
姿勢を正す。
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黒板に、
一つの言葉が
書かれる。
配慮
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「……配慮とは、
相手を
思いやることです」
教師は、
微笑む。
「……自分の疑問が、
周りを
混乱させることも
あります」
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子供たちは、
黙って聞く。
反応は、
正しい。
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「……質問を
我慢することも、
配慮です」
その一文が、
静かに
落ちる。
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「……すぐに
聞かず、
考えてみましょう」
「……考えても
分からなければ、
それは
今は
知らなくて
いいことかも
しれません」
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誰も、
否定しない。
否定する理由が
ない。
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「……社会は、
皆で
作るものです」
「……一人の疑問より、
皆の安定が
大切な時も
あります」
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子供の一人が、
手を挙げかける。
途中で、
止める。
周囲を見る。
下ろす。
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教師は、
それを
見逃さない。
だが――
止めない。
正しい行動だからだ。
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授業が進む。
質問は、
出ない。
代わりに、
「理解しました」が
増える。
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午後。
新しい評価項目。
協調性
配慮力
沈黙耐性
数値化される。
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「……沈黙耐性とは、
不安な状況でも
落ち着いて
待てる力です」
教師は、
説明する。
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実習。
答えのない問題が
出される。
子供たちは、
考える。
だが――
書かない。
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「……分からない時は、
無理に
答えなくて
いいですよ」
その言葉に、
安堵が
広がる。
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(……優しい)
誰も、
追い詰められない。
誰も、
否定されない。
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放課後。
教師同士の
打ち合わせ。
「……最近、
教室が
とても
静かです」
「……集中力が
上がっていますね」
「……問題行動も
減りました」
称賛。
成功。
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報告書。
「質問件数:ゼロ」
「授業満足度:高」
完璧だ。
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夕方。
例の子が、
机を拭いている。
動きは、
丁寧だ。
目は、
下。
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教師が、
声をかける。
「……何か
聞きたいことは」
子は、
一瞬だけ
止まる。
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周囲を見る。
誰も、
見ていない。
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「……ありません」
そう答える。
声は、
穏やか。
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教師は、
満足する。
「……えらいですね」
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子は、
頷く。
だが――
その指が、
机の縁を
強く
握っている。
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夜。
私邸。
新教育方針の
成果報告。
「……混乱なし」
「……秩序維持」
「……全国展開可能」
王族の評価は、
高い。
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「……素晴らしい」
「……静かな国だ」
「……争いの
芽がない」
芽。
それは、
抜かれた。
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窓の外。
学院の灯りが
消えていく。
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理解している。
これは、
抑圧ではない。
訓練だ。
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沈黙を、
選べるように
する。
問いを、
持たない自由を
与える。
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だが――
自由とは、
選べることだ。
選ばないことを
教え続ければ、
選ぶ筋肉は
萎える。
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あの子は、
今日も
質問しなかった。
褒められた。
評価も、
上がった。
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そして、
学んだ。
黙ることは、
安全だと。
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だが――
安全は、
永遠ではない。
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次に来るのは、
反抗ではない。
質問でもない。
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選ばない選択。
命令にも、
問いにも
従わない。
ただ、
動かない。
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それが、
制度にとって
最も厄介な
存在だった。
チョークシリーズは、他の先生の物語もありますので、よろしければご覧ください。




