第42話 答えてはいけない質問
42話です。
答えは、
あった。
だからこそ――
言えなかった。
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朝。
王宮の執務室は、
静かだった。
机の上に、
昨日の報告。
「質問件数:ゼロ」
完璧な数字。
だが、
自分だけが
嘘だと知っている。
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扉が、
叩かれる。
「……閣下」
学院長だった。
顔色は、
変わらない。
だが――
呼吸が、
少し浅い。
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「……例の件です」
短い言葉。
それで、
十分だった。
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「……子供は」
「……落ち着いています」
「……再発は」
「……ありません」
報告は、
模範的だ。
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「……対応案を
持ってきました」
学院長が、
紙を差し出す。
そこには、
三つの案。
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一:記録抹消
質問は、
なかったことにする。
二:再教育
子を、
「適切な理解」に
導く。
三:制度改訂
質問が出ない
仕組みを
強化する。
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どれも、
合理的だ。
どれも、
正しい。
(……全部、
殺す)
問いを。
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「……君なら、
どれを選ぶ」
そう聞かれたら、
以前の自分は
即答した。
だが――
今は、
違う。
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「……三だ」
声が、
思ったより
低く出た。
学院長は、
驚かない。
「……予想通りです」
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「……個別対応は、
例外を
作ります」
「……例外は、
次の質問を
呼ぶ」
自分の声が、
他人のものの
ように聞こえる。
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「……制度として
処理します」
「……質問が
生まれない
形に」
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学院長は、
深く頷く。
「……新指導要領、
準備済みです」
速い。
速すぎる。
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午後。
非公開会合。
教師たちが、
集められる。
皆、
優秀だ。
皆、
善意だ。
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「……最近、
質問が
出ました」
ざわめき。
だが、
恐怖ではない。
不安だ。
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「……質問は、
成長の証だと
教えられてきました」
そう前置きしてから、
続ける。
「……しかし」
一拍。
「……判断を
誤らせる
質問もあります」
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誰も、
反論しない。
反論できない。
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「……今後は」
黒板に、
新しい文言。
「理解確認」
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「……質問ではなく、
理解確認を
行ってください」
「……問いは、
導くものではなく、
確認するものです」
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教師の一人が、
小さく聞く。
「……もし、
それでも
問いが出たら」
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答えは、
用意してある。
「……即座に
個別対応へ」
「……場で
扱わない」
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それは、
排除ではない。
隔離だ。
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会合は、
静かに終わる。
誰も、
異議を唱えない。
善意のまま。
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夕方。
学院。
例の子が、
席に座っている。
姿勢は、
正しい。
目は、
前。
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教師が、
問いかける。
「……分かりましたか」
子供たちは、
一斉に頷く。
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例の子も、
頷く。
だが――
一瞬だけ、
こちらを見る。
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その目に、
問いはない。
あるのは、
待機だ。
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(……賢い)
そして、
危険だ。
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夜。
私邸。
机の引き出しを
開ける。
昨日のメモ。
最初の質問
消すか
残すか
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紙を、
裏返す。
新しい一行を
書き足す。
答えない
という答え
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それで、
制度は
守られる。
家名も、
国も。
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だが――
理解している。
問いは、
死なない。
場所を変えるだけだ。
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あの子は、
もう
質問しない。
だが――
考えている。
考えることを、
誰にも
見せない形で。
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それは、
反乱より
危険だ。
なぜなら――
数字に
ならない。
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翌朝。
新指導要領、
正式公布。
「質問の整理」
「理解確認の徹底」
称賛の声。
「……洗練された」
「……混乱がない」
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完璧だ。
あまりに。
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窓の外。
学院の子供たちが、
整列して歩く。
誰も、
列を外れない。
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だが――
その中に、
列の意味を
考えている目が
確かにあった。
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それを、
見逃さなかった。
だから――
分かっている。
次に来るのは、
質問ではない。
選択だ。
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問いを
持たない世代が、
初めて
何かを
選ぶとき。
世界は、
静かに壊れる。
チョークには別の先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。




