第41話 質問する子
41話です。
それは、
偶然だった。
授業でも、
会議でもない。
ただの、
廊下だ。
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学院の午後。
授業と授業の
合間。
子供たちは、
列になって
移動している。
静かで、
整然としている。
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教師が、
歩調を緩めた
その瞬間。
一人の子が、
列から
半歩だけ
外れた。
半歩。
それだけで、
目立つ。
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「……どうしました」
教師が、
優しく声をかける。
子は、
少し考える。
考えてから、
口を開いた。
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「……なぜ」
その一言で、
空気が
止まった。
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「……なぜ、
順番を
決めないと
いけないんですか」
声は、
小さい。
だが――
はっきりと
自分の言葉だった。
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教師は、
すぐに
答えられなかった。
教本を、
思い出す。
そこには、
答えが
書いてある。
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「……秩序のためです」
ようやく
そう言う。
だが――
子は、
頷かない。
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「……でも」
続く。
「……決まりが
ない時も、
あります」
教師の指が、
わずかに
強張る。
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「……その時は、
話し合います」
そう答える。
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「……でも」
子は、
言葉を重ねる。
「……話し合う
決まりは、
誰が
決めましたか」
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沈黙。
廊下に、
音がない。
他の子供たちが、
息を止めている。
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教師は、
笑顔を保つ。
「……それは、
昔の人たちです」
安全な答え。
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「……じゃあ」
子は、
一歩だけ
前に出る。
「……今の人が
変えちゃ
だめですか」
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その瞬間。
教師は、
理解した。
これは質問ではない。
判断要求だ。
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「……列に戻りましょう」
教師は、
声を低くする。
「……後で、
個別に
話します」
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子は、
戻る。
素直に。
だが――
目は、
下げていない。
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授業は、
何事もなく
進む。
答えは、
揃っている。
質問は、
出ない。
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放課後。
学院長室。
教師は、
短く報告する。
「……質問が
ありました」
学院長は、
眉を動かさない。
「……内容は」
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教師は、
正確に
再現する。
一語も
省かず。
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学院長は、
静かに
頷く。
「……よく
対処しました」
「……答えなくて
正解です」
答えない。
それが、
正解。
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「……記録は」
「……残しません」
即答。
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その夜。
私邸。
学院長からの
非公式報告が
届く。
短い文。
子供が
質問を
しました
適切に
対処済み
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紙を、
じっと見る。
(……来たな)
予想していた。
だが――
思っていたより
早い。
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質問の内容は、
危険ではない。
王家を
批判した
わけでもない。
制度を
否定した
わけでもない。
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ただ、
判断の所在を
聞いただけだ。
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それが、
一番危険だ。
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窓の外。
学院の灯りは、
すべて消えている。
静かだ。
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思い出す。
自分が、
最初に
世界を
揺らした時。
それも、
問いだった。
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(……消すか)
考える。
子を。
問いを。
制度を守るために。
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だが――
すぐに
答えが出ない。
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翌朝。
王宮から、
次の通達。
「模範家名
教育成果報告」
「質疑件数
ゼロ」
完璧だ。
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だが、
自分は知っている。
ゼロではない。
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机の引き出しに、
小さな紙を入れる。
自分だけの
メモ。
最初の質問
消すか
残すか
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それは、
これまでで
一番重い
選択だった。
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次に来るのは、
避けられない。
答えてはいけない
質問に、
自分が
向き合う番だ。
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