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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革鉱山工業編〜』  作者: くろめがね


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第4話 最初の切り捨て

4話です

「……時間だ」


自分の声が、思った以上に低く響いた。


坑道の闇は、もう静かではない。

呼吸の音が、確実に乱れている。


眠気ではない。

諦めが混じった呼吸だ。


「次の交代で、動けるやつを二人、前に出す」


「……前って、どこだ……?」


「瓦礫の手前だ」


短く答えた。


「死体の位置を確認する。

 触るのは、二人だけ」


沈黙。


「……無理だ……」


誰かが言った。


「さっきの……

 頭、潰れたやつ……」


「だからだ」


声に感情を入れない。


「位置を把握しないと、次が決められない」


「次……?」


「次に、誰を諦めるかだ」


空気が、凍る。


「やめろ……」


誰かが、絞り出すように言った。


「……もう、十分だろ……

 誰か死んだ……」


(違う)


だが、否定はしない。


「足りない」


それだけ言った。


「ここは、全員が生き残れる場所じゃない」


現実を、言葉に落とす。


「……行く」


低い声。


「俺、動ける」


一人が、瓦礫を擦る音を立てて前に出た。


続いて、もう一人。


二人とも、若い。

息は荒いが、足取りはまだ保っている。


「いい」


「……何を、すれば……」


「見るだけだ」


自分は続けた。


「触るな。

 動かすな。

 確認したら、戻れ」


二人は、闇の中へ進んだ。


音が、遠ざかる。


――しばらくして。


「……先生」


声が、戻ってきた。


「……胴体だけ、残ってる……」


「位置は」


「……通路の中央……

 横は……通れそうに、ねぇ……」


「分かった」


頭の中で、図を描く。


通路の幅。

瓦礫の量。

人が通れる隙間。


(……どかすには、三人)

(時間、十五分以上)

(その間に、二人は落ちる)


計算が、勝手に進む。


「戻れ」


二人が戻る音。


誰も、声を出さない。


「……決める」


そう言った。


「時間がない」


一拍。


「今、動けない五人のうち、

 一人を、ここに残す」


「……殺すのか……」


誰かが、掠れた声で言った。


「見捨てる」


言い換えただけだ。

意味は同じ。


「……誰だ……」


答えは、もうある。


「腹を刺されてるやつ」


指を動かした音が、弱く返ってきた。


「……俺か……」


声は、驚いていなかった。


「……先生……

 俺、さっきから……

 寒くて……」


ショック症状。

出血多量。


(持たない)


「……聞け」


声を、少しだけ低くする。


「今、誰かがここに残れば、

 他が通れる」


「……分かってる……」


男は、息を整えようとした。


「……最初から……

 俺は、助からねぇって……

 分かってた……」


誰かが、泣き出した。


「……やめろ……」


「……行こう……」


男は、そう言った。


「……動けるうちに……

 置いてけ……」


空気が、重くなる。


「……お前……」


誰かが、声を荒げかけた。


「……ありがとう……」


男は、続けた。


「……俺を……

 数に、入れてくれて……」


その言葉で、

胸の奥が、嫌な形で鳴った。


(……数)


自分が、使い始めた言葉だ。


「……分かった」


短く言った。


「順番を守れ」


二人が、前に出る。


男の体を、慎重に引きずる音。


「……先生……」


男が、最後に言った。


「……間違っても……

 俺の名前……

 忘れんな……」


返事は、できなかった。


瓦礫の向こうに、

男の呼吸が、遠ざかる。


そして――

聞こえなくなった。


「……進め」


そう言った。


通路に、隙間ができる。


人が、一人ずつ、通る。


誰も、後ろを見ない。


見る必要が、ない。


見れば、

次が、揺らぐ。


最後の一人が、通り終えたとき。


坑道の中に残ったのは、

数字が一つ、減った現実だけだった。


十二。

十一。


「……先生……」


誰かが、震える声で言った。


「……俺たち……

 もう……」


続きを、言わせなかった。


「進め」


言葉は、短く。


「生きる順番は、

 もう、始まってる」


坑道の闇の中で、

教育は、取り返しのつかない段階に入った。


誤字脱字はお許しください。

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